多彩なイベントでライト層を集客、ファン化
高橋:イベントでは、どんなものが効果的でしたか?
林:イベントを企画する際は、野球とは関係なく、一定の人が興味を持ちそうなキャラクターなどで興味を引くことを意識しました。
今年一番メディアなどで取り上げてもらえたのは、ポケモンの世界大会とのコラボですね。イベント中、選手がかぶったピカチュウのヘルメットにインパクトがあったようで、普段私たちがリーチできない層からも好意的なフィードバックをもらうことができました。
高橋:客足が鈍りがちな時期や対戦カードでも、イベントは有用そうですね。
林:集客が厳しそうな日程や対戦カードは、これまでのデータを分析すれば事前にわかります。そこに合わせてイベントを計画し、SNSなどで情報を拡散していくことで、観客動員数の落ち込みを避けています。
基本的には、どのイベントもいずれ均質化していくものと考えています。
今では当たり前になったイベントも多いですが、たとえば、勝利を祝う花火や選手とのハイタッチ、勝利したときのサインボールの投げ込みなどですね。ヒーローインタビューの見せ方を工夫したり、攻守交替の間にファン参加型のイベントを織り交ぜたりもしてきました。
そのようにして、初めて球場を訪れて「野球はわからないけど楽しかった」「横浜スタジアムでしか味わえない感動がある」と感じてもらえれば、球場に行くこと自体の価値が高まります。最初は誘われてなんとなく来た人が、次は別の人に声をかけて2回、3回と来てくれるかもしれません。イベントやグッズは、観戦価値を高めるツールとして企画・設計しています。
高橋:失敗した施策もありましたか?
林:試合に負けて満足できなかったらチケット代金を返金する、「負けたら返金」の試みはいまいちでした。企画自体がおもしろくて話題にはなっても、基準が曖昧だとうまくいきませんね。どのイベントも、終了後はしっかり効果検証して、ブラッシュアップして続けるなりきっぱりやめるなりの意思決定をしてきました。
2019年、観客動員数が2.1倍に
高橋:そういった努力の甲斐あって、2011年(DeNA体制前)との比較で2.1倍まで増加していますね。
林:ありがとうございます。2016年に黒字化し、2019年には観客動員数が2.1倍、ファンクラブ会員数が2011年(DeNA体制前)との比較で13.9倍まで成長しました。また、来場者の7割から8割が横浜市民であることもわかっていましたから、球場の外に出て地域を巻き込む仕掛けも始めました。
その頃には2017年から段階的に行っていた増築・改修工事も進み、ライト側に「ウィング席」、ネット裏には個室観覧席の「NISSAN STAR SUITES(日産スタースイート)」もオープンでき、プロ野球興行時には2万8,965人から3万3,912人まで増加したんです。そして2020年にはレフト側の「ウィング席」のオープンも控え、さらに多くの観客動員を見込んでいました。
ところが、2020年、新型コロナウイルスの感染拡大による動員制限で事態は一転し、2020年の観客動員数は約46万人。2021年は約72.6万人まで激減しました。

高橋:不要不急の外出や3密を避けるといった空気の中で、球場経営はかなりのインパクトだったと思います。後編では、コロナ禍でも黒字化をキープし、2023年のスタートダッシュにつなげるまでの道のりを伺います。
ここにマーケあり!
・スポーツビジネスの常識を変える、“試合の勝敗に左右されない”仕組み作りには、自社でデータ収集するという顧客像の把握がありました。
・野球のコアファンに絞らない、観戦自体を楽しませる体験に横浜DeNAベイスターズの根強いファン形成の仕掛けがありました。
