SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

WGSNが予知する1年後

【前編】もっともっと“都合のいい”世界へ。業界の住人として知っておきたい、トークンが変える未来

DAOの後押しなど、デモクラタイズ(民主化)が進む動き

 多くの人がロックダウンの間に夢中になった動画ストリーミング配信サービスですが、現在は消費者の関心の低下を受け、競争が激化しています。そのため、ストリーミングサービスを終了し、将来性のあるWeb3.0技術の開発に軸足を移すエンターテインメントネットワークも目に付くようになりました。そして、そこでのメインアクターは視聴者だといわれています。

 Web3.0の特徴である分散型の意思決定システムによって、ファンたちがエンターテインメントに資金を投じたり、報酬を受け取ったり、番組のストーリーを投票形式で決めたりと、参加者が「プロジェクトをその一員(オーナー)として動かす」といった企画自体はそれほど珍しくはありません。視聴者が「物語の行方を決められる」エンターテインメント作品であれば、すでに4年以上前の2018年12月、Netflixがコンテンツを視聴しながらボタンをクリックして選択肢を選び、物語の方向性を決めていくインタラクティブなドラマ『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』を配信していました。

 とはいえ、このようなスタイルのコンテンツにNFTが用いられるようになったという点、作り手と視聴者を巡る状況に新たな展開が生まれたという点が、現時点との相応な違いだと言えます。

 なぜなら、このようなオーナーシップエコノミーはDAO(分散型自律組織)を後押しする原動力になるからです。

 DAOは映画やテレビ制作のルールを書き換え、出演者、物語、結末を決める際にコミュニティメンバーがコインを使って投票するような仕組みを生み出すことを可能にします。従来の序列型の企業組織とは異なり、ブロックチェーン上のスマートコントラクトに定められたコミュニティガイドラインに沿って運営され、コインを所有している参加者は誰でも組織の意思決定を行う投票権を得ることができる、民主的なアプローチです。意思決定といった権利の分配がなされてできあがる作品は民主的でデモクラタイズされている、と捉えられます。これについては、本記事の最後のページでNFTを用いて行われている様々なアプローチの例をご紹介していますので、ぜひ具体的なイメージを掴んでいただければと思います。

まだまだ未整備の領域も多い。NFTの難しさ

 メタバースの世界はある意味、整備されていない荒野です。今回、基本的にはエキサイティングな動きを中心にNFTの活用例をご紹介していますが、まだまだ手付かずの問題がありますので、少し触れておきます。

 ひとつは、法整備の問題です。俳優のSeth Greenが、自身の所有するBAYCのNFTをWhite Horse Tavernというタイトルのテレビ番組プロジェクトに出演させたのですが、そのNFTがデジタルウォレットから盗まれ、利用できなくなってしまったことがありました。番組の計画が一時頓挫する事態に陥ったのです。その後、彼は盗まれたキャラクターを取り戻しましたが、デジタル空間で問題が生じたときの解決方法は法律のように定まってはいません

 また、“荒野”であるがゆえに、商用利用したいNFT保有者とそれを起用したい企業が存在するにも関わらず、ビジネスとして成立させる手法が確立していないという課題もあります。もちろんうまく結びついた例もありますが、双方、相手への接触方法がわからない、という歯がゆい状況がまだまだあるようで、これはサービスの提供が待たれるところです。

Web3.0テクノロジーが確実に変えていく未来

 そのような困難はあるものの、Web3.0テクノロジーはマスカルチャーの在り方を変え、映画製作者、クリエイター、ファンの役割を書き換えつつあります。インフレと不安定な経済状況が2022年のNFT市場に影響を及ぼし、先行きへの懸念が高まっていますが、他方で多くのクリエイターたちはNFTを活用してハリウッドを変え、デモクラタイズの波を映画制作の場にもたらそうとしています。

 NFTを使うことで制作側の一大課題である資金調達を解決しながら、視聴側の思いを反映させ、より強いエンゲージメントを生み出すことができる。つまり、双方の利益にかなうWIN-WINの関係をもたらし、これまで存在していた、制作サイドとオーディエンスの分断を取り除くことができるのです。

 実際、NFTによってエンターテインメント業界でコンテンツを制作するにあたっての資金調達の方法が変わり、作品のオーナーシップであったり、IPの所有権が参加者に帰属するような状況が次々実現し、それを受けて教育の現場での「NFTの活用」を教える時代になっています。これから業界を担う人々がNFTの活用を推進していくであろうことは想像に難くありません。

 後編では、この資金調達の方法の変化とそれに伴うエンターテインメント業界で民主化、つまり作品を巡る権利の移譲(分配)が進んでいる状況について、さらに事例とともに考えてみたいと思います。

次のページ
【参照】NFTによるストーリーへの関与の例

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
WGSNが予知する1年後連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

浅沼 小優(アサヌマ コユウ)

伊藤忠ファッションシステム株式会社 ifs未来研究所 上席研究員 大手住宅メーカー、米国でのインテリアディスプレイデザイナー、バイヤー業務を経て、帰国後LVMHグループ、ロエベ他にてマーケティング、マーチャンダイジングを担当。デザイン予測を提供する英国WGSN日本統括を経て、2019年より現職。W...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2023/01/13 15:01 https://markezine.jp/article/detail/40717

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング