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MarkeZine Day 2026 Spring

田中洋が紐解く、ビジネス成功のキーファクター

【前編】田中教授が「実務家であり論者」と呼ぶダイキン片山義丈氏。両者が“ブランド”をテーマに対談

「空気で答えを出す会社」を体現してゆく

田中:「空気で答えを出す会社」を体現するような事例はありますか?

片山:実は、ダイキンは2020年から、アフリカのタンザニアでエアコンのサブスクリプションサービスを展開しています。タンザニアでは、普及率がまだ1%と決して高くないのに、せっかく設置されたエアコンの70%ほどが壊れています。私たちはこれを「ゾンビ・エアコン」と呼ぶほどで、つまりエアコン自体はあるのに動かないんですね。せっかくエアコンがあるのに使えない、さらに故障しているとエアコンからフロンガスが漏れて、温暖化に影響する恐れもあります。

 そこで、東京大学発のベンチャー企業「WASSHA」と連携して始めたのが、エアコンのサブスクリプションサービスです。WASSHAはアフリカの未電化地域でLEDランタンのレンタルサービスを展開しており、タバコ屋など生活用品を扱う小型店舗のキオスクで課金をすると、指定の時間、LEDのランタンが使えるというようなビジネスモデルを作っていました。その仕組みを活用し、一定額のお金を支払ったらエアコンも指定時間だけ使えるというビジネスを始めたのです。2020年6月には、両社で合弁会社「Baridi Baridi」も設立しています。

 この事業は、単にエアコンを売るというものではなく、現地の方々に密着した空気に関する新しいソリューションを提供するものです。2021年にはこの事業を紹介するテレビCMも作りましたが、社内外で非常に好評でした。「ダイキンは単なるエアコンの会社ではないのだ」というイメージが、社内で一気に広がった実感があります。

ブランディングに対する社内の理解が得られないなら?

田中:そういう事例があると、「空気で答えを出す会社」というワードの意味がとてもわかりやすいですね。日立さんも、以前、「社会イノベーション」の事例として、英国の鉄道事業の例を挙げておられました。社会イノベーションと言ってもすぐにはわかりませんが、鉄道というハードウェアとそれを運行するシステムの両方を手掛ける事業のことだよと言われると納得性が高まります。

片山:そうですよね。やはりファクトで示さないと社内理解が進まないこともあります。

田中:冒頭でお話しされていたように、社内でブランドを議論するというのはなかなか難しい話という問題があります。片山さんは、「空気で答えを出す会社」のコミュニケーションワードについても「ブランド」という言葉を使わずに、企業理念という言葉に置き換えて議論するとおっしゃっていました。これには私も賛成です。片山さんのご経験から、社内でブランドについて議論・検討する時、こういうポイントには気を付けたほうがよい、などのアドバイスをいただけますか?

片山:「ブランド」という言葉は人によって解釈の意味合いが異なりますから、やはり、今ご指摘にあったように「ブランド」という言葉を極力使わないように気を付けています。「ブランドについて社内で議論が進まない。ブランドへの理解が全然ない……」などと嘆く前に、「ブランド」という言葉を使わずに、ブランディングとして重要な3つの項目を議論・検討することをおすすめします

 3つの項目とは、「あなたの“企業・商品らしさ”が凝縮されていて、あなたの企業や商品が“なぜか、こだわっている”」こと。次に、生活者から「あなたの企業・商品が世の中からなくなっても、他の企業商品があるので、私はまったく損困らないのだが、どんな損があるの?」「あなたたちが存在することで、私に対してどんな良いことができると、(自分勝手に)思っているの?」と仮に質問された時の答え。最後に3つ目は、生活者から「あなたの企業・商品を人間に例えたら、どんな人ですか?」と問われた時の答えです。

 この答えは、必ず社内にあります。創業者の思い、企業文化、社是、経営理念、経営計画など一見ブランドと関係ないと思われがちですが、これらの中にしっかりと意味合いが入っていることが多いのです。

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この記事の著者

田中 洋(タナカ ヒロシ)

中央大学名誉教授。東京大学経済学部講師。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/09/13 09:30 https://markezine.jp/article/detail/43145

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