写真のディレクションに集中できるのは、チームの支えがあってこそ
撮影経験があまりない場合、もっとも不安なのは撮影当日ではないでしょうか。撮影場所をおさえている時間にも関係者のスケジュールにも限りがあり、その中でクオリティを担保して予定カット数を撮り切らなくてはいけない。もしも撮り漏れや不備があり撮影し直しになれば、人や場所、日程などの再調整や費用が発生し、状況によっては撮り直しが叶わないことも多い……。こんなふうに考えを巡らせていると、撮影の成功がディレクションを任された自分にかかっているというプレッシャーに押しつぶされそうになることもあるでしょう。
そんな気持ちを払拭してくれるのは、その日一緒に撮影に取り組むチームみんなの存在。つまり、撮影は個人戦ではなくチームプレーなのです。サッカーの試合にたとえてみると、戦況を俯瞰して司令塔となる人、ゴール前までドリブルでボールを運ぶ人、最後にシュートを決める人などがいるように、撮影現場においても現場のメンバーそれぞれが自らの役割を把握し主体的に動くことで、撮影現場は上手く回ります。チームで連携しスマートな進行ができた分だけ、写真のディレクションを担う人は撮れ高の質にしっかり向き合い、落ち着いてOKカットを判断できるようになるのです。
私はアートディレクターとして撮影チームに入ることが多く、ほとんどの場合、撮影ディレクションの中でも写真のクオリティ判断をはじめ、現場で全体の指揮をとる役割を担います。その経験をもとに、撮影当日のコツをお伝えします。
本番撮影の時間を有意義にする前後の流れとは
実際、撮影当日はどのように進んでいくのでしょうか。企業などクライアントから依頼されて撮影を行うケースを例に説明していきます。
まずは撮影全体の流れです。撮影する内容や規模などによって異なりますが、次の図が基本的な流れをまとめたものです。各ステップのポイントも一緒に見ていきましょう。
1.撮影チーム 現地入り
アートディレクター、ディレクター、デザイナー、フォトグラファーなどが現地入りします。クライアントのオフィスなどをお借りして撮影する場合にはクライアントも同じ時間に来ていただくこともありますし、制作メンバーだけで事前準備を行える場合は、ステップ4の「試し撮り」の時間に合わせていただくこともあります。
現地に着いたらまず、最後に現状復帰するための記録写真やメモをとりましょう。撮影場所をお借りし机などを移動した場合、もとの状態に戻して撤収することが鉄則ですが、記憶だけだと曖昧になってしまうため記録しておくことをオススメします。
2.荷物の搬入
ロケハン時に考えておいた動線にそって、事前に決めた場所へ荷物を運び込みます。写す場所のことばかりに意識が向きがちですが、写ってはいけない荷物を適切な場所に置いておくことで時間のロスを減らせます。たとえば同じフロアの中で向きを変えながら複数の場所で撮影する場合、撮影時に写り込む範囲とスタッフの動線を考えた荷物の配置をしなければ、撮影場所が変わるたびに荷物の大移動をする必要が生まれ、時間のロスが発生してしまいます。
3.撮影場所/機材のセッティング
机を動かしたり、小物を配置したりなど場所のセッティングをします。フォトグラファーには並行して、カメラや照明機材のセッティングをしてもらいます。
4.試し撮り
セッティングがある程度できたら、試し撮りをしながら微調整していきます。人物撮影の場合、「スタンドイン」と言って、スタッフがモデルの代わりにポーズをとり画角や光のあたり具合を確認します。モデルの準備ができたらすぐに撮影できるよう、構図の検討や照明の設定をあらかた終えておくことで、本番ではモデルの表情やポージングに集中することができます。
5.モデルメンバー現地入り
モデルがいる撮影の場合、着替えやヘアメイクなど、準備にかかる時間を逆算して現地入りの時間を伝えましょう。うっかり撮影チームと同じ集合時間にすると待たせてしまうことになりますし、自分たちも早く準備を終わらせなければと焦ってしまうため、セッティングと試し撮りが終わるタイミングでモデルの準備が整うことが理想です。
6.本番撮影
本番撮影中の詳細な流れやポイントは、次の章で詳しく解説します。
7.撤収/現状復帰
ゴミなどを拾って掃除したり、忘れ物がないかにも注意しながら、はじめに撮っておいた写真やメモを参考に現状復帰をしましょう。場所を貸してくれた方や協力してくれた方にお礼を言って解散します。その際、フォトグラファーに撮影データをいつもらえるかなどの確認もしておきます。
このように、本番撮影前後の段取りをふまえてスムーズに進めることが、不安をなくし、心を落ち着けて本番撮影を迎えられるようになる秘訣です。