キャッシュレス決済の利用が高い
──60代以上でもスマホの利用が当たり前になってきているとのことですが、他の世代に比べて利用に特徴はありますか?
まずは、検索に使うことが多いですね。また、過去に利用したことのあるECサービスと、その利用率を調べてみると、20~70代の全体平均利用率と比較して、50代・60代の利用率は高いです。決してシニアのEC利用率が低いわけではないことがわかります。また、SNSの利用率も比較的高いです。
一方で、デジタルネイティブな世代に比較するとパソコンを利用していた時間が長いので、すべてをスマホで済ませるというよりも、パソコンと使い分ける傾向があります。また、EC黎明期から存在するいわゆる老舗サービスが選ばれやすく、アプリベースのサービス利用率は若い人に比べると低いです。
直近の動きとして注目すべき視点は、「キャッシュレス決済の利用率が高い」ことです。60代70代の約6割の人が、何らかのキャッシュレス決済を使ったことがあると回答しています。これは個人的な予想をはるかに超えていました。
キャッシュレス決済を加速させた大きな要因は、おそらくマイナンバーカードの普及です。国が積極的に進める中で、カード交付を行うとポイント付与されるというキャンペーンを打ち出しました。そのポイント付与の条件としてキャッシュレス決済の契約が必要となっており、これがキャッシュレス決済経験率の増加を後押ししたのではないかと思っています。ちなみにマイナンバーカードの普及率(交付枚数率)は、令和4年1月1日時点で全体が57%に対して60歳以上は軒並み6割を超えています。
「時間をかけたコミュニケーション」も重要
──若年層向けにはスマホを入口にしてコミュニケーションをとることに迷いはないと思いますが、シニア層とコミュニケーションをとる際に気をつけること、重視すべきことは何だとお考えでしょうか?
悩ましい問題です。デジタルは無視できませんが、シニア層へのコミュニケーションについては、従来のマスメディアといわれる、テレビや新聞、モノによってはチラシが当たるケースもあります。またシニアが信頼するメディアの上位もテレビや新聞が占めています。
企業も予算に限りがありますから、なかなかオンラインとオフラインのチャネルすべてに潤沢に投下するわけにはいきません。効果検証をしていきながら、コミュニケーションの方法を考えていくことが重要だと思います。
ひとつ言えるのは、インターネットでの検索は、70代前半まの人たちは普通に行っているので、この人たちが知りたい情報を提供すること、ホームページなど、コミュニケーションの導線を作ることはマストだと思います。その上で、メディア特性に応じたコミュニケーションの使い分けとか戦略を立てていくことが重要です。
また、情報があふれる中で、企業はいかにシニアに信頼してもらえるか、顧客との関係性をいかに継続していくかが重要です。そのためには、ライフタイムバリュー視点で関係性を築いていく意識を持たなければなりません。短期的なアテンションで顧客との関係性を構築しようとするアプローチでは長続きしないので、「あなたのことを理解していますよ」という態度でコミュニケーションを取ることがポイントになってきます。
たとえば、ある通販企業では、インターネットで注文できるけれども、高齢者女性の注文は電話が圧倒的に多い特徴があります。何か商品を買いたいと思ったときに、不安や疑問をメールではなくて、音声コミュニケーションを通じて解決したいというニーズがあるのです。そのときに相手が納得するまで丁寧に説明をしてあげることで、信頼を獲得できたりします。
また別の通販企業では、お客様ごとにテレフォンオペレーターが付くようになっています。このお客様には必ずこのオペレーターが対応するという形にすることで、「いつもの人が出る」という安心感をもたらすので、信頼感につながっていくと考えられます。
タイパという言葉に代表されるように、若年層を中心にコミュニケーションにも効率が求められる傾向が見られますが、シニア層においては時間をかけたコミュニケーションが求められるケースもあるわけです。
