業務上、不必要なKPIは削ぎ落とすべし
――今回も、前回に引き続き橋本さん、飯島さん、梅澤さんに話をうかがっていきたいと思います。
――前回は、マーケターの“あるある”の課題に対して有効な「10の手法」のうち、1と2についてうかがいました。今回は「3.業務上、不必要なKPIは削ぎ落すべし」からうかがっていきたいと思います。まず、KPIが多いとどのようなデメリットがあるのでしょうか?
飯島:データを収集し、業務効率化に役立てる上でKPIの設定は非常に重要です。ただし、初めから多くのKPIを設定し過ぎると、その分、非常に細かいデータを取得しようとしてしまいがちです。その結果、それぞれのデータの理解や解析が浅くなるという弊害が生まれます。
確かに「このKPIが向上すれば、あのKPIも向上する」といったデータ間の相乗効果もあるので、複数のデータを見ること自体は良いことです。その場合は、事前にそれぞれのデータの関連性を把握しておきましょう。
たとえば「売上」や「利益」などの最終的なKPIを最上段に据え、それに影響を及ぼす「リテンション」や「顧客エンゲージメント」などの中間KPIを設定するのです。これらのKPIをツリー構造で整理し、各KPIの関連性や影響度を明確にしておくことで、必要なKPIと不必要なKPIを見極めることがより容易になります。
アドビのフレームワーク「KBOツリー」
橋本:新たなKPIを設定する際には、代わりに削れるKPIを探し、指標を5~8つに絞り込むのが望ましいです。
ちなみに、アドビでは「KBOツリー」というフレームワークを活用しています。KBOツリーは「ビジネスゴール(企業全体で達成すべきハイレベルな目標)」と「KBO(Key Business Objectives:ビジネスゴール達成のために必要な戦略やアクション)」「KPI(各KBOの進捗を把握するための指標)」の三層構造で構成されています。
橋本:たとえばECサイトであれば、最上位のビジネスゴールは「売上の増加」であり、そのためのKBOとして「訪問回数の増加」や「CVRの改善」「平均購入単価の向上」などが考えられます。施策の評価においては、CVRよりもRPV(売上高/訪問回数)を重視するケースもあります。
また、KPIはただ設定するだけでなく、すべての関係者と合意をとることが重要です。同じ数値目標に対して全員が行動できるよう、できあがったKBOツリーを共有して終わりにするのではなく、関係部門や関係者とのすり合わせを行いながら、合意した最終版を関係者へ共有しましょう。
梅澤:時期や戦略によって注視するべきKPIは変わるかもしれませんが、事業の最終ゴールに直結するKBOの内容は一定にすることをおすすめします。頻繁にKBOを変更すると、その下のレイヤーであるKPIの意味合いも変わってきてしまい、結果的にデータを基にした意思決定が難しくなるからです。KBOの選択と管理は慎重に行いましょう。