顧客解像度が高まると、「WHAT」に確信が持てるようになる
MZ:まだ改革も半ばだった2020年にコロナ禍となり、様々な困難があったと聞いています。
西口:実は、アソビューの幹部のみなさんが本当に「変わったな」と感じたのは、コロナ禍に突入したくらいの頃でした。最初の緊急事態宣言が出された時、アソビューは売上の90%を失っています。どんどんお金が燃えていき、もう少しいくとアソビューは終わってしまうかもしれないという状況の中で、みなさんは売上をあげるよりも手前の部分に着手されたんですね。
どういうことかと言うと、お客様にとっても、レジャー施設にとっても、コロナ禍における安心安全の“基準”がそもそもなかったので、官公庁やレジャー業界を巻き込んで、その基準作りから始めたわけです。三密を回避するために必要な基準=ソフトウェアを作って、初期費用を無償で業界全体に提供された。結果、お客様からもレジャー施設からも喜ばれて、アソビューは大復活を遂げました。
あの時、アソビューがこれを実現できたのは「顧客が求めている価値が何なのか」に確信を持てていたからです。“基準作り”を突破しないと、お客様が求めているものを提供できないし、遊びのビジネスをやっていけないと、みなさんわかっていたんですね。アソビューのV字回復はパンデミック時の特別な話と思われるかもしれませんが、「お客様が求めている価値、自分たちが提供すべき価値」が見えた時に大きな結果が出るというのは、他の企業様を見ていても共通していることです。顧客起点の成功例は様々知っていますが、アソビューのこの例が最も強烈でした。
N1をやっていなかったら、アソビューは今なかったかもしれない
宮本:今になって考えるとぞっとしますが、N1インタビューをしていなかったら、アソビューは今本当になかったかもしれません。「顧客に向き合う」という言葉は、ベンチャー企業では「ユーザーファースト」という言葉があるように、まったく新しいものではなく、当たり前のことだという雰囲気もあります。ですが、顧客と向き合うとはどういうことなのか、コロナ禍でもN1インタビューを続ける中で、少しわかったような気がします。
また、これも今だから言えることですが、コロナ禍で売上が20~30%減るではなく、90%減るという極限のところまでいったのは、むしろ良かったのではないかとも思っています。理由は、売上20~30%減だったら「コストカットで生産性を上げて、利益構造を守ろう」という思考になっていたと思うから。きっと、結果に対する手触り感のある施策を講じて、事業を立て直そうとしたはずです。ですが、アソビューの場合は、売上が9割消えたので、「お客様は何を価値と感じ、何に対してお金を払ってくれるのか」という根本的なところに嫌でも向き合わなければならない状況になりました。
N1インタビューでそれを見つけられたから、2020年の夏を乗り越えられましたし、想定よりも早期に事業を立て直すことができました。顧客起点の意識なしには成し遂げられなかったことだったと、経営陣全員が思っています。
西口:「アソビューの幹部のみなさんは、顧客起点で物事を考えられるようになっているから。コロナでアソビュー!自体はどうなるかわからないけれど、“遊び”というビジネスで絶対に新しい価値を作れるし、その時はどうなったってきっと成功するから大丈夫だよ! アソビュー自体がコロナ禍でどうかるか、僕は何とも言えないけどね(笑)」と、お話ししたのを覚えています(笑)。まさに顧客起点で実現された、素晴らしい復活だったと思っています。
★本記事の後編『「顧客起点マーケティングの裏テーマは、数字と統計的処理の限界からの脱却」アソビュー宮本×西口一希対談』は、6月5日(月)に公開予定です★