マーケティングの要は顧客体験(CX)の設計です。このCX全体をクリエイティブの視点から解説したのが書籍『CXクリエイティブのつくり方』(翔泳社)。CXクリエイティブの出発点は届ける相手、つまり顧客を知ることにあります。今回は本書から、顧客を分析して理解する手法・施策を紹介します。本書ではCXクリエイティブが料理にたとえられて解説されているので、ぜひCXシェフの腕前にご注目ください。
届ける相手をみつめて献立全体をざっくり考える
早速ですが、CXクリエイティブをどのようにつくったらいいか、教えてください!
はじめに、どんな立場でCXクリエイティブをつくるとしても大切なことを伝えておきたい。ひとつ目、顧客体験の全体を俯瞰してみること。ふたつ目、人をみつめること。
CXクリエイティブは広告だけではなく「戦略」「サービス・商品」「コミュニケーション」全体を幅広く見ることがとても重要なんだ。誰かの悩みを解決するサービスを開発することから、商品を使い始めるときのひと押し、ブランドのファンになってもらい一人ひとりの暮らしをもっとワクワクさせることまで、顧客体験にかかわるすべてがCXクリエイティブ。だからこそ、体験全体を通して人に幸せを感じてもらえるかを考えて欲しいんだ。
CXクリエイティブは、人を幸せにするためのもの……!
顧客体験を俯瞰してみるためには「商品やサービスをどう手にしてもらうか」を出発点にするのではなく、人が何に悩み、何を喜び、どう生きているのかを考えること、つまり「人をみつめる」ことから始めるんだ。データやテクノロジーをもちろん活用するのだけれど、その先にある人の営みを想像し、感じていて欲しい。なぜならすべてのサービスは顧客=人が主体であり、意思決定者だからね。
ここでいう「人」は、一人であることもあるし、もっと大きな潮流を捉えた「人」、つまり社会であることもある。ひとつの事例を紹介しよう。一般社団法人「世界ゆるスポーツ協会」が開発している老若男女障がいのあるなし関係なく楽しめる「ゆるスポーツ」だ。
スポーツ競技がCXクリエイティブ……!? 私が思っていたCXクリエイティブと全然違います……。
そうなんだよ。たとえば、高齢者施設に入居する方をみつめて生まれた競技「トントンボイス相撲」や「打ち投げ花火」。これらは、高齢者に必要なリハビリにまつわる「人の悩み」を、スポーツがもつ楽しさや、勝負に勝ちたいと思う「人の喜びや本質」で解決したCXクリエイティブだ。
CXクリエイティブって思っていた以上に幅が広いんですね。
喉のリハビリが必要だけれど歌は苦手という人の悩みを、好きな相撲になら思わず声を出してしまうのではないか、というアイデアとテクノロジーで解決した「トントンボイス相撲」。プレイヤーの「トントン」という声に合わせてステージが振動し、紙相撲力士を動かすことができる。
リハビリに必要な腕の上げ下げや首のストレッチに伴う単調さを、バルーンを天井の的に向かって放ち、中心近くに当たるほど大きな花火が打ち上がる仕掛けで解消した「打ち投げ花火」。外出が難しい人に花火鑑賞の喜びも届けられる。
最初は目の前の人の悩みに注目し、その解決アイデアが、やがて社会からスポーツ弱者をなくす、という目線につながっているんだ。人をみつめることで悩みや喜びをみつけ、アイデアとデータやテクノロジーをかけ合わせて課題を解決するサービス。これは単に、データとにらめっこしているだけでは生み出せないよね。
アイデア、データやテクノロジーで笑顔にしたい人の顔を思い浮かべるって考えると、すっごくワクワクしますねぇ!
そのワクワク、ぜひ大切にしていこう! ではまず、みつめる相手について考えてみようか。突然だけど、味噌汁をつくるとして「だし」はどうする?
私は、フリーズドライのお味噌汁にお湯をジャー! です。
一人暮らしなので、味噌汁は1杯分あればいいんですよね。朝忙しいとき、生味噌タイプのインスタントより楽。具材もいろいろあるから結局これに落ち着いてます。
昆布とかつおぶしでしたね。家族みんなの分をつくるし、煮物にも使えるし、手間もそんなにかからずコスパがいい。何より香りが違う! あ、でも時間がないときは、パックで煮出すだしも使ってました。だし入りのお味噌を試したこともあったけど、味の細かい調整が効かないから使うのやめちゃいました……ってなんの話ですっけ。
まさにあなたは味噌汁のだしを通じて、人をみつめたね。そんな風に、どんな生活だから、何を大切に、どういう選択をするか。それぞれ思考や行動などが似たもの同士をグループ分けした人々を「クラスター」とよぶよ。
マーケティング用語で、プロフィールや行動からグループ分けした人々のことだよ。性別や年代、家族構成とか、住んでる場所や年収、さらに趣味や嗜好、生活スタイルみたいなものでもグループ分けする。
グループに分けるにはいろいろな切り口があるけれど、デプスインタビューなどの定性調査や定量調査、デジタルツールを使って、近しい属性をもつ人々をみつけていくんだ。
データが出てきましたね!どんなデータをみるんですか?
クラスター分けに用いる主なデータ
「デモグラ」「意識」「地理」「行動」データからパーソナリティをつかみ、クラスターに分けていくんだ。
むむむ、ちょっとデジタルの度合いが増してきましたね。
さっきいった通り、あくまでもやりたいことは人をみつめること。データは、その人をはっきりさせて、チームみんなで顧客像「クラスター」を共有するために便利に使えばいいんだよ。さまざまなクラスター分けの方法から、ここではふたつ紹介しよう。
広告会社がアスキングデータやDMPなどで分析する方法
ひとつ目は、オリエンを受け広告会社がクラスター分けする方法。広告会社によっては、WEBでの行動やテレビ視聴など、独自にデータを集めているんだ。そのデータの管理にはデータ・マネージメント・プラットフォーム(DMP)というさまざまなデータを貯めて管理するツールを使っているよ。
そう。大量に集められたデータから、そこにいる人々の属性を深掘りしていったり、インサイトや、購入に向けて心が動いたりするポイント(トリガーポイント)は何かを探っていくんだ。調査によって得られた生の声でもあるアスキングデータと組み合わせることで、さらに精度が上がっていくよ。
データからクラスターをみつめる
たしかなデータに裏付けられているから、これがあるとCXクリエイティブも考えやすくなりそうですね。
そう。この方法は少し時間がかかるから、ある程度提案までの期間が取れないと難しい。でも一方で、とても説得力のある強い提案が組み立てられる。クラスター分けをするツールは本当にいろいろあるけどそのうちのひとつを紹介しよう。
クラスター分けに役立つ便利ツール
People Profiler
電通による、マーケティングターゲットの可視化が可能な視聴者プロファイリングツール。生活者データベースd-campXやPDM Tunesなどの電通独自データに、テレビの視聴率測定、PC・スマートデバイスの接触状況と、プロフィールや態度変容などさまざまな意識項目を採録したシングルソースパネル*であるビデオリサーチ社のesXMPなどをまとめて活用し、さまざまな角度からより精緻なターゲットプロフィールを描くことができる。
*シングルソースパネル:同じ対象者(シングルソース)から、購買行動や意識、メディア接触など複数データを継続的に収集する調査方法。
ソーシャルデータから分析する方法
SNSなどのソーシャルデータ上のキーワードだよ。書かれているのはつぶやかれていたり、検索されている言葉。言葉の大きさが、その分量の多さを表しているよ。
これ全部ソーシャル上で実際に会話されていたキーワードってことですか! おもしろーい! 具体的なキーワードだとなるほど、つぶやいている人がみえる気がします。
ソーシャルデータ上のキーワード
ソーシャルデータは、消費者の「生の声」の宝庫。その商品・サービス周辺で、世の中の人がどんなことを、どのくらいつぶやいているのか、どのように検索されているのかなどをみることで、近しい興味や目的をもち、SNSなどのコミュニケーション手段でつながっている人たちをみつけることができるよ。キーワードは、何に喜びを感じるかをみつめるヒントにもなるね。さらに、ソーシャルリスニングは自力でできるので始めやすい。手助けしてくれる具体的なツールを紹介しよう。
ソーシャルリスニングに役立つツール
Google社が無料で提供する、キーワードの検索回数の推移がわかるツール。アカウント登録不要かつ無料で、リアルタイムなデータから最新の検索動向がわかる。ある期間のキーワード検索推移を閲覧することも可能。メールアドレスを登録すれば、急上昇ワードからトレンド性の高いキーワードを探したり、チェックしたいキーワード・トピックを指定すると動向をメールで知らせてくれたりする機能もある。
Twitterモーメントカレンダー
Twitter社が公式で無料で紹介している「○○の日」など、Twitterでの発話が多いキーワードを月日ごとにまとめた年間カレンダー。Twitterで過去に話題になったテーマやツイート数、ワードを無料で知ることができるため、顧客の心が動くモーメントを捉え、文脈にあった発信につなげられる。
ヤフーの保有する行動ビッグデータ(検索と位置情報など)をもとに、一般消費者の興味関心・行動パターンを可視化できる。ユーザーがあるキーワードを検索した前後の時系列キーワードの検索や、同時に検索しているキーワードなどをみることで、インサイト、商品検討のプロセス、ターゲット像などの想定をすることが可能。オプションで、ターゲットのライフスタイルや興味関心を把握することでより詳細な人物像(ペルソナ)作成を支援するサービスもある。
Meltwater社が提供するツール。ブログやニュース媒体などを含む13のSNSチャンネルを多言語でモニタリング。Twitterでは特定のキーワードについて過去・リアルタイムでどのくらいツイートされたかを複数のキーワードの掛け合わせや、期間・地域などの詳細設定と共に調査可能。共起キーワード・関連ツイートワードの可視化、ツイートがポジティブかネガティブかの感情分析もできる。
mindlook
電通が提供する、精緻なテキストマイニングを実現するツール。高度な自然言語処理技術と知見を集約した独自開発の辞書により、口コミデータを対象に81の感性、経済・IT・スポーツなど約800個のトピック、購買ステータス(ファネル)の分析が可能。投稿者がどの話題について、どんな気持ちで書き込んでいるかを分析することで、世の中の論調把握、顧客理解、ブランド評価ができる。
TREND SENSOR
電通が提供する、AIでビッグデータを解析することにより、流行キーワードを予測するシステム。SNS情報とマスメディアの情報を掛け合わせることで、新たな流行の兆しを発見する。
方法もツールもいろいろありますね。どんなときにどれを使うといいんですかね?
0次分析(課題抽出のためにする最初の分析)として時間やお金をかけずにサクッとやるなら、ソーシャルデータをみてみるのがいいね。新商品・サービスだとしても、その業界や競合商品について調べてみたり、クラスターの仮説をたててそれが合っていそうかみてみたりする。広告を配信する場合は、2回、3回と続けていく中でクラスター分けをすれば、精度が上がっていく。マスでコミュニケーションする場合や、今後コミュニケーションを重ねていく案件でしっかりクラスターを知っておきたいときは、時間をかけてDMPやアスキングデータからクラスター分けをしておくことが多いかな。
ふむふむ。商品やブランドの課題、あとは提案までの時間、予算によりけりということですね〜。
といいつつ、絶対にこれが正解というものがあるわけじゃないし、いくつか組み合わせてやることもあるよ。
届ける相手の気持ちを考えるカスタマージャーニーマップ
では次に、クラスターの人たちが、どんな悩みや喜びを抱いているのかを考えるひとつの手法として「カスタマージャーニーマップ」を紹介しよう。
趣味や価値観、パーソナリティをもった架空の人物像(ペルソナとよぶ)の一連の顧客体験を「旅」に例えたもの。売り手目線ではなく、顧客目線でいろいろな課題に気づけて、どのタッチポイントでどんなコミュニケーションが必要かがわかるんだ。
顧客の気持ちの流れ
それを可視化したものがカスタマージャーニーマップ。時系列(ステップ)ごとに、タッチポイント、行動、思考、感情曲線などを、定量・定性(デプス)調査データやアイデアブレストを元に記入する。一人でも描けるけど、個人の思いに左右されないよう複数人でのワークショップ形式で考えるのが理想だよ。
感情曲線のイメージ
カスタマージャーニーに合わせて感情や行動を考えることで、顧客体験がスムーズにいかない障壁(ペインポイント)や、心が動いてワクワクする理由(トリガーポイント)を見つけるんだ。たとえば、検討時点で離脱する人が多ければ、WEBサイトで情報が正しく伝わらず嫌にさせてしまっている可能性がある、と推測するというようなことだね。
なるほど! たしかに興味をもって調べても、購入予約しないといけなくて面倒で買わなかったものとか、アプリの登録に時間がかかってまた今度でいいかもって使わなかったサービスとかあります。
商品やサービスに興味をもった人すべてが、気持ちよく手にとってくれればいいよね。それは極端としても、顧客体験の設計が悪くて離脱する人を少しでも減らしたり、ブランドを好きな気持ちを増やしたりするヒントがみつかるかもしれないんだ。
はい! では、いよいよCXクリエイティブをつくって……。
その前に、もうひとつだけ! この本では、CXの領域、そして顧客とブランドの関係性をデュアルファネルで整理するので、少し説明させてもらうよ。
デュアルファネル
商品やサービスを初めて知る「認知」。もっと知りたいと詳しい情報にふれる「関心」。比較、情報収集をして購買につながる「検討」。「購買」までを含む左側全体を新規顧客を狙ったパーチェスファネルとよぶよ。そして、継続して他商品・サービスも使ってもらう「リピート」、よりブランドとの関係を深める「リレーション」、ファンになる「ロイヤルカスタマー化」までを含む右側全体がリバースファネルだ。
真ん中の「購買」に向かって細くなっているのはどうしてですか?
商品やサービスを知っても、実際いいなと思って買うものってそんなに多くないだろう? つまり認知から購買に向かって、だんだん人数が減っていくことを細くなる形で表している。購買後はリピートしてもらったり、どんどんリレーションを高めたり。さらにポイントや会員限定サービスなどを通して、ブランドのファンになり、その結果その人のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が高まっていく。そのときの、一人ひとりの関与の広がりみたいなものを、右側の形で表現しているんだ。
CXクリエイティブを幅広く考えるために、もちろんいろいろな方法がある。ただ次からは、CXクリエイティブを考え始めたばかりの方にも理解しやすいよう、デュアルファネルを使って説明していこう。
一人ひとり関心を持つ味付けは異なる
さーて、クラスターやカスタマージャーニーのこともわかったことだし、いよいよ実戦ですかね?
まあまあ、慌てない慌てない。ところであなたは、どんなラーメンが好きかな?
ラーメンですか? んーと、私はこってりのとんこつラーメンが好きですね!
なるほど。私はあっさりな塩ラーメンが好きなんだ。ちなみにどんなときにラーメンが食べたくなる?
そうですねー。もうとにかくお腹が減って、なんかハイカロリーなものをガッツリ食べたい! って思うときですかねー。あとはお酒飲んだあととか。
あはは、いいね。あなたにもそんな側面があるんだね。
ちょっとシェフ! 私のラーメンの話とCX、何が関係あるんですか!?
関係ありありだよ! とんこつラーメン好きのあなたと、塩ラーメン好きな私。そして、ラーメンが食べたくなるときもお互い違う……。
あなたと私では「ラーメン」の何に関心を持つかも違う。つまり、私たちが顧客だったら、同じアプローチをしてもどちらかは興味を持ってくれない可能性が高い。
なるほど、その人がどのようなものに反応するのか? それを探っていくことが大事なんですね?
うん。そのとおり。ひと口に顧客といっても、みんな違うからね。好みの味だけでなく、中にはラーメンが大好きだけど、健康上食べるのを控えてる人もいるかもしれない。
そう! パーチェスファネルでは、ラーメンへの欲求や関心が似ている人をクラスターで分け、それぞれに、最適なアプローチをしていく。最適な体験を設計していくことが多いんだ。
うわー、なんかちょっとずつわかってきた気がします。でもシェフ、さきほど第1章でクラスター分けの種類はなんとなく紹介してもらいましたけど、なんていうか、もっと具体的にはどうやればいいのかがまだ自信ないんですよね。
そうだよね。でも安心して。次のページから段階を踏んで、説明していくから、じっくり聞いて自分のものにしよう!
クラスター分析の手順
まずはクラスター分析の方法を説明しよう。さっき出てきたDMPを使って、「ラーメン」に関心を持っている人たちが、どんな人なのかをみつけていく(図の1)。どんな年代、性別の人が関心を持っていて、どんなキーワードと紐づいているかということも、分析できるんだ。
クラスター分析のアプローチ
DMPには行動や購買データが入ってるからわかるんですね。
そうだね。ラーメンに紐づくキーワードや、意識データなどさまざまなデータを絡ませて、統計的に分析する(図の2)。そうすると、どんな人が、どんな風にラーメンを食べたくなっているか、そのきっかけ(トリガー)が見つかる(図の3)。
そしてラーメンに関心を持った人が、どんなキーワードに反応しているかを抽出したものが、図の3の下の吹き出しの中だ。
同じラーメンでも食べたくなるトリガーは人それぞれですね。共感できるキーワードばかりです!
だいぶ共感できているようだね。ラーメンを食べたい衝動となる因子をもとにクラスターをさらに探っていくぞ。
クラスターを読み解く
先ほどの「ラーメンが食べたい衝動のキーワード」を下の図のようにカテゴライズしてクラスターに分けてみたぞ。
カテゴライズとクラスター分け
キーワードを、関連性の高そうなものを近くにおいたり、ボリューム感もわかるように整理したものだよ。
シェフが整理したってことですか? すごくないですか?
たしかにこれをつくるには、観察力や目利き力が必要とされるが決して難しいものではないんだ。ここでは大きく4つのクラスターに分けた。たとえばクラスターA、ここには「ガッツリ食べたい人」や「一人で気楽に食べたい人」「自分へのご褒美」みたいな感覚でラーメンを食べたくなる人がいるのだが、この欲望の数だけクラスターをつくるとさすがに多すぎるし、ターゲットの人数も分散してしまう。だから、1つ上のレイヤーでみて、グループにすると、どれも「欲望満たしたい層」といえるな、と考えたんだ。同じように、キーワードの特性からどんなグループにできるだろうと考えて、このように分けたんだ。
なるほど、今回はそうやってラーメンを食べたくなる人を、大きく4つのクラスターに分けたってことですね。これ面白いなー、たしかにこれらを理由にラーメンを食べている人って想像つきますもんね! 私も「欲望満たしたい層」かもです! ちなみに、クラスターの数は4つくらいがいいんですか?
そうだね。普段の仕事でもだいたい3つか4つくらいのクラスターに分けることが多いかな。そのくらいがちょうど違いを出しやすいし、そこに当てはまる人の数も多くなる。また制作する動画のタイプ数も予算など考えると現実的だったりするよね。では、このようにクラスター分けして、それぞれに向けた動画を制作した実際の事例をいくつかみていこう。
西武鉄道 WEB CM「ちょっとラビューで秩父まで」
西武鉄道のミドルファネルにつかったWEB動画を例にしよう。「ちょっとラビューで秩父まで」というタイトルで「歴史巡ってきた!」篇、「食レポ!秩父グルメ」篇、「アウトドア満喫!」篇の3つがある。いずれも特急ラビューで秩父へ遊びに行きませんか? という内容だね。
西武鉄道 WEB CM「ちょっとラビューで秩父まで」
3つの動画はそれぞれ、冒頭とラストは同じだけれど、それ以外は別のシーンが描かれていますね。これが、クラスターごとにアプローチを変えるってことですよね。
うん、まさにそうだね。この動画からクラスターを紐解くと……、図の左から順に
・歴史とか、伝統に興味がある人
・ご当地グルメや、おいしいものに目がない人
・アウトドアやレジャーが好きな人
となる。同じ西武鉄道で秩父へ遊びに行きませんか? というテーマでもよりクラスターごとの興味・関心に寄せるとこうなるんだね。
これ、わかりやすいですね! ひと言で「秩父」といってもいいところはたくさんあるわけだし、行く目的もさまざまですもんね。あとはなんか、見ているだけでワクワクしてくるっていうか、本当に心から楽しんでる感じもいいですね!
そこも大事だよね。ミドルファネル動画もただつくればいいわけではなく、やっぱりその狙うべきクラスターが何を求めているか、どうやったら心が動くか、そこはまさにクリエイティブの一番大切なところでもあるし、醍醐味だね。
ですよねー。私もこういうCMをつくれるようになりたいなぁ。
クラスター分析の段階からクリエイティブ力を生かす
ここまでクラスター分けの仕方やクラスターごとに異なるアプローチをした事例をみてきたけど、どうだったかな?
クラスターとか、クラスタリングって今までフワッとしたイメージでしかなかったので、やっぱりこうやってシェフに教えてもらいながら具体例を見ると、理解度が上がりますね! 今度私も、ソーシャルデータからやってみようかな〜。
いいね。でも、大事なのはクラスター分けではなくて……。
そう! アスキングベースの調査が基本だけど、大規模のサードパーティデータや一部の広告会社などのDMPがあると、デモグラ×意識・行動データのように複合的なデータを使えるので、改めて調査しないで済むから効率的だね。我々クリエイティブにかかわる人間がインサイトを探るところから入れると、アウトプットをイメージしながら進められるから生み出すCXクリエイティブもグッと良くなると思う!
クリエイティブって、コピー書いたり、コンテ描くだけじゃないんですね。がんばらなきゃー!
その意気だ! パーチェスファネルはクラスター別につくり分けていくことが多いといったけど、実はAIを活用して一人ひとりをより精度高くみつめる方法が開発されているんだ。
え、一人ひとりを!? 理想的じゃないですか! しかもAIって!
そう。体験するコンテンツが、完全にひとりに向けてという時代がすぐそこまできているんだよ。早速、紹介していこう。まずは、生活者インサイトを深掘り調査するAIチャットボット「Smart Interviewer」。従来の調査手法では難しかった一人ひとりに階層構造で深掘りした聴取を、大人数に、同時に実施することが可能だ。実証実験では、一般的なWebアンケート調査の自由回答フォームと比較して、一人あたりの回答文字量は4.3倍、回答切り口の数は2.4倍まで増加したんだ。
インサイトをAI チャットボットが自動で深掘り!「Smart Interviewer」
時間も節約できて、しかも深掘りできるなんて、ネーミング通りスマートインタビュアー!
CXを考える上で大切な生活者インサイトの領域でも、AIは頼りになるんだ。お次は、チャット対話形式で、顧客に商品やサービスの紹介を行い、次のアクションにつなげる対話AIソリューション「Chatstaff」。
ボトムファネル「検討」の後押し! AIセールスボット「Chatstaff」
私、お店で店員さんと話すの苦手なところもあるので、いいかも!
まさにそういう声に応えるサービスなんだよ。利用者の質問したい内容を聞いて、必要な情報をわかりやすく表示する。利用者の聞きたい質問を聞きたいときにピンポイントで答えることが可能で、聞きにくい質問も機械(AI)だから聞きやすい。
最後は、トヨタと電通で共同開発した「That’sくん」。店舗での待ち時間をお客様に楽しんでもらうための自称世界初「ひまつぶしAI」で、QRコードからアクセスできる。チャットで雑談やゲーム、占いなどを楽しむことができて、一部のトヨタ販売店で実証実験された結果、お客様から好評をいただいたんだ。
店舗内での待ち時間を有効活用! AI キャラクター「That’s くん」
だろう? しかも、実はやりとりの内容がいろいろと考えられていて、販売店としては、That’sくんとのチャット内容からお客様のことを知ることができ、それをきっかけにお店のスタッフとお客様のコミュニケーションが深まり、その結果、CXを向上させることができる、というわけだ。
AIはボトムファネルの最前線、店舗でも大活躍できる可能性を秘めているんだ。
Amazon SEshop その他
CXクリエイティブのつくり方
認知からファンになるまで、顧客を中心にあらゆる体験をつくる最新レシピ。
著者:電通CXクリエーティブ・センター CX推進チーム
発売日:2023年2月24日(金)
定価:2,420円(本体2,200円+税10%)
本書について
本書では、CXクリエイティブを「料理」にたとえてわかりやすく解説しています。また、対話形式でテンポよく話が進んでいき、豊富な図解を用いているので見るだけで理解できるつくりとなっています。