25年を経て劇的に変わるエンターテインメント業界
およそ四半世紀前、限られた発信者とそれ以外の受け手というWeb1.0の時代のエンターテインメントがあり、その次に双方向で大量の情報のやり取りが可能なWeb2.0の時代がやってきました。オンデマンド型の配信サービスはまだまだ続いていますが、ちょうどコロナの時代がやってきたころから、コミュニティが管理する分散型のWeb3.0の世界が少しずつ可視化されるようになりました。
Web3.0の大部分にはブロックチェーン技術が用いられます。つまり、管理体制が変わるということです。すでに、これをベースにした仮想通貨、NFTなどのツールが次々と登場していますが、メディアやエンターテインメント業界も影響を受けていきます。Web3.0では、ファンと新たな関係が構築され、所有権が分配され、コンテンツの共同制作が可能になると言われています。ユーザーとプラットフォームの力関係に変化をもたらし、私たちの知るエンターテインメントやメディアの意義が変わるかもしれません。
本稿では、インターネットの発展とともに起こっているエンターテイメント業界の変化を、前回に続いて見ていきたいと思います。
権力構造を変える試みとしてのNFT
インターネットのWeb3.0時代が到来することで、コミュニティが力を持ち、資金を出せば誰でも意思決定に参加でき、これまで少数のエリートだけに与えられていた権利を手にすることができるようになるとも考えられます。
映画プロデューサーのNiels Juulは2021年にNFT Studiosを立ち上げ、映画第1作目の資金として「A Wing and a Prayer」と呼ばれるNFTを作成し、1千万ドルを集めました。このスタジオは映画制作の“民主化”を目指して、「KinoDAO」という名のDAOを設立。NFTは今後の映画制作の資金調達に活用され、NFTのレベルに合わせて映画に出演したり、公開初日に観覧できたり、エンドクレジットに名前を表示したりする特典を所有者に提供していく予定です。
また、Web2.0のメディア企業も積極的にWeb3.0をビジネスに取り入れています。Web3.0プラットフォームでオリジナルのキャラクターIPを開発するエンターテインメント企業Invisible Universeは、キャラクターIPをSNSスターに押し上げるメタバースのPixar的な存在です。有名人やインフルエンサーのアイデアをもとに彼らとタッグを組むパターンが主流ですが、この企業はSerena Williamsとコラボして、彼女の娘が持つ人形をバーチャルインフルエンサーへと転換するなど活発に活動を展開しています。
このほかにも、世界では数々の多様な新しい動きが出てきています。前回の記事同様、ご紹介できる限りの事例を最後のページに載せています。どの事例もNFTの取得によって個人が制作に関われる、利潤を得られる、リワードによる楽しみが増えるといった視点で見ることができます。あるいは、制作側の資金を広く募ることができる、といった利点も見逃せません。ですが、この動きには社会的な意味がありそうです。
実際のところ、これらのプロジェクトがそれぞれ長期的に成功するかどうかは未知数です。しかし、映画の資金や人材を集める方法としてこのような新しい形態が生まれているということ。クリエイターたちがハリウッドの映画業界で長く続いた慣習を覆し、権力集中から民主的なコンテンツづくりへの移行を求めているということ。そして、それが現実に成立しつつあるということが重要なのです。