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メーカーがCDPを活用し顧客理解を深める意味とは?サンスターが全社横断で取り組む顧客起点のデータ活用

 消費財事業をはじめ、数多くの製品を開発・販売しているサンスター。小売を介するメーカー企業はユーザとの接点を持つことが難しいことが多い中、同社は顧客を中心としたバリューチェーンを築くべく、データを基にした顧客理解を推進。具体的にはCDP(Customer Data Platform)を用いて、顧客データを蓄積、分析し、活用しているという。一体どうやって顧客データを蓄積しているのか? 分析の方法や活用法は? サンスターのデータ利活用プロジェクトについて、担当者が詳細を解説した。

多様な事業を有するグローバル企業「サンスター」

 サンスターは、近年、データに基づく顧客理解の推進に大きな力を注いでいる。インキュデータの支援のもと、この取り組みをリードしているのが、デジタル戦略グループ グループ長の浜辺康平氏だ。

【左】インキュデータ株式会社 ソリューション本部 マーケティングソリューション部 芦沢 桃子氏【右】サンスター株式会社 デジタル戦略グループ グループ長 浜辺 康平氏
【左】インキュデータ株式会社 ソリューション本部 マーケティングソリューション部 芦沢 桃子氏
【右】サンスター株式会社 デジタル戦略グループ グループ長 浜辺 康平氏

 サンスターの創業は1932年。実は、自転車のパンク修理で用いる「ゴムのり」の製造・販売から事業が始まっている。そこから、高層ビルの建築に活用されるシーリング材や日系自動車の接着剤の製造に発展し、現在も工業用品の市場では高いシェア率を保有。BtoCの消費財事業だけでなく、BtoBで工業用品も扱っており、事業の幅が非常に広いという特徴を持つ。

 また、サンスターと言えば日系企業のイメージが強いかもしれないが、グループ本社はスイスにあり、世界22ヵ国で事業を展開。売上比率も半分以上を海外が占めている、正真正銘のグローバル企業だ。

 「グローバルに事業を展開しながら、オーラルケアを中心にヘルスケア、ビューティケア、生活空間に至るまで包括的に、人々の健康な生活習慣づくりに貢献していきたいと考えている。それが私たち、サンスターです」(浜辺氏)

ロイヤルユーザの解像度向上を目指し、CDPを導入

 浜辺氏の所属するデジタル戦略グループは、主に消費財の領域を担当。デジタル上で生活者との接点を創出し、顧客データを活用しながら、顧客理解を進めることを大きなミッションとして持つ。そのミッションの先に掲げている目標は、サンスターのロイヤルユーザに対する解像度を上げ、ロイヤルユーザ拡大の道筋を立てていくこと。オーラルケア製品は価格帯が低いため色々なブランドの製品を試しやすいが、特定の製品を継続して購入するロイヤルユーザもおり、この存在がブランドの売上全体に大きく影響するのだという。

 メーカーは小売を経由する産業構造上、ユーザと直接的な接点を創出しにくい。そうした中で、サンスターは顧客データ基盤として大きく次の3つの接点を持っている。そして、この3つの接点から得られるデータを1ヵ所に統合し、全社を横断した顧客理解の取り組みを進める目的で、2022年にCDP(Customer Data Platform)を導入した。

顧客と直接繋がり、データを取得できる場所としてサンスターが有している3つの顧客接点
顧客と直接繋がり、データを取得できる場所としてサンスターが有している3つの顧客接点

1.自社ECサイト「サンスターオンラインショップ」:サンスターの一部の健康食品やオーラルケア製品などを販売している。

2.会員コミュニティ「クラブサンスター」:オーラルケアを中心に健康増進に役立つ情報を発信。コメントやアンケート回答でポイントが貯まる機能や、歯科医師、歯科衛生士などの専門家に相談できるサービスを提供している。

3.自社アプリ「お口元気チェックアプリ」:お口の元気度を数値化しセルフチェックすることができる無料のスマートフォンアプリ。2021年5月から提供している。

 サンスターのCDPには、自社のEC会員と自社のコミュニティ会員のデータに加え、外部の2ndパーティーデータ、3rdパーティーデータも統合されている。これを活用し、注力的に進めている取り組みについて、浜辺氏は次のように話す。いずれも顧客中心のバリューチェーンを構築することを目指し、全社横断でデータ活用を推進するものだ。

 「今、データ活用を進めている領域は大きく3つあります。1つは、ユーザを深く理解し、ブランドコミュニケーションや製品開発に活かしていくための取り組み。2つ目は、営業担当者が棚割りの提案や売り場を提案する際に参考にしてもらうための取り組み。3つ目は、自社のECユーザを理解して自社のECを拡大していくための取り組みです」(浜辺氏)

データ活用プロジェクトの全体像
データ活用プロジェクトの全体像

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データ収集・分析の後にぶつかりがちな意外な課題

 講演では、CDPを活用して実施している施策例として、2つの取り組みが紹介された。

 1つ目は、自社EC会員の解像度を上げるための取り組みだ。CDP導入時のデータ統合により、自社EC会員と「クラブサンスター」のコミュニティ会員をまたいだ分析が可能に。この2つの会員データを照らし合わせて分析したところ、両方に登録して利用してくれている会員がいることが判明した。

 そこで、両方に登録している会員に着目しさらに分析を進めると、それらの会員ユーザは自社ECでの年間購入金額、購入期間が長いことが判明したという。これがCDP活用により最初に得られた発見だった。

 「この発見を起点に、重複登録の会員ユーザをロイヤルユーザと仮定し、彼らがどのような顧客なのか、サンスターのどのような点に魅力を感じて長い期間利用して下さっているのかを分析していきました」(浜辺氏)

 まず行ったのは、CDPに備わっている機械学習の機能を活用した分析だ。重複登録の会員ユーザに見られる特徴を機械的に抽出していったが、ある課題にぶつかる。

 「機械学習で特徴を出すことはできたのですが、そこで得られた特徴は既にわかっていたことが多く、次のアクションには繋げられませんでした」と浜辺氏。たとえば、年齢が高いユーザほど年間購入金額が高いという傾向だったり、登録期間が長ければ長いほど購入期間も長いという傾向だったり、想定範囲内の特徴しか得られなかったという。

行動ログのN1分析を行い、仮説を抽出

 その後、浜辺氏はアプローチを変更。重複登録の会員ユーザ一人一人の行動を分析し、何が購買のドライバーになっているかの仮説立てを進めていくことにした。

 そうして行動ログを分析したことで、浜辺氏のチームはユーザが製品を購入する直前に発するあるシグナルを見つけたという。セッションではあるユーザの行動履歴を例に、顧客像を肉付けしていく様子が紹介された。

 「たとえば、このユーザは、健康食品を購入する手前で、『運動不足のコラムを読む』といった、健康意識が高まるような行動をしていました。このことから『長期間会員組織に所属していただいている方は、健康に不安を感じるタイミングがあると、製品の購入してくださるのかもしれない』と考え、『お客様に合ったタイミングで製品を提案できれば、その後ロイヤルユーザになっていただける可能性が高いのでは』という仮説を打ち立てました」(浜辺氏)

N1の行動ログ分析と仮説出しの一例
N1の行動ログ分析と仮説出しの一例。対象コラムを閲覧したユーザにメルマガで製品を提案するなど実際の施策にも繋げており、そのメルマガ施策では平均値より高い成果が出ているという

 上記はあくまでも一例で、浜辺氏のチームはこうした仮説をいくつも立て、日々検証に取り組んでいる。今後は購入後のブランド体験を分析し「どんなブランド体験があれば、ロイヤルユーザになるか」を明らかにしていくのだという。

 また、これらの分析から得られた示唆や仮説は、他事業部でも様々な施策に活用できるよう抽象化した上でフォーマット化し共有するなど、拡張性や再現性のある取り組みにする工夫もしている。なお、こうした横断的なデータ活用を行うための戦略策定からチームビルディング、実際の基盤構築まで、インキュデータが幅広くサポートをしているそうだ。

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データの“量”が足りない分は、定性調査でカバー

 次に浜辺氏は、ロイヤルユーザの理解に向けた分析フローを紹介した。

 この分析においても、「クラブサンスター」の会員と、外部の購買データのユーザとで重複しているユーザに着目。外部購買データにおける購入金額平均値と重複ユーザにおける購入金額の平均値を比較した結果、重複ユーザの年間購入金額およびロイヤルユーザ出現率が2倍以上高いことがわかった。

 ただ、これだけではアクションに繋げられないため、購入金額や購入個数の多いロイヤルユーザを選定してN1インタビューも実施。すでに今年度だけでも数十名にインタビューをしているという。

 N1インタビューに力を入れている理由について、浜辺氏は「現状有しているデータの量だと、定量的に分析しても想像の域を出ない顧客理解しか得られず、アクションに繋がりません。まずはN1インタビューで仮説を得た後に、それに基づくデータを取得していくというアプローチの効率が良いと考えています」と説明する。

N1インタビューを起点にした、仮説検証型の分析フロー
N1インタビューを起点にした、仮説検証型の分析フロー

 こうした取り組みにより、ロイヤルユーザの理解を蓄積し、他の事業部においても参考になるような顧客情報基盤を作っていくことが当面の目標だそうだ。

顧客体験の向上とデータ活用の両輪を回していく

 メーカーにおいては、CDPの導入・活用のメリットや意義がはっきりしないこともあるだろう。浜辺氏は、メーカーのCDP活用の本質について次のように話す。

 「お客様からデータを取得し、分析していくためには、お客様に『データを渡しても良い』と思っていただくことが必要です。だからこそ、メーカー側は価値のある体験を提供していくことが必要不可欠だと感じています」(浜辺氏)

 そのためには、顧客理解の深化と価値ある体験提供を連動させ、サイクルとして回していかなければならない。このサイクルを回すことで、顧客の解像度がどんどん高まり、全社で活用できる顧客情報基盤へとCDPが進化し続けるのだ。メーカーがCDPを導入し、活用する意味はここにある。

 サンスターの場合、会員コミュニティ「クラブサンスター」は、データを取得しながら、より良い顧客体験を提供するための重要な接点だ。「このコミュニティ内でカスタマージャーニーを内包しながら、顧客接点を創出し、並行してデータを取得できる仕組みも作っていきたい」と浜辺氏。

 たとえば、オーラルケア事業でいえば、セルフケアから始まり、何か悩みが生じたらプロによるアドバイスを希望し、そのアドバイスのもとアイテムを購入するといったカスタマージャーニーがある。それらに合わせて、サービスやコンテンツを提供し、顧客データの取得および顧客理解に繋げていくというイメージだ。

 最後に浜辺氏と支援を行うインキュデータの芦沢氏は次のように今後の展望を語った。

 「顧客体験そのものを良くしていくために、データをお客様に還元していく活動にも取り組んでいきたいと考えています。具体的には、何か課題や悩みのあるお客様には、セルフケアの方法などお役に立てるコンテンツをタイムリーに提案したり、適切なアイテムブランドを提案したり。こうした体験を実現できると、製品の満足度も高まっていくはずです。顧客体験をアップデートしながら、お客様のオーラルケアやヘルスケアの不安や不満を解消していけるようなサイクルを作っていきたいです」(浜辺氏)

 「サンスター様とのプロジェクトでは、様々な取り組みを行っていますが、今後も引き続き顧客理解の深化というテーマをもとに、サンスター様のユーザへの提供価値に還元できるような仕組み作りの実現に向けて、ご支援させていただきたいと考えております」(芦沢)

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この記事の著者

タカハシ コウキ(タカハシ コウキ)

1997年生まれ。2020年に駒沢大学経済学部を卒業。在学中よりインターンなどで記事制作を経験。卒業後、フリーライターとして、インタビューやレポート記事を執筆している。またカメラマンとしても活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:インキュデータ株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2023/10/29 17:13 https://markezine.jp/article/detail/43614