SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

おすすめのウェビナー

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

今知っておきたいマーケティング基礎知識

LTV、CACとは?SaaSに重要なユニットエコノミクスを解説


 近年、サブスクリプションビジネスを展開するSaaS企業は増えています。サブスクリプションビジネスは、商品を1回売って利益を出すのではなく、サービスを継続的に利用してもらうことで利益を上げていくビジネスモデルです。そのため、従来の短期的な利益予測だけでなく、長期的な視点に立った利益予測や費用対効果の検討が必要になります。今回はその指標としてLTVとCACで計算できる「ユニットエコノミクス」に着目して解説します。

LTVとCACで計算する「ユニットエコノミクス」

 ユニットエコノミクスとは、LTVとCACという2つの単位で計算できる指標です。まずは、LTVとCACそれぞれの意味と計算方法、ユニットエコノミクスの求め方やSaaS事業において重要な理由から見ていきましょう。

LTVとは

 LTVとは「Life Time Value」の頭文字を取った略語で、日本語では「顧客生涯価値」と訳されます。ある1人、または1社の顧客が自社と取引を始めてから終了するまでの間に、どのくらいの収益をもたらすかを示した指標のことです。例えば、ある顧客が1年目に1万円、2年目に3万円、3年目に2万円、4年目に4万円のサービスを購入し、その後解約した場合、その顧客のLTVは10万円と計算できます。

 このように、LTVはある月や年ごとの短期的な指標ではなく、長期的な指標であることがわかります。LTVの数値が高ければ高いほど、顧客が自社のサービスやブランド、サポートに満足していると考えられます。すなわち、自社の「ファン」になってくれている、と言い換えることもできるでしょう。

LTVの計算方法

 LTVの計算方法はビジネスモデルによってさまざまですが、ここではユニットエコノミクスが深く関係するSaaS型のビジネスモデルにおける計算式をご紹介します。

LTV=顧客の平均単価×粗利率(%)÷解約率(%)

 例えば、月額1,500円で粗利率が40%、解約率(チャーンレート)が3%のサービスがあったとすると、LTVは以下のように求められます。

1,500(円)×0.4÷0.03=20,000円

 LTVを求めることで、ターゲットとすべき「LTVが高い顧客の特徴」や「自社サービスは健全かどうか」が把握できます。なぜその顧客はLTVが高いのか、どんな機能やサービスがLTVに寄与しているのかを分析することで、サービスの改善にもつながるでしょう。

CACとは

 CACとは「Customer Acquisition Cost」の略で、日本語では「顧客獲得単価」と訳されます。ある1人、または1社の顧客を新規に獲得するのにかかるコストのことを言い、例えば以下のようなコストが含まれます。

  • 広告宣伝費、マーケティングコスト
  • 営業コスト、クリエイティブコスト
  • 技術コスト、制作費、人件費
  • 通信料、交通費、在庫管理コスト

 似たような概念に、広告効果を計測するCPA(Cost Per Acquisition、コンバージョン単価)がありますが、CACには広告費以外のコストも含まれる点が異なります。CACの数値が低ければ低いほど、低コストで顧客を獲得できているということがわかります。

CACの計算方法

 CACは、以下の計算式で求められます。

 CAC=顧客獲得にかかった総費用÷獲得顧客数

 例えば、あるサービスについて顧客を獲得するために広告宣伝費を50万円、営業コストを20万円、その他人件費や通信料、交通費などで30万円かかったとします。そして、得られた顧客の数が200人だったとすると、以下の計算式でCACを求められます。

(50万円+20万円+30万円)÷200(人)=5,000(円)

 つまり、顧客1人あたり獲得するのにかかったコストは5,000円と算出できます。

ユニットエコノミクスとは

 ユニットエコノミクスとは、LTVをCACで割って求められる指標のことで、以下のような計算式で表されます。

LTV÷CAC=ユニットエコノミクス

 例えば、前述のようにLTVが2万円の顧客を獲得するのにかかったコストが5,000円だとすると、以下のように求められます。

 ユニットエコノミクス=20,000÷5,000=4

 ユニットエコノミクスは、サブスクリプションビジネスにおいて顧客をいかに効率的に獲得できているかの指標です。高ければ高いほど採算性が高く、低ければ低いほど採算性が低いと言えます。

 また、LTV(顧客生涯価値)ではかることから、金額も期間も一定ではありません。そのため、特定の月や年における売上など、点で収益をはかる指標としてではなく、中長期的に期待できる損益を計算できます。

ユニットエコノミクスがSaaS事業で重要な理由

 SaaSビジネス、サブスクリプションビジネスでは、ユーザーに継続してサービスを利用してもらいながらコストを回収していきます。そのため、買い切り型の商品やサービスとは異なり、開発などにかかった初期費用を回収するためにはある程度の時間がかかります。そこで、中長期的な販売プランを立てることが重要です。

 ユニットエコノミクスでは中長期的な事業の健全性を測れるため、事業への投資状況や新規顧客の創出にかけたコストの回収見込み、顧客1人あたりの採算性などを把握できます。これにより、一時的な赤字に左右されない今後の成長可能性の判断ができるようになり、将来的に採算がとれそうかどうかの判断にも活かすことが可能です。

ユニットエコノミクスからわかること

 ユニットエコノミクスを計算することで、どんなことがわかるのでしょうか。ここでは、利益発生ポイントの予測、将来的なキャッシュフローと成長の予測、狙うべきターゲットと効果的な獲得方法の3つをご紹介します。

利益発生ポイントの予測

 顧客がどれだけの収益をもたらしてくれるかを表す指標であるLTVと、顧客獲得にかかる総コストであるCACからユニットエコノミクスを算出することで、どの程度のコストをかければどのくらいの収益が得られるかがわかります。

 そこから、どのくらいの期間で顧客獲得にかかった総コストを回収し、利益に転じられるかという「利益発生ポイント」を予測することもできます。例えば、ユニットエコノミクスが3であれば、顧客獲得にかけたコストを1年程度で回収できるということです。その後は利益に転じられるため、将来的な成長可能性が高いと考えられるでしょう。

 一方で、ユニットエコノミクスが1を切る、つまりLTVよりCACが大きい状況では、顧客を獲得しても赤字が拡大してしまうことになります。

将来的なキャッシュフローと成長の予測

 ユニットエコノミクスは、LTVとCACの比率とも言えます。この比率を把握することで、顧客が増加していくことでどのくらいのキャッシュフローが生じるのか、どのくらい成長していけるのかを予測することにもつながります。将来のキャッシュフローがわかれば、予算から逆算して自社の戦略や財務計画も立てやすくなるでしょう。

 このため、ユニットエコノミクスは四半期や年度ごとに継続して追っていくことが重要です。ユニットエコノミクスを見れば、自社が顧客獲得に注力すべき時期かどうか、顧客を獲得するためにどのくらいのコストをかけられるのかなどの戦略を立てられるでしょう。

狙うべきターゲットと効果的な獲得方法

 ユニットエコノミクスをLTV/CAC比としてみてみると、狙うべきターゲットや効果的な獲得方法の検証にも活かすことができます。例えば、SNSやマス広告、オフラインイベントなどの顧客獲得チャネルに対してユニットエコノミクスを算出することで、どの顧客獲得チャネルに注力すべきかがわかります。

 また、営業担当者や商材ごとにユニットエコノミクスを算出すれば、どの営業手法や商材がより効果的か、組織内でどれをメインに採用すべきかがわかります。これらを組み合わせれば、より具体的にターゲットの獲得方法や狙うべきターゲットが見えてくるでしょう。

ユニットエコノミクスは3以上

 ユニットエコノミクスの目安は3とされています。特にサブスクリプションビジネス、SaaS企業においては、健全とされるユニットエコノミクスは3以上と言われています。これは、一般的に目安とされているCACの回収期間(Payback Period)が12ヶ月以内であり、かつ、解約率(チャーンレート)が3%以内、を満たせるユニットエコノミクスが3以上であるためです。

 まず、これまで紹介してきたLTVとCACの求め方をおさらいしてみましょう。

LTV=顧客の平均単価×粗利率(%)÷解約率(%)

CAC=顧客獲得にかかった総費用÷獲得顧客数

 また、CACは顧客からもたらされる利益から回収されることを考えると、CACを以下のように表すこともできます。

CAC=顧客の平均単価×粗利率(%)×(CAC回収期間)

 この計算式とLTVの計算式を組み合わせると、ユニットエコノミクスは以下のような計算式で表せます。

ユニットエコノミクス=1÷{(解約率)×(CAC回収期間)}

 ここに、先程のCAC回収期間が12ヶ月以内、解約率が3%以内、を代入すると、ユニットエコノミクス=1÷(0.03×12)=2.777777…となり、小数点以下を四捨五入すると約3と計算できます。

CAC回収期間にも注意する

 前述のように、健全なユニットエコノミクスは3以上とされています。これには、CACの回収期間が12ヶ月以内であることが見込まれています。しかし、仮に解約率が低ければ、CACの回収期間が長くても3以上と出てしまうことも考えられます。例えば、解約率が1%の場合、CACを3年かけて回収することになってもユニットエコノミクスは約3と出ます。

 しかし、サブスクリプションビジネスが数多く台頭している現代、顧客が3年も同じサービスを使い続けてくれる保証はどこにもありません。また、CACの回収期間を長く見込みすぎると、翌年以降の計画を立てづらくなってしまいます。そのため、CACの回収期間は1年(12ヶ月)が目安とされているのです。

ユニットエコノミクスが低いときの対処法

 では、ユニットエコノミクスが低いときにはどのような対処法が考えられるでしょうか。ユニットエコノミクスはLTVをCACで割ったものですから、LTVを上げるかCACを下げるかのどちらかが考えられます。それぞれの場合について、詳しく見ていきましょう。

LTVを上げる

 まず1つめの方法として、LTVを上げる方法です。LTVを上げる方法はさまざまですが、ここでは顧客に対して最適なアプローチをする、カスタマーサクセスを充実させる、という2つの方法を解説します。

(1)顧客分析から最適なアプローチを見つける

 ユニットエコノミクスを高めるためにLTVを上げる方法として、まず挙げられるのが顧客分析をし、それぞれの顧客に最適なアプローチを行うことです。顧客分析をして最適なアプローチ方法を見つけ、施策として展開していくことをCRM施策とも言いますが、CRM施策を行うことにより、顧客の解約率を下げ、契約を継続してもらえるようにするという方法です。

 どのようなコミュニケーションが有効なのか、製品やサービスをどんな形でマーケティングするのが効果的なのかは顧客によって異なります。そのため、顧客分析を行い、それぞれの顧客にとって適したコミュニケーションをはかることが重要です。例えば、定期的にメールを配信する、契約の継続タイミングで割引施策を活用するなどが挙げられるでしょう。

 このように、顧客ロイヤリティの向上をはかることがLTVを上げることにつながります。

(2)カスタマーサクセスを充実させる

 次に、カスタマーサクセスを充実させる方法が挙げられます。カスタマーサクセスとは、直訳すると「顧客の成功(体験)」という意味であり、能動的に顧客に関わっていくことで顧客の成功体験を支援することを意味します。例えば、アフターフォローをしたりサポートを手厚くしたりといったことが、カスタマーサクセスの充実につながるでしょう。

 カスタマーサクセスと似た言葉にカスタマーサポートがありますが、カスタマーサポートがあくまでも受動的に顧客から不明点や不具合の問い合わせがあったときに対応するのに対し、カスタマーサクセスでは能動的に顧客と関わっていきます。そのため、カスタマーサポートはLTVに対し「顧客満足度を下げない」という消極的な形での貢献しかできませんが、カスタマーサクセスでは「顧客満足度を上げる」という積極的な形での貢献ができるのです。

 顧客の声をヒアリングして製品やサービスを改善したり、定期的にアフターフォローを行ったりすることで、カスタマーサクセスを充実させられるでしょう。

CACを下げる 

 次に、CACを下げることでユニットエコノミクスを高める方法です。CACを下げる方法もさまざまなやり方がありますが、ここでは広告費を最適化する方法と、CVRアップをはかる方法の2つについて解説します。

(1)広告費を最適化する

 CACを下げるためには、そもそもかかっているコストを下げるのが最も簡単で手っ取り早いです。そのため、無駄なコストがあれば洗い出し、新規顧客獲得のためにかかるコストを見直して最適化をはかるのが良いでしょう。中でも広告費は見直しやすいため、コストパフォーマンスの高い広告だけに絞り、費用対効果の低い広告を削るという方法が考えられます。

 例えば、リスティング広告などを使ったWebマーケティングでは広告費を抑えやすいですが、有料広告であることからどうしても継続的に支払いが発生してしまいます。そのため、広告費を絞る代わりに自社サイトのコンテンツを充実させる、ブランディングを行うなどして検索などからのオーガニック流入をはかるのも一つの方法です。

 初めは一時的にコストがかかるかもしれませんが、一度成功すれば他のサービスを展開する際にも広告費をあまりかけずに顧客獲得につなげられるでしょう。

(2)CVRアップをはかる

 CVRとは「Conversion Rate(コンバージョン率)」のことを指し、Webサイトへのアクセス数のうち、商品購入や資料請求、サービス契約などに至った割合のことを言います。サブスクリプションビジネスにおいては、広告などで顧客獲得を目指した際、広告ページに到達した人のうち、どのくらいがサービスの申し込みに至ったかで表されます。例えば、CVRが2倍になれば獲得できた顧客数が2倍になるため、CACは1/2に下げられるというわけです。

 CARを上げるためにはさまざまなアプローチがあり、アクセスするユーザーを厳選する、ターゲットにピンポイントで広告を出すなどの手法があります。例えば、検索語句や設定キーワードを設定する際、Web解析ツールなどを使ってユーザーがどんなキーワードで検索しているのか、どのページを見ているときに離脱してしまっているのかなどを分析することで、コンテンツマーケティングの最適化が行えます。

 また、ユーザーの属性ごとに異なる広告手法を取り入れたり、インパクトのあるコンテンツを取り入れてユーザーの感情に訴えかけたりするのも重要です。

LTVとCACから計算できるユニットエコノミクスを正しく理解しよう

 LTVとCACを使ってユニットエコノミクスを算出することで、利益の発生ポイントを予測したり、将来的なキャッシュフローを予測したり、狙うべきターゲットとその獲得方法が割り出せたりします。サブスクリプションビジネスで健全なユニットエコノミクスは3以上とされていますが、CACの回収期間にも注意しながら、適切な施策を打ち出していきましょう。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
今知っておきたいマーケティング基礎知識連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

マーケ研究所(マーケケンキュウジョ)

 マーケティングに関する情報を調べ、まとめて届けています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2024/07/31 23:30 https://markezine.jp/article/detail/43508

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング