SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

新着記事一覧を見る

おすすめのイベント

おすすめの講座

おすすめのウェビナー

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第107号(2024年11月号)
特集「進むAI活用、その影響とは?」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

MarkeZine Day 2022 Retail(AD)

わずか半年で2万人以上が視聴 ミルボンが売上とエンゲージメントを向上させたライブコマース活用

 ライブコマースはもはや、購買を促すだけの手段ではない。顧客のエンゲージメントを向上させ、ロイヤルカスタマーを醸成する一助となり得るものだ。11月17日開催の「MarkeZine Day 2022 Retail」では、ミルボンでいち早くライブコマースを推進してきた蓑原弘樹氏が登壇。アイレップの恩地紗代子氏とともに、ライブコマース成功の軸となる購買体験の心地よさや演出、配信者育成について紐解いた。

「視聴後に約9割の顧客が態度変容」ライブコマースの現況

 改めてライブコマースとは、ライブ配信をしながらリアルタイムに視聴者のコメントに対応し、商品やサービスの魅力を伝えていく新しいコマースの形だ。「『コメントを通して双方向のコミュニケーションができること』が、特に重要なポイントです」と恩地氏は切り出し、国内においてライブコマースが広まった経緯と昨今期待されている役割に触れた。

株式会社アイレップ インタラクティブデザインUnit クリエイティブプロデューサー/ライブ系ソリューション推進チーム「TAKE ZERO」 プロジェクトマネージャー 恩地紗代子氏
株式会社アイレップ インタラクティブデザインUnit クリエイティブプロデューサー/ライブ系ソリューション推進チーム「TAKE ZERO」プロジェクトマネージャー 恩地紗代子氏

 ライブコマースは2017年頃に中国で話題となり日本でも見かけるようになったが、あまり浸透しなかった。しかし2020年、コロナ禍において顧客接点が失われたのをきっかけに、店頭接客の置き換えとして、積極的に取り組む企業が増えてきた。

 2022年4~5月に、Twitterの『ライブショッピング機能』やLINEの『LIVEBUY(ライブバイ)」が立て続けにローンチされるなど、SNSプラットフォーマーが参入。これにより、単純な売上だけをKPIに置くのではなく、SNSにおけるエンゲージメント向上を含め、コミュニティ創造やソーシャルコマースとして全体を設計していく考え方が広まったという。

 では、エンゲージメントを高める役割においてライブコマースの購買体験はどのような可能性を持つのだろうか。恩地氏はライブコマースの「機能拡張性」に着目している。

 「たとえばECサイトは顧客に商品のスペックを伝えることにおいて非常に便利ですが、ライブコマースは、ECサイトで伝えきるのが難しいテクスチャーや香り、配信者のおすすめの使い方など、情緒的な部分でその機能を拡張できます」(恩地氏)

 機能拡張性は情緒的な情報の伝達にとどまらない。テレビ通販は一方通行だが、ライブコマースではコメントを通してインタラクティブ性が拡張できる。また、ライブコマースでは1対複数で、多くの顧客に対峙するアプローチも可能だ。実際の店舗では、商品の魅力やおすすめポイントなど、時間をかけて丁寧に説明する接客が難しい場合もある。しかし1対複数で発信することで、店頭では不可能なリッチな接客体験を提供でき、顧客にとってより納得感のある心地良い購買体験を生むことが可能だ。

 「弊社の調査では『ライブコマースの視聴を通して、ブランドに対する好意形成、商品理解、購入意向など、好意的な態度変容を起こす顧客が約9割』という結果が出ています」(恩地氏)

ライブコマースの演出「セレンディピティ型」と「セレクト型」

 次に恩地氏は、ライブコマースの演出における傾向を解説した。大きく『セレンディピティ型』と『セレクト型』の2つに分けて説明する。

 セレンディピティ型は、認知・興味関心のフェーズにある視聴者にとって、ライブコマースの視聴が商品との「幸運な偶然の出会い」となるように、徐々に関心を持ってもらい、購入意向を高めていくための演出だ。実店舗内を回遊して検討する通常のショッピング体験に近く、配信中に視聴者が「この商品が気になる」とコメントすると、配信者が商品を見せながら紹介していく。

 一方セレクト型とは、丁寧な接客で新商品やピックアップしたいおすすめ商品への理解を促すことができる演出方法のこと。「ライブコマース全体でみると、セレクト型配信の方が一般的。詳しく商品情報を知ることで、関心が高まっていくことがある」と恩地氏はいう。『本当に自分に合っているのか』といった最終確認をしたい顧客が、商品理解を深める接客体験を求めて視聴するのがセレクト型だ。

 なお、これらの型を問わず、視聴後に商品を改めて確かめてから購入に至る顧客の動線がライブコマース全般に見られる。視聴時に「これ」と思った商品を店頭接客やカウンセリングで確かめたり、試着したりしてから納得して買うのだという。

 「全員が視聴時に購入まで行かなくても、興味関心から比較検討のフェーズへ、比較検討から購入のフェーズへと一歩先に進めることが、ライブコマースの役割です」(恩地氏)

BtoBtoCのミルボンがEC+ライブコマースに挑戦した狙い

 続いて、ミルボンの取り組みについて蓑原氏が解説した。ミルボンは、ヘアカラー剤やシャンプーなどを中心としたヘアケア商材を販売している、美容室専売品の総合メーカーだ。

株式会社ミルボン 経営戦略部ブランド戦略グループDX企画推進室 マネージャー 蓑原弘樹氏
株式会社ミルボン 経営戦略部ブランド戦略グループDX企画推進室 マネージャー 蓑原弘樹氏

 前述の通り、ミルボンの商品は基本的に美容室専売品であり、流通は共同パートナーである販売代理店の協力を得ている。BtoBtoCモデルのビジネスを行う同社が、なぜライブコマースに注力しているのか。背景として蓑原氏が触れたのは、美容室に来店した顧客向けの公式オンラインショッピングサービスを展開している『milbon:iD』だ。

 同サービスは、美容室がプラットフォーム上に出店し、会員登録した顧客が購入できる仕組み。2022年11月現在、契約美容室は約4500軒。顧客はこれらの美容室で対面カウンセリング、または髪質の触診や視診を受けることで、会員に登録できる。すでに約36万人が会員登録しており、「100万人超え計画」を掲げて進行中だ。

 「そもそもECに取り組んだ背景は、美容室で商品を購入する習慣が少ないことでした。美容室への来店周期は定期的でも『自宅のシャンプーが切れるタイミングと合わない』『商品を買うためだけに美容室に行くのはハードルが高い』との声が非常に多かったのです。

 ライブコマースへの参入はmilbon:iDの魅力向上の手段として検討したのがきっかけになっています。ECで新たな接点を作ってリピート漏れを防ぐだけでなく、さらに『新たな買い場』から『購入体験の場』にしていく狙いでライブコマースへの取り組みを始めました」(蓑原氏)

「店舗体験のジレンマ」を双方向コミュニケーションで解消

 ミルボンのライブコマースは、milbon:iD会員限定の公式ライブショッピングサービス『LIVE SHOPPING by milbon:iD』としてスタート。会員だけが視聴と購入ができる仕組みだ。

 会員はそもそもリアル店舗の接点を持つはずだが、ライブコマースとの体験の大きな差はどこにあるのだろうか。

 「リアルの店頭販売は、美容師さんを通じて髪質の診断や相談、ヘアケアを実際に体験できる一番ホットな接点であり、定期来店をしてくれるところが長所です。ただ来店のタイミングには制限があります」(蓑原氏)

 顧客は来店のタイミングだけだと多くある商品のすべてを覚えられず、質問もしにくい。ライブコマースなら、顧客の生活時間の中で聞きたい時に聞くことができ、一定の商品に絞ってしっかりと時間をかけて知ることができる。また、コメントで質問も可能だ。リアルと違って途中参加や離脱が容易で、気軽にコメントでき、心理的ハードルが低いことも魅力となっている。

 ミルボンとしても、顧客と実際に話す機会はあまりなかった商品開発者らが、開発でこだわった点などを伝える機会にもなっているという。

 「お客様は、気になる商品があっても美容師さんに話を訊きにくいこともあります。美容師さん側もサロンワークが忙しい中では、商品の魅力を1時間かけて紹介できません。ライブコマースは双方向のコミュニケーションによってそのジレンマを解決でき、会話の先に購入体験が生まれる場となっています」(蓑原氏)

ライブ視聴者は計5,000名以上 休眠顧客も活性化

 ミルボンのライブコマース配信は月3~4回。ECチームや薬事、企画研究メンバーの協力を得ながらインハウスで実施している。

 「社内でたくさんの理解と協力を得ながら進めています。2022年の4月に開始して10月までの半年で20回ほど配信し、ライブ視聴者数は合計5,291名で、アーカイブを含むと2万名以上です。コメント率はそのうち2割弱で、35~40分の配信中に平均約17分のライブ視聴時間を記録しています。配信中の購入もありますし、ライブ後に美容室で購入する方もいて、非常に良い接点になっています」(蓑原氏)

 恩地氏によると、ライブの視聴時間は10分程度が一般的。ミルボンがエンゲージメントの非常に高い配信を実践していることがわかる。また、初のイベント配信では、ライブ視聴が約1,200名、流通額実績が1日約600万円に上った。「非常にエネルギーがあるコマースチャネルになってきています」と蓑原氏は力をこめる。

 ライブコマースの成果は既存顧客のエンゲージメントや購入促進にとどまらず、新規顧客や休眠顧客を活性化させるきっかけにもなっている。

 「お客様が今使っている商品のファンとして魅力をコメントしてくださり、また『頭皮用のトリートメントの付け方が初めてわかった』といったお声もいただきました。コメントに対するリアクションについても弊社の名物社員の返答がおもしろいと評価を得ています。

 弊社も美容師さんもユーザー様も、それぞれに愛着を深める機会につながり、エンゲージメント向上の大きな成果と捉えています」(蓑原氏)

 実店舗との連携においても、ライブコマースで背景を含めて商品を把握し、実際に店頭でカウンセリングを受けて自分に合うものを購入できるという理想的なフローで回っている。「店頭販売との相互性、補完性がある仕組みになっていくといいですね」と蓑原氏は話す。

演出のポイント6つと配信継続に不可欠なコマ―サー育成

 ミルボンのような成功は、どのような取り組みで再現性を出すことができるだろうか。同社のライブコマースの支援も手掛けたアイレップでは「SIRRAS(サイラス)」というライブコマースの演出フレームワークを提唱している。

 SIRRASは、ライブコマースのプログラム構成内に入れることで、エンゲージメントの高められる6つのポイントから成り立つ。という。

 フレームワークが示すように、ライブコマースにおいて演出とそのための構成は重要だが、恩地氏はこれに加え、継続的なライブコマース配信のために重要なのが「コマ―サー」の育成だと語る。

 コマ―サーはインフルエンサーとは異なり、商品を通して双方向的にコミュニケーションをとるスキルを持った、ライブコマースに特化した人材を指す。外部からアサインするのが「プロコマ―サー」、社員が実施するのが「インハウスコマ―サー」だ。

 ミルボンの事例が示すように、エンゲージメントが高まるライブコマースを継続的に配信するためには、社内の人材が自分たちの言葉で話していくインハウスコマ―サーがキーとなるという。恩地氏は最後に、育成におけるポイントとアイレップでの取り組みを伝えてセッションをまとめた。

 「普段から接客されているスタッフの方ならセールストークやお客様とのコミュニケーションのスキルはお待ちだと思います。ライブコマースに最適化して成果を出すにはそれにプラスしてSIRRASにあるようなポイントを押さえることが必要になります。

 アイレップでは講師による動画プログラムや現場でのワークショップを通じてインハウスコマ―サーの育成も支援しています。ご興味がある方はご相談ください」(恩地氏)

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
この記事の著者

那波 りよ(ナナミ リヨ)

フリーライター。塾講師・実務翻訳家・広告代理店勤務を経てフリーランスに。 取材・インタビュー記事を中心に関西で活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2023/01/18 10:00 https://markezine.jp/article/detail/40739