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企業の取り組みから考えるインクルーシブデザイン

ダイバーシティで価値を作る、「インクルーシブデザイン」が注目されている理由とは

インクルーシブデザインに取り組む企業の考え方

 ソニーグループは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスのもと、すべての人が感動を分かち合える未来を実現するために、アクセシビリティを高める取り組みとインクルーシブデザインを推進しています。

「傘下のソニーは、2025年度までに、原則全ての商品やサービスを障害者や高齢者に配慮した仕様にする。開発過程で障害者らに必ず意見を聞き、リモコンのボタンを減らして形状を工夫するなど使いやすくする。障害者の意見を取り入れることを開発に関する社内規則に定める。」

 『ソニー、全商品で障害者・高齢者配慮 開発時のルールに』(日経新聞、2023年1月19日)

 具体的には、オーディオ機器のデザイン過程には全盲の社員が参加したり、白杖(はくじょう)とセンサーを組み合わせた補助技術の開発プロジェクトが始まったりしています。多様なユーザーの視点に立つことで新しい発見が生まれ、これまで以上に利便性の高いサービス・事業が提供される未来が近づいているのです。

 このようにインクルーシブデザインの取り組みは、高齢者や障害者などこれまで利用者の対象とされにくかった製品・サービスにおいても積極的に関わりを持ち共創することで、特定の人のためでなく、新しい価値を生む可能性があります。

 「尖ったニーズ」をきっかけにマジョリティーが気づかないような潜在的ニーズを掘り起こし、より多くの人が使いやすいデザインを見出す。そこにインクルーシブデザインの価値があります。これまで同様、顕在化したニーズに対応するだけでは、もはや新しい製品・サービスは生まれにくいはずです。これまで排除されてきた人々を巻き込むことで「尖ったニーズ」が得られ、そこから新しい取り組みを生み出します。

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インクルーシブデザインに取り組む企業事例

 ここからは、実際にインクルーシブデザインの事例をいくつか紹介したいと思います。

GO FLYEASE
GO FLYEASE

 ナイキのフライイーズは、インクルーシブデザインのアプローチを取り入れたシューズの一例です。“フライイーズ”は、障害を持つアスリートの意見をもとにシューズの着脱を容易にすることを目的に2015年にスタートしたプロジェクトです。

 「誰でも履けるシューズを作る」といったテーマのもと社内のコンペディションからスタートし、構想から数年の開発期間を経て完成しました。ライフスタイル向けシューズとして、幅広い層に向けて提案しており、ソールに特許申請中の技術を取り入れたことで、初めて完全ハンズフリーで着脱が可能になった画期的なデザインを有します。脱ぐ際はヒール部分をもう片方の足で踏むことで、インソールが上がるため手を使わずに脱ぐことができます。着脱にかかる時間は約2秒程度と短く、足に吸い付くようなフィット感が魅力です。

 フライイーズは、手や腕に障害を持つアスリートであっても簡単に履けるというコンセプトがありましたが、このリードユーザー向けのコンセプトは両手に荷物を持っている場合や、妊婦、手に障害がある人などにとっても嬉しい機能となっています

ジェンダーレスコスメのECサービス「gencos」

gencoshttps://shop.gencos.jp/
gencos

 gencosは、商品が購入できるEC機能だけでなく、女性や男性のスキンケアやメイクの情報を発信し、ユーザーを獲得しているコスメサービスです。飽和するマーケットにおいて、単なる機能面での差別化は非常に難しい中、自社の製品・サービスが価値提供可能なユーザーの対象を広げることを戦略的に行い、顧客獲得につなげています。

視覚過敏な人でも使えるノート「mahora」

mahora
mahora

 OEMとして大手文具メーカーのノート製造を主な事業としていた大栗紙工株式会社のオリジナル製品「mahora」。「視覚過敏」という特性を持った発達障害の方と共創しながら作ったノートです。

 「紙からの反射がまぶしくて、文字が書きにくい」「いつの間にか書いている行が変わってしまう」「罫線以外の情報が気になり集中できない」という3つの課題から、太い罫線と細い罫線を交互に置いて見失わないような工夫し、「みんなに使いごこちのいいノート」になっています。線は薄くても行がはっきりわかる新しいノートです。

「エキマトペ」(富士通、JR東日本、DNP):

定型のアナウンスが流れると、手話付きの映像が映し出される
定型のアナウンスが流れると、手話付きの映像が映し出される 「エキマトペ」

 エキマトペは、駅のホームに設置されたサイネージです。聴覚障害者の駅構内は耳から得る情報がとても多く、不便を強いられている課題から富士通株式会社、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)、大日本印刷株式会社(DNP)により開発されました。

 アナウンスが流れると、モニターには手話の映像と文字情報が映し出されます。そして、電車やベル音などの環境音は「ピンポンパンポーン」のようにイラストのアニメーションをつけたりすることで、どういう状況で音が鳴っているかわかりやすくしています。聴覚障害の有無を問わず、便利で楽しめるアニメーションは、駅のホームにおいて新しいユーザーエクスペリエンスとなっています。

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日本ならではのイノベーションのチャンスにも

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この記事の著者

川合 俊輔(カワイ シュンスケ)

 株式会社STYZ Chief Design Officer 芝浦工業大学デザイン工学部卒。
 海外を拠点とするデザイン会社を経験した後、インクルーシブデザインスタジオ「CULUMU」を設立。多様なユーザー・生活者と共創するデザインプロジェクトを様々な業界・企業と取り組む。また、芝浦工業大学でUXデザイン演習等の非常勤講...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/06/09 21:05 https://markezine.jp/article/detail/42333

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