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MarkeZine Day 2025 Retail

なぜ今マーケターがプライシングを学ぶべきなのか

どうしても値上げせざるを得ない企業のマーケターへ 心理学を駆使し「お得感」を醸成する価格戦略の極意

値上げへの抵抗感を減らすのに有効なプライシング手法

アンカリング

 アンカリングは、消費者心理基準の価格設定フレームワークだ。プライスライニングに並ぶ代表的な手法で、「人間は情報が不足している時に、最初に提示された情報が強く印象に残り、それが後の判断に影響を与える」という心理現象を利用したものだ。名前の由来は、船の錨(アンカー)に由来し、錨を下ろすと船が係留されその周辺しか移動できなくなることから、プライスライニング同様、消費行動を誘導したいときに用いられる。

 家電量販店などで「通常価格」の値札の上に「本日限りの店頭価格」のような値札が貼り付けられているシーンを見たことはないだろうか。これはアンカリングの典型例だ。比較的高めの通常価格を見た後に特別価格を見ると、消費者は特別価格を割安に感じるものだ。スーパーマーケットやアウトレットのタイムセールも、アンカリングの一種である。

シュリンクフレーション

 シュリンクフレーションも消費者心理基準のフレームワークで「ステルス値上げ」と呼ばれたりもする。商品の販売価格は据え置いたまま、サイズや内容量を減らして、実質的な値上げをする手法だ。食料品や日用品など、値上げに対する消費者の抵抗感が比較的強く表れる商品でこの手法はよく利用される。値上げへの反発を緩和するのに有効だ。

 消費者としては価格が変わらずパッケージも同じであれば、内容量の減少による実質的な値上げには気がつきにくい。仮に気がついても間接的な値上げである分、受容されやすい。一方で、企業としては原材料費や物流費、人件費の高騰を価格に転嫁しづらい中、利益確保のためにコストの増加分を何らかのかたちで相殺せざるを得ない。そのようなシチュエーションで効果を発揮する。

閾値を意識した値付けが鍵の「オッド・プライシング」

オッド・プライシング

 オッド・プライシングも消費者心理基準のフレームワークで、商品の価格を細かく設定することにより、消費者に安さを感じさせる価格設定方法だ。具体的には、300円を298円に設定したり、1,000円を980円に下げたりする方法が挙げられる。消費者にとっては最もなじみのあるプライシング技法だろう。スーパーマーケットやディスカウントショップなどで、比較的低価格の商品に用いられる。

 ちなみに、日本では「8」を使った価格設定(例:298円)が一般的だが、欧米では「9」を使った価格設定(例:$5.99)が多い。価格には心理的な閾値(いきち)があり、その閾値を超えると売上が大きく変動する。この閾値は、たとえば「100円」「500円」「1,000円」などの切りが良い価格の“近く”にある。

 したがって、値付けする際や値上げする際にはこの閾値の一歩手前で止め、価格の末尾を「8」にすることで、効果が期待できるだろう。逆に値下げをする際は、閾値を超えるまで価格を下げると良い。たとえば、120円のものを100円にするくらいなら、思い切って98円まで値下げしてしまったほうが、売れ行きは良くなるだろう。

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マーケティングと親和性の高い「ブランディング型」

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この記事の著者

下 寛和(シモ ヒロカズ)

 株式会社野村総合研究所 グローバル製造業コンサルティング部 グループマネジャー。慶應義塾大学卒業後、トヨタ自動車、会計系コンサルティング会社を経て、2014年に野村総合研究所に入社。専門はプライシング、原価企画、SCM、データサイエンス。日経BP「プライシングの技法」、技術情報協会「利益を拡大させるプライシング戦...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/07/28 08:30 https://markezine.jp/article/detail/42837

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