マーケティングと親和性の高い「ブランディング型」
ブランディング型の価格設定には「シグナリング」「プレミアムプライシング」「ライン拡張」「挟み込み戦略」の四つの主要な手法が存在する。これらは、商品戦略やブランディングと深く結びついた方法論だ。
シグナリング(名声価格)
価格の高さは品質の良さを連想させ、高い商品を所有することはその人のステータスや社会的名声の“シグナル”になる──この現象を利用したのがシグナリング(名声価格)だ。高い価格がブランド力に直結するという考えで、ハイブランドや宝石・貴金属の値付けに活用されている。

読者の皆さんは「ヴェブレン効果」という言葉を聞いたことがあるだろうか。ヴェブレン効果とは、商品やサービスの価格が高ければ高いほど、それを周囲に自慢したくなる行動のことだ。「商品の価格が上昇すると需要が減少する」という、一般的な価格弾力性の原則に反する現象で、特に高級品でよく見られる。
また、価格は品質のバロメーターにもなり得る。「高価な商品は、安価なものより品質が優れている」という印象を消費者に与えるからだ。たとえば学習塾の場合、授業料が安すぎると「子どもを通わせても成績が上がらないのでは」と親は心配になるだろう。また、風邪薬は「安価=効き目が良くない」というイメージにつながりやすい。つまりシグナリングは、価格と品質の関連性を消費者が検証しにくい商材にも有効なのだ。
プレミアムプライシング
プレミアムプライシングは、価値基準の価格設定法だ。価格にそれほど敏感でない消費者に対して、スタンダードな商品よりも高価なプレミアム商品を提供することで、利益を確保する手法だ。
この方法のポイントは、スタンダード商品で量を確保し、プレミアム商品で利益を最大化することにある。両方をラインナップに持つことで、大量生産による規模の経済効果を最大限に活用し、単独でプレミアム商品を展開するよりも単位あたりのコストを下げることができる。たとえば、サッポロビールの「サッポロ生ビール黒ラベル」と「ヱビスビール」、アリナミン製薬の「アリナミンA」と「アリナミンEXゴールド」などがこの手法の典型的な例だ。
ブランドエクイティを有効活用した価格戦略
ライン拡張
ライン拡張は、消費者心理に基づく価格設定法で、特定のブランドが持つイメージを他の商品ラインナップにも適用し、全体のブランド価値を高める手法。「ライン・エクステンション」や「ブランド拡張」などと呼ばれたりもする。
たとえば、ユニクロというブランドに対するサブブランドがGUだ。このように、既存ブランドに紐づけて姉妹ラインを展開することで、既存のブランドイメージを利用して、より優位に市場に進出できる。
この方法の利点は、既に認知を得ているブランドエクイティを活用することで、新ブランドをゼロからつくるよりも低コストで始められる点だ。商品ラインに多様性を持たせることも可能だ。しかし、サブブランドが失敗した場合、メインブランドにも影響を及ぼす可能性がある。また、メインブランドとサブブランド間での売上競争、いわゆるカニバリゼーションのリスクも存在する。
挟み込み戦略
挟み込み戦略は、競争基準の価格設定法で、競合企業の商品の価格よりも低い価格と高い価格を設定し、競合企業を圧倒する値付け手法だ。サンドイッチ戦略とも呼ばれる。
有名な例として、米国の物流大手のFedExの話がある。FedExは翌日配達サービスを12ドルで提供していたが、競合する米国郵便公社(以下、USPS)が8.95ドルで同様のサービスを提供開始した。それに対抗する形で、FedExは既存のサービス価格を9ドルに再設定し、さらに配達時間の指定や「Priority High(優先度高)」のラベルを封筒に貼ることができるプレミアムサービスを13ドルで提供した。これにより、USPSに価格競争で対抗しつつ、より付加価値の高いサービスを提供することで、全体の競争力を強化したのだった。
第4回は一旦、ここまで。次回は、24の価格戦略フレームワークの最後の種類である「プロモーション」の全8タイプについて解説する。