オウンドメディアの記事を活用
――1万という数字はどこから来たのでしょうか?
畠山:数字に根拠はありませんが、中途半端な目標にしたくはありませんでした。多様さを打ち出していくための数字的なインパクトを踏まえると100では少ない。実際に画像生成を担当したベンダーさんと技術的に可能なラインを探って、1万という数字に落ち着きました。
ただ、まったく何もないところから1万種類の画像は生み出せなかったと思います。私たちは「LIFULL STORIES」というオウンドメディアも2018年から運営しています。一人ひとりが持つ既成概念や思い込みに気づき、解き放たれたことで自分らしく生きる、様々な分野の方やLIFULLの社員に取材した記事を200本ほど蓄積しています。
橋本:記事のタイトルから既成概念を打破するテーマを抽出し、画像生成的には向かないものを除外しつつ、その上で足りないテーマをメンバーで考えました。
畠山:メディア運営も私たちのチームが担当しているので、テーマ選定や画像チェックでの目線が揃えられた点も大きいと思っています。
約6万リポスト達成、ポジティブな意見も目立つ結果に
――定量的・定性的に今回の取り組みをどう評価されていますか?
畠山:定量的にも定性的にも、実施して良かったと考えています。定量的な観点では、LIFULLのブランドを認知している方とサービス名を認知している方の重複認知を実施前後で比較すると、きちんとリフトしていました。また、KPIのリポスト数も目標をしっかり超えていました。
定性的な観点で言うと、当初はどんなネガティブなコメントを受けることになるのだろうか、とある種ビクビクしていたところもありました。しかし、想像以上にネガティブなコメントは少なく、「フワちゃんの画像がかわいい」とか「おもしろい」というコメントが多かったです。当初の目的の通り、「しなきゃ、なんてない。」というメッセージに共感してくれた方もいらっしゃいました。非常に好意的な反応が多かった印象です。
――TwitterからXへの名称変更や、様々な仕様変更が起きている中でのキャンペーンでしたが、従来のTwitterキャンペーンと比べて変化はありましたか?
畠山:投稿をリポストしてくれた人に画像を自動でリプライするシステムを活用したのですが、利用条件に有料プランの加入や出稿金額などがあり、有料化の流れは感じました。一方、ユーザーの反応についての変化は特に感じなかったです。
KPIを達成するために予測を立てる中で、広告とオーガニックでどれくらい拡散できるかの見込みも立てていましたが、蓋を開けてみるとオーガニックのほうが増えていた点は少し意外でしたね。もちろん広告のインプレッション等が寄与して、オーガニックが増えた側面があると思います。もう少し、広告に偏った形になると思っていたので、この点はポジティブに捉えています。
AIを活用するためにしたこととは?
――AIを広告やキャンペーンに使いたくても、様々な理由で実行できない企業もいるかと思います。実行のためのアドバイスや、今回得た知見をうかがえますか。
橋本:技術やブランディングのリスクヘッジという観点でいくと、AIを使って大丈夫か判断する材料集めはしっかり行い、自分たちが納得できるようにしたほうが良いと思います。生成に使うモデルをどう選んだらいいか、現在の法解釈の中でどのようなルールを守れば大丈夫なのか、何をしたら駄目なのかについて、私たちも事前に調べたり法務に相談したり、外部の方にお話をうかがったりしました。これなら大丈夫だ、と安心できる材料を調えた上で企画を進めると良いと思います。

また、通常のコミュニケーションやCM展開時でも同様ですが、AIに対してお客様からご意見やお問い合わせを受けたときのQAリストを用意して、窓口を担当する部署へ共有しました。
畠山:上司や経営層へどう説明したらいいかわからないケースもあると思います。ここは社内体制も関わってきますよね。LIFULLの場合は、クリエイティブ本部長の川嵜(鋼平氏)が執行役員Chief Creative Officerとして経営に関わっています。経営層もクリエイティブやブランディングに理解があり、私たちと共通認識を持っています。その上で、AIをブランディングにどう活用していきたいかという話ができました。ですから、まずはブランディングの方針からきちんと把握してもらう必要があると思います。
また、今回取り組んでみて、現時点でAIは法的にも技術的にも広告代理店さんにお任せできる範囲は限られていると感じました。自分たちが主導で進め、意思決定を行う必要があります。そのためには、エンジニアさんと会話できるメンバーや、クリエイティブに自分たちの考えを反映できるメンバーが参加する体制を作ることも重要だと思います。
