お客様の「あったらいいな」からはじまった、セブン銀行
川合:はじめに、水村様とATMとの関わりを教えてください。
水村:2002年に新卒でクレジットカード会社に入社し、利用明細をWebで見られるようにするなど、今では身近になった機能開発をしていました。2007年にセブン銀行に入社し、第3世代ATMの開発プロジェクトメンバーとなり、セブン銀行流のATMづくりを1から10まで体験しています。その後もATMの様々な機能の開発やUIデザインに携わり、2017年からは第4世代ATM開発のプロジェクトマネージャーを担当しました。昨年からはATMソリューション部という50名ほどの組織長と、海外子会社の取締役を務めています。
川合:セブン銀行では第4世代ATMのコンセプトをATM+と表現しています。他のATMとの違いや、特徴はなんでしょうか?
水村:ATM+を理解していただくために、弊社の成り立ちとATMの特徴からお伝えできればと思います。セブン‐イレブンが実施したお客様アンケートで、「コンビニにあったらいいなと思うもの」1位に、1990年代後半からATMがランクインしました。これに応える形で2001年に生まれたのがセブン銀行です(当時の名称はアイワイバンク銀行)。ですから、根底にはお客様の「あったらいいな」を実現するという考えがあります。
そして、ATM自体に3つの特徴があります。1つ目は「充実した顧客接点」。全国のセブン‐イレブンをはじめ、商業施設や空港、駅などに置かれ、1日1台あたり100件ほど使っていただいています。セブン‐イレブンの店舗は毎日約1,000人が来店しているので、コンビニ来店者の10人に1人がATMを使ってくださっています。
2つ目が、「街のチャージスポット」としての役割です。セブン銀行は「スマホATM」と称し、キャッシュカード不要でもご利用いただくことができます。PayPayを始めとする事業者様とも、どんどんつながっています。
3つ目は、「こだわりのオリジナルATM」です。弊社では環境配慮やセキュリティの強化、休止率の低下といったATMの基本的な性能を向上させながら、第3世代までバージョンアップをしてきました。続く第4世代では、直線上での進化からさらに飛躍するために「ATM+」というコンセプトを掲げ、多彩な機能を搭載することに決めました。
また、セブン銀行20周年にあたる2021年には、セブン銀行のパーパス「お客様の『あったらいいな』を超えて、日常の未来を生みだし続ける。」を策定しました。これと連動した形で、最新の第4世代ATMによって、幅広い接点で、多様な機能を、あらゆるお客様に提供する。それがATM+です。
今、日本全国に約27,000台あるセブンATMのうち、半分ほどが第4世代に入れ替わり、2024年度末までには置き換えが完了する予定です。また、2019年に第4世代の設置を開始した頃から、本来であれば銀行窓口やスマートフォンアプリで行う必要がある住所や電話番号の変更受付、口座開設・解約に加えて、ホテルのチェックイン、中古品売買で必要となる本人確認などもATMでできるように多角的に実証実験を続けています。
開業時から一貫したインクルーシブ思考
川合:ATMが第4世代に変わる中で、UXやコンセプトにはどのような変化と意思決定があったのでしょうか?
水村:これまでも優しさを追求してきましたが、第4世代ではそれをより強く打ち出しました。たとえば、第3世代までは直線的で“メカ”に見える筐体デザインを、より有機的なものに近づけるよう努めました。コクーン(繭)というキーワードを軸にして、柔らかくそれでいて中にあるものを守る繭のように優しい見た目、安心感を目指しています。
川合:先ほど御社に設置されているATM機を操作してみたのですが、確かに左右や上部がシールドで包まれていて、個室に入っているような感覚に近くて落ち着きました。タッチ音やテンキーの押し心地、杖やドリンクの置き場が用意されている点も、他のATMとは違う印象でした。ハードウェアの見た目から使用感まで優しさを体現されていますね。デザインを一貫させるのは容易ではなかったと思います。
水村:難しくはあったのですが、当社の特徴として中心になって開発の意思決定をするメンバーは少数に絞っている点があります。その中にはUXデザイナーなどもいるため、比較的スピーディーに合意形成を図れています。
川合:音声ガイダンスをはじめ、健常者の方も使いやすさを感じる機能が搭載されていると思います。いろいろな視点を取り入れようという考え方はどんな経緯で生まれているのでしょうか?
水村:母体であるセブン&アイホールディングス自体が、元々インクルーシブへのこだわりが強い会社です。そのため、弊社もどなたにも使いやすくする考えは当初からありました。その上で、ハンディキャップのある方や外国人の方、高齢者などに対して、そのときに求められることに対応してきた形です。たとえば、車椅子でも操作しやすいように操作位置を下げたり、色覚障がいの方でも見やすくしたり、対応言語を増やしたりしています。ハンディキャップのある方に使いやすいUXというのは、実は健常者も使いやすいこととイコールなのです。