リタゲ広告衰退に見る課題と新たな選択肢
インターネットの進化にともない、ユーザーの行動を把握する技術も進化し、マーケターは効果の高い「リターゲティング広告」に積極的に投資するようになった。
しかし現在では、リターゲティングの過剰によって個人情報・データ活用のためのガイドラインが整備されつつあり、3rd Party Cookieに依存したリターゲティング広告は衰退していく流れが見込まれている。ユーザーの行動を把握でき、効率の良かったリターゲティング広告が活用できないならば、新たな戦略をどう立てていくべきか。昨今のマーケターたちの課題である。
「3rd Party Cookieの廃止によって、ブランド企業やリテール企業はどう顧客にアプローチするべきか右往左往している」と話すのは、ECのマーケティングソリューションを提供するZETA株式会社の代表取締役社長である山崎徳之氏だ。
SEOも似たような状況で、小手先の技術だけでGoogle検索の上位表示を獲得できる時代は終わったと話す。SEOもデジタル広告も、技術だけで儲かる時代ではなくなり、「ユーザーのためになることに本気で取り組んでいるかという、本来のビジネスのあり方に回帰している」と山崎氏は言う。1st Party Dataの活用もその一つで、ユーザーが同意して提供した1st Party Dataによって最適化されたコンテンツは、パーソナライズという形で歓迎される。
パーソナライズが望まれる背景には、「タイパ」という言葉に表象されるような、情報過多社会において自分の興味のあるものを効率良く摂取したい欲求が基本にある。もちろん、セレンディピティを求めてあえてパーソナライズ以外の情報に触れることもあるだろうが、ユーザーは自分にフィットしたパーソナライズを嫌がることはなく、快く迎えると推察される。
リターゲティング広告もある意味パーソナライズではあるが、山崎氏いわく「それをフィットしていると思うか、過剰と捉えるかはユーザーが決めることで、サービス提供側はユーザーに親身に向き合ったコンテンツを提供することが重要」だと言う。
UGC台頭の時代 リテールECサイトがとるべきアプローチ
山崎氏はECサイトの今後を語る前提として、現在のSNSとそこで数多く生まれるUGC(User Generated Content)にも言及する。
SNSが浸透するまでのインターネットでは誰がアクセスしても同じWebサイトが見えるという体験だったが、SNSではアカウントごとに違う景色(タイムライン)が見える。
「SNSの普及から、インターネットユーザーはパーソナライズの体験を手に入れたともいえます。その後、AmazonなどのECサイトもレコメンド機能を実装し、パーソナライズの体験はますます進化していきました」(山崎氏)
さらに、SNSが普及したWeb2.0以降、それまで情報を受け取る一方だったユーザーが情報の「発信者側」になり、発信量が企業を大きく上回ったこともキーポイントだ。
また、「ユーザーは、パーソナライズが当たり前になっており、情報の発信者にもなっていることもインターネットの前提」と語る。
ここまでのインターネットの前提を踏まえて、山崎氏は「リターゲティング広告が使えない中で、ユーザーに真摯に向き合い、UGCやパーソナライズを含めた取り組みを行うことが重要で、ECサイトも然りです」と話す。これまでUGCはECサイトには関係ないという風潮があったが、今やECにもUGCを活用する波が及びつつあり、ニュースサイトにもコメントがつくようになったように、ECサイトにおいてもUGCを二次コンテンツとして有効活用可能だ。
誹謗中傷を懸念するあまり、レビュー機能の追加に二の足を踏んでいるEC企業も多いが、山崎氏は「どうしたらユーザーが喜ぶのかを考えて活用することで、UGCはリターゲティング広告の代替となる可能性が高い」と提言した。
では、ECサイトでUGCを活用するために有効な機能とは何だろうか。
ECサイトの信頼性を大きく左右する「レビュー機能」の有無
山崎氏はECサイト上で活用できるUGCとして「レビュー」と「ハッシュタグ」の2つを示す。
顧客体験を考えれば“クチコミ”は欠かせない。誹謗中傷は規制などの対応が必要だが、きちんとしたレビューは購買を検討するユーザーにとって非常にありがたいものだ。
企業が一方的に発信する情報には商品の良いところだけが掲載されることがあるが、レビューには「こういう面は」「私にとっては」という第三者の視点が含まれ、レビューは企業からの説明より12倍信頼されているというデータもあるという。
「自分を一人のユーザーだと思って考えると、レビューの重要性について気付くことができると思います。たとえば、Amazonや楽天で商品を検討している時、口コミが0件だと私も購入をためらいます」(山崎氏)
さらにいえば、レビュー機能がついていないECサイトは敬遠される可能性がある。レビューやクチコミの有無だけでなく、ECサイトとしてのレビュー機能を設けているかどうかがユーザーにとってのモチベーションになるということだ。「レビュー機能自体の有無がサイトに対する信頼性に大きな影響を与える」と山崎氏は強調した。
加えて、Q&Aも信頼性向上のために重要な機能で、Amazonなどが既に実装している。ここで指すQ&Aは公式が前もって掲載しておくQ&Aではなく、購入を検討しているユーザーが製品に関する細かい質問をすると、ユーザーやメーカーの担当者が回答してくれる場のことである。このディスカッションの場は、双方向性のあるインタラクティブなコンテンツになっている点がユーザーに好まれるポイントだ。
ECサイトとSNSとの架け橋になる「ハッシュタグ」
EC上でのUGC活用に向けてもう一つ加えたい機能がSNSから生まれた「ハッシュタグ」だ。SNSと同様、ハッシュの後にキーワードをつけて特定のトピックに関する情報を集約しやすく、ユーザーは膨大なUGCを横断でき閲覧しやすい状態になる。
「ECサイトにおけるレビューもUGCの一つで、近年は読み切れないほどたくさんのレビューが集まるようになっています。それをハッシュタグにすることで、商品説明がわかりやすくなることはもちろん、サイト内回遊の向上や滞在時間の向上にもつながります」(山崎氏)
たとえばアパレルのECサイトなら「トップス」「ボトムス」「メンズ」「ウィメンズ」といったジャンル分けがある。ユーザーが作るハッシュタグもそれと近い形で機能し、商品を絞り込める。重要なポイントとして「ハッシュタグはユーザーが作成してSNSのように盛り上がれるところが良い」と山崎氏。
実際にハッシュタグ機能を導入した企業は、回遊率や流入の増加といった効果が出ているという。流入にも効果が出た背景を、山崎氏は「ユーザーが作ったハッシュタグ・レビューは企業が一方的に押し付けているコンテンツではないため、Googleからも重要性が高いページだと評価され、SEOにも効果があるのではないか」と話す。また、SNSとECサイトがハッシュタグを通して結び付くことで、外部との接続という意味でも新たな価値が生まれていくという。
こうしたUGCが、特にECリテールでは「CX向上のスパイラルを生み出す」と山崎氏は語る。よくいわれていることだが、従来の購買行動は「認知・共感・購買・体験」まで完結していた。ところがSNS普及以降は加えて、購買体験後の「発信・拡散」がある。もちろん100人が購買して100人に気に入られるプロダクトはなかなかないため、発信されるレビューの中には好意的な意見もそうでないものもある。
「実際に使ったユーザーが良いも悪いも発信して、それが次に買うユーザーの検討材料になる。ユーザーはUGCがあることで『思い切って買おう』という決定ができる。そういった購買体験のサイクルが生まれるわけです」(山崎氏)
「もはや決済機能のついたSNS」ECサイトはコマースメディアへ
ECサイトがUGC活用の場を備えた先に、「ECサイトはコマースメディア」になるというのが山崎氏の見立てだ。
昔はECサイトの外に、クチコミブログや体験記事などの情報があった。それらを参照した後に、ECサイトを訪れて購入する。つまりECサイトは買うためだけの場所だった。今はECサイトの中にコンテンツがあり、商品情報や在庫状況はもちろんクチコミや満足度もわかる。
つまり、以前は決済するだけのレジのような機能だったECサイトは、今や充実したコンテンツを擁したメディアになってきているというわけだ。もちろん、ブランドのECもメディアになりうるが、「多様なブランドが集まるリテールECの方が、メディアとしてはより大きくなる」と山崎氏は言う。
さらにレビューは「誰が」投稿しているのかという情報も重要になってくる。たとえばアパレルのECサイトならば、ユーザーの性別、年齢、どのような体型の人の意見なのかわかったうえで参考にしたい。もはやECサイトは「決済機能のついたSNS」に進化していくと山崎氏は提言する。
メディアとして育ちつつあるECサイト。そこで何が起こるかというと「集客」の活性化である。コマースメディアが訪問して楽しい場所に成長すれば、ユーザーは自ら来てくれる。その中で本当に気に入った人に買ってもらえば良いという考え方だ。
EC×UGCで新たな経済圏が生まれる
このように、UGCの広がりによって今ではコマースに新たな経済圏が生まれつつある。山崎氏はコマースメディア化を「3rd Party Cookieが規制される流れの中の集客でリターゲティング広告に代わりうる有望な取り組みの一つ」と語る。
そうした時代の流れにおいて、ZETAが提供するのは「ZETA CXシリーズ」というマーケティングソリューションである。EC商品検索・サイト内検索エンジン『ZETA SEARCH』のほか、ここまでのテーマに関連するレビュー・口コミ・Q&Aエンジン『ZETA VOICE』と、ハッシュタグ活用エンジン『ZETA HASHTAG』などを提供している。
実際にZETAが提供するこれらのソリューションを導入した企業では、回遊ページ数452%や、CVR373%といった効果が見られているという。
そして最後に、レビューやハッシュタグと関連するZETAの取り組みとして、有望な新製品を発表した。ユーザーや店舗スタッフなど様々な人が商品の組み合わせを提案できるECキュレーションエンジン『ZETA BASKET』だ。
従来企業が「新生活応援セット」や「季節のスタイリング」を提供していたのに代わって、ユーザーが実際に買って良かった商品のセットや店舗スタッフが消費者へ提供したい商品をカテゴリごとにまとめてコーディネートのような形でオススメができる。この新機能に対して山崎氏は、「レビューやハッシュタグとも密接につながり、コマースメディアが盛り上がるのではないか」と期待を寄せた。
▼ZETAが提供するECマーケティング・リテールDXを支援するソリューション「ZETA CXシリーズ」の資料は、資料ダウンロードページよりダウンロードいただけます。