人を惹きつけるには「相手が聞きたいこと」に体温を乗せて話す
高橋:対立候補や選挙の条件などが毎回違う中で、見込んだ人の素質をどう切り出せば有権者の心を動かせるか、多くの支持を獲得できるかを考えて候補者の姿を作っていくわけですね。
マーケティングにおいても、その市場において、製品やサービスの魅力を消費者に瞬時に伝えるための設計が非常に重要です。当社が扱うSEOというサービスにおいても「専門的過ぎてSEOのやり方がわからないからまずは相談したい」という方が多かったので、「SEO HACKS」という名前で運営していたサイト名を「ナイルのSEO相談室」にして、ターゲットにメリットをわかりやすく伝えるようにしたら指標が伸びた、という事例がありました。
選挙においては、演説が有権者に便益を伝える方法の一つかと思いますが、人を惹きつける演説をするためにどのような指導をなさっていますか。
鈴鹿:演説で最も重要なのは、人が聞きたいことを言うこと。ポイントはそれだけです。自分が言いたいことをわめきたてる演説はうるさいだけですが、演説が有権者の興味を引く内容で、言葉に話す人の体温が乗っていれば、足を止める人は増えます。

高橋:独りよがりにならずに聞き手の視点に立つ。それと同時に自分が体温を乗っけられる話をする。その両立が大事ということですね。前編で、自分に嘘をついている人はだめだというお話がありました。演説も、借り物の言葉では見抜かれてしまうということでしょうか。
鈴鹿:たまに、演説原稿を作ってほしい、売ってほしいと依頼されることがあります。演説原稿の手持ちは3,000種類くらいありますから、売ろうとすれば売れるんです。でも、私が作った演説原稿をそのまましゃべっても、誰も立ち止まらないのです。
理想は、その人の体温を感じる言葉が内側から湧き出てくること。ですから、元々持っている思いを引き出して文章にしていく工程には、絶対に手を抜かないようにしています。
あとは、飾り過ぎないことも大切ですね。人は、足していくと、嫌われる。これが人と物の違いです。物は「今だけ定価より安くなる、1個買うと2個ついてくる」なんて言われると買いたくなりますが、人は引き算することが大事です。
たとえば「一流大学を出て財務省に入って富豪のお嬢さんと結婚した身長180㎝の……」と足し算するよりも、「身長は180㎝あるけど足が短いのが悩みで、いつも奥さんにジーンズの裾を上げてもらっている」と引き算してブランディングするとファンが増えやすいんです。
日本の政治家を世界標準に近づける
高橋:華々しい経歴を足し算していくと単なる自慢になってしまいますし、焦点がぶれますよね。特に、政治家の方が気をつけなければいけないのは「この人は自分とは無縁な人だ」と思われることですね。高学歴でビジネスに長けていて、お金持ちで、というのはビジネスの世界においては実績として受け入れられるのかもしれません。しかし、有権者にとってはより身近で、庶民の立場にたった振る舞いをする政治家のほうが受け入れられるはずです。そういう意味では、あえて短所を伝えたりギャップを見せたりする、引き算のブランディングというのが大事なのかなと感じました。
顧客と国民というターゲットの違いはあれど、ターゲットが知りたいことを、ターゲットの興味を引く言い方で伝えるというところは、マーケティングであり共通していますね。選挙という視点からビジネスを見ることができて、勉強になりました。最後に、鈴鹿さんの今後の展望をお聞かせください。
鈴鹿:まず、日本の政治家を世界標準に近づけたいですね。現在はすごくレベルが低いと思っているので。第一に服装です。フォーマルな場で半袖のワイシャツなんて着ているのは日本人だけなんです。
ネクタイの柄やワイシャツの形一つにもちゃんと意味があって、それぞれにふさわしい場所があることを学んでほしいです。これは、起業家の皆さんにもお伝えしたいですね。
ここぞという場面で、服装やマナーに迷いがあると、せっかくの上昇機運に影が差します。戦いに行くときは、ご自身の好き嫌いとは別に、TPOに適したスタイルで臨んでください。すぐ手にできて、最低限押さえておきたいのは、服装と言葉です。世界に恥じることのない服装で身を固め、自分なりの政策や方針を温度感のある言葉にして、戦いに臨んでいただきたいと思います。
ここにマーケあり!
・選挙に勝つには、いかに人を惹きつけることができるのかがカギ。ビジネス同様、一方的に思いを伝えるのではなく「人が聞きたいこと」を、いかに自分なりの体温ある言葉で訴えられるかが重要だと感じました。