現代は第5パラダイムという“断崖”
今回紹介する書籍は『クオンタムマーケティング 「プライスレス」で世界的ブランドを育てたCMOが教える最新マーケティング論』。著者はマスターカードのグローバルCMO兼CCOおよびヘルスケア部門プレジデントのラジャ・ラジャマナー氏です。
ラジャマナー氏は、アジアン・ペインツやユニリーバで営業および製品管理を担当した後、シティグループのシティ・グローバル・カードでエグゼクティブ・バイスプレジデント兼CMOなどを経験。その後、現職に就いています。また2021年には『フォーブス』誌「世界で最も影響力のあるCMO」の一人に選出されました。
本書の第1章では、過去から今日に至るまでのマーケティングの概況を解説しています。第2章では、著しい進化を遂げるテクノロジーの中でも、特にマーケターが押さえておきたい技術をピックアップして紹介。第3章以降では、各テクノロジーの詳しい解説から著者が考えるマーケティング組織の育て方まで話を展開しています。
本書の前半で、著者は読者にこう語りかけます。
今、私たちは第5パラダイムという断崖の上に立っている。これが、クオンタムマーケティング時代だ。(p.40)
「クオンタム(quantum)」は「量子」を意味する科学用語です。本書では、クオンタムを量子の意味から転じて「従来のアプローチで説明できない影響」というニュアンスで使っており、クオンタムマーケティングを「マーケティングの世界で未曽有の変化が起きていること」として使っています。未曽有の変化とはどのようなものなのか。そして「第5パラダイム」とは一体何を意味するのでしょうか。
テクノロジーを恐れず、理解する精神が肝要
著者は「マーケティングの世界は、今日までに五つのパラダイムシフトを経験してきた」と振り返ります。第1パラダイムが「プロダクト・マーケティング」です。「消費者の購買決定は商品の品質に基づき、論理的に行われる」という仮説に立ってマーケティングを行うことを指します。
第2パラダイムが「エモーショナル・マーケティング」です。商品のコモディティ化が進んだ結果、企業は機能的価値よりも情緒的価値に重きを置いて商品を訴求するようになりました。第3パラダイムが「データドリブン・マーケティング」です。インターネットの台頭によりWeb広告が登場したほか、ターゲティングや効果測定などによってマーケティングの最適化が進みました。
第4のパラダイムが「デジタル&ソーシャル・マーケティング」です。移動を前提としたデジタルデバイスとSNSという二つの大きなインパクトにより、消費者の情報接触量はかつてないほどになったといいます。
そして今、まさに到来しようとしている第5のパラダイム。それが「クオンタムマーケティング」です。前述の“未曽有の変化”とは、テクノロジーの進化を背景とする消費者の生活様式の変化であり、この変化に対応するためマーケターには「偏見を持たずに広い心を持つこと」「テクノロジーへの精通」が求められると著者は語っています。
AIに抵抗のあるマーケターは淘汰される
クオンタムマーケティング時代到来の要因となる複数のテクノロジーのうち、本書では以下の四つを取り上げています。
2.人工知能(AI)
3.ブロックチェーン
4.5G
著者は、この四つのテクノロジーに対するマーケターのあるべき姿勢を説いています。たとえば、膨大な消費者データから意味を見出し、施策に落とし込む姿勢です。「一晩でデータのエキスパートにならなくても良いが、少なくとも適切な疑問を投げかけ、答えを適正に咀嚼できる程度には自ら学ぶべきだ」と著者は勧めます。
また、AIは驚異的な量のデータを分析し、パターンや関係性を瞬時に洗い出せるなど、マーケティングへの恩恵は大きい一方で、構造が複雑なためマーケターからは敬遠されがちです。しかし、著者は「優れたマーケターこそ(AIを)学ぶべき」と強調します。
AIこそ、マーケティングのあらゆる側面でゲームチェンジャーとなるだろう。もしも彼らがAIの機能やその成果を理解していなければ、チャンスを逃してしまう。マーケターがAIに取って代わられることはない。しかし、AIに抵抗する人は、その威力を理解している人に取って代わられる。(p.101)
本書ではほかにも「ブロックチェーン」「5G」など、クオンタムマーケティング、すなわち未曽有の変化を構成するキーワードの中身を紐解いています。「最新のテクノロジーをマーケティングに活かす方法が知りたい」と考える方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか?