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WGSNが予知する1年後

【後編】格差や権力、物理的制約をも超え、エンタメ業界は新時代へ。NFTがもたらす真価

音楽業界が示す社会問題解決の緒

 Web3.0の台頭は音楽業界にももちろん変化を起こしています。他の業界同様、クリエイターが報われない、男女格差が大きいといった問題を抱えていますが、Web3.0の時代だからこそ可能になるファンやミュージシャンへのリワード、分配のシステム、レーベルとリスターの関係の見直しにより、長年抱えてきた社会問題の解決を始めています。

 音楽業界は社会的な課題が表面化しやすいのかもしれません。アーティストやクリエイターへの報酬の仕組み、著作権、人種差別や男女の報酬格差など、多くの問題を抱える現在のシステムに代わって、今よりもっといい方法があるのでは、という思いがWeb3.0、ニアリーイコールNFTがカギを握る世界、に結集してきたようにも思います。

 たとえば、業界関係者は圧倒的に男性が多く、女性クリエイターは1.6%と少ない状況で、そのために生じる情報、知識の差や男女格差を埋めようという動きがあります。2022年4月、ミュージシャンのAshantiは、EQ Exchangeと提携してWeb3.0企業初の黒人女性共同創設者となりました。彼女は自身が所有権を持っていなかったデビューアルバムを20年ぶりに再レコーディングしてNFTで発売し、作品が転売される度にロイヤルティを受け取れるようになりました。アーティストが自分の制作した楽曲の所有権を得られるような道を自ら開いたのです。

 このほか、Royalは、ミュージシャンたちが自由に音楽を制作し、NFTのリワードをファンたちに提供することで、アーティストたちの人気が高まるにつれて経済的な利益が生まれるような仕組み作りを推進しています。このプラットフォームでは、リスナーとクリエイターが「楽曲の所有権を共同で保有」し、特別なトークンに出資したファンとアーティストがそのロイヤルティを分け合えるようにもなっており、The Chainsmokers、Nas、Diploなどのアーティストたちがすでにこのプラットフォームを利用しています。

 このように、音楽業界では他のエンターテインメントと連動するように、単なる収入源からリワードプログラムへと進化し、その分配を行うための新たなプラットフォームとしてのNFTが注目されています。ロイヤリティやストリーミングで得られた報酬は、その後の様々なプロジェクトに使われているようです。

未来を想像し、もっともっと都合のいい世界を描く

 個々人にとって幸せな空間、時間、状況とは一体どのようなものだろうか?と考えることは今の社会にある問題を掘り起こしたり、直視したりすることと背中合わせの作業です。そして、変化を可能にするのは分配の仕組みです。NFTが特定の箇所に集まっていた権利を解体する役割を担うとすると、これは単なるリワードシステムを超えた手法なのです。

 前編でご紹介した、未来に向かっての考慮すべき社会の動きは、私たちにとって、もっともっと都合のよい世界を作るために考えておきたい事項とも言い換えられます。私たちのコミュニティを立て直すためにクリエイティブな人々、マイノリティをきちんとケアすること、そして住み続けられる地球を維持するためにライフスタイルを変える=デジタルテクノロジーによって物理的空間から解放される時間を個人や社会にとってより幸せなものにすること。また、物理的距離の制約を超えて、問題解決のための人が集まり、解決策を議論し、それに必要な資金を調達することも、Web3.0時代やNFTの使い方を考えることで同時に検討していくことになります。

 もちろん、バーチャルな世界がもたらすデメリットを最大限に回避していく必要があり、それはあらためて一つのテーマとなるほど大きな課題ではありますが、そのリスクを意識しながらも、変化する世界におけるマーケティングストラテジーを設計することは、業界の住人としてワクワクするような動きではないでしょうか。

 先行き不透明で、不安定な基盤の上で、抜き差しならないことばかりが起こる時代。一寸先はむむむ、という日々を生きるわたしたちですが、新しい年の始まりは「もっとこうだったらいい!」を、具体的にどんどん思い描く時です。

未来を考える時の2大トピック

 冒頭の岡嶋教授は、メタバースについて、「都合のよい」空間を求めてできてきた場所、という表現をされました。「都合」というと一般的には自分勝手なニュアンスがありますが、他者に理不尽な思いを強いることなく、という大前提をおさえた上であれば、より楽しく、より心地よい場所で幸せな時間を過ごしたい、と願うのはごく当然のことです。

 それから、教授からは、メタバースが「(それぞれの人にとって)都合のいい世界を求めることが許容される空間として理解されると、これまでゲームやアニメで鍛え上げてきた日本の力量が発揮されるだろう」という、励まされるようなメッセージもありました。

 一見、自分勝手にも聞こえる、「都合のよい」状況を、「個人にも、社会にも都合のよい世界」とはどんな姿だろうか、と言い換えて想像してみる時、NFTがそれをもたらしてくれるトークンとしてその真価を発揮してくれるのではないでしょうか。

 前後編で、Web3.0時代によりよい世界の実現のために活用できる可能性を秘めたNFTの事例などをお届けしましたが、未来を考える時、必ず「デジタル」と「サステナビリティ」というキーワードが紐づいてきます

 デジタルという世界がインスパイアする意匠(クリエイション)、デジタルプラットフォームを活用したコミュニケーションがますます活用されていくことは言うまでもありません。どのようにデジタル世界や技術と付き合い、そこで時間を使い、社会と個々人の生活をスムースに連動したり整えたりできるか、と考えていくことが、今後求められるサービスやプロダクトをデザインしていくことに直結していくと確信しています。

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【参照】Web3.0時代と共に出てきた、エンタメ業界のプロジェクト

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この記事の著者

浅沼 小優(アサヌマ コユウ)

伊藤忠ファッションシステム株式会社 ifs未来研究所 上席研究員 大手住宅メーカー、米国でのインテリアディスプレイデザイナー、バイヤー業務を経て、帰国後LVMHグループ、ロエベ他にてマーケティング、マーチャンダイジングを担当。デザイン予測を提供する英国WGSN日本統括を経て、2019年より現職。W...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/01/16 09:31 https://markezine.jp/article/detail/40718

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