オンライン行動を可視化するマインディア
リテールAI研究会は、リテール分野において新しい買い物体験を実現するためにAIテクノロジーをビジネス活用して流通業界をAIで変革するエコシステムの構築を目標に2017年に発足した。
流通業界および流通業に関わるすべての企業に対し、AI活用の実験、事例づくり、企業同士での連携などを行う団体として活動。現在流通業界企業を中心に約250社が加盟している。
同会に入会するマインディアは、「消費者の中に埋もれている価値をテクノロジーで再発掘し、データを有効活用することでマーケティングを進化させる」をミッションに、EC購買(オンライン行動)データ解析プラットフォームを提供している。
同社が収集しているデータは2つ。1つが、様々なECプラットフォームにある「ランキング」「商品レビュー」「JANコード」などのデータをクロールで集める「公開データ」。もう1つが、「消費者メールデータ」だ。消費者からの許諾を得て、受信メールBOXのデータを預かり、データ解析に活用する点が特徴だと、CCO兼CROの田中氏は言う。
「受信メールBOXの中には、ECモールで購入したときの注文完了メール、何かのサイトに会員登録したときの登録完了メール、資料請求完了メールなど、いわゆる“コンバージョンメール”が蓄積されています。さらには、旅行や結婚式など様々なライフイベント関連の予約データ、アプリ課金データ、メールマガジンデータなども溜まっています。これらのデータを収集・解析し、オンライン行動、EC購買行動を分析するソリューションを提供しております」(田中氏)
リテールAI研究会とオフライン×オンラインの分析・実験へ
現在、マインディアのメールデータ連携に合意しているユーザー数は約20万人で、国内最大級の規模になっている。そんなマインディアがなぜリテールAI研究会に入会したのか。
「弊社が保有するデータはあくまでもオンライン上のリテールデータです。リテールの主戦場がオフラインであることを踏まえると、オフラインリテールの情報収集は必須です。また、リテール各社が現在、かなりのスピード感でオンライン化を進めている中で、私どものデータがお役立ちできることがあるだろうと考え、入会させていただきました」(田中氏)
リテールAI研究会では2024年1月から、マインディアのオンラインデータを用いたオンラインリテール戦略の実証実験を実施する予定だ。
リテール業界では商品管理体系の整備が急務
続いて、マインディアのこれまでの取り組みと課題感について田中氏が説明する。同社の主なクライアントは「リテール」「メーカー」「コンサル・その他」の3種類。それぞれに対してデータを用いた取り組みを進めている。
対リテールでは、他サービスとのクロスユースの状況、競合ECモールでの動向調査をサポート。対メーカーでは、主要ECモールのデータを横断で見ることによる、自社/競合の売上分析。受信メールBOXのデータをもとにした、ブランドの買い替え傾向の可視化などに活用されている。対コンサル・その他としては、エンドクライアントにデータ提供するための共同提案やデータ販売を共同で行うという関係性を築いている。
各プレイヤーに応じて、データホルダーとしての立場でオンラインリテールに貢献しているという現状だ。これらの活動の中で発見された市場課題があると田中氏は言う。
「業界全体でオンライン化が進んでいますが、非標準化状態に起因する工数肥大が見られます。標準がない状態であるがゆえに、各社、かなりの工数を割かざるを得ないのです」(田中氏)
リテール各社がオンライン化する際、まずは店舗に並んでいる商品をそのままEC上に持ってこようとする。すると、管理商品数が多すぎて、EC上への登録、マスタ更新作業が膨大になる。結果、本来的に取り組まなければならないプライシングやマーケティングが後回しになったり、常に手探り状態になったりしてしまう。
その直接的な原因を「基本的には分析活動不足」だと田中氏は指摘する。「まずは(オンラインの)お店に物を並べよう」と考えてしまうため、分析まで意識や手が回らないのだ。さらに掘り下げて根本の原因を探ると「統一商品管理体系がない」点が浮き上がってくる。
「要は、商品軸での分析ができる環境が現状ないのです。リテール各社様がオンラインに出ていくときにぶつかる課題を解決するために、体系的・横断的に利活用が可能な商品管理体系の整備が急務であると認識しています」(田中氏)
業界共通商品マスタ「J-MORA」が与えるインパクト
この課題を解決できるのが、リテールAI研究会が持つ業界共通商品マスタ「J-MORA」だ。
「長年の業界課題として、商品の共通マスタが存在しない点があります。メーカー・卸・小売が各々の商品マスタを作成するため、ミスもありますし、手間も膨大にかかっている。これに対するソリューションとして、業界共通商品マスタ『J-MORA』を開発しました」(今村氏)
「J-MORA」は使いたい人が使いたいモノを創るオープンな形式で構築されており、JANコード単位で必要な情報が整理される。さらに、「J-MORA」が持つオフラインデータと、マインディアの持つオンラインデータを掛け合わせることで、オンラインとオフラインのデータを行き来できるようになる。「J-MORA」は現在、研究会内に限って公開しているが、今後はオープン化に向けて準備を進めていくという。
この協業により、「統一商品管理体系がない」という課題はJ-MORAを活用してJANコードを付与することで解決できる。「分析活動不足」については、JANコードが付与されていれば商品単位での分析が行いやすい環境が整備できるため、勝ちパターンを見つける活動に注力できる。
これにより、リテールやメーカー各社が工数に埋もれることなく、効率的で再現性のある成果が出せる業務に注力できるようになるというロジックだ。
「J-MORA」×生成AIで業務効率化を実現
続いて今村氏は続いて「J-MORA」を活用した事例を紹介した。
1つ目は、Amazonの商品名をオフライン店舗での商品名に変換し、JANコードを付与するケースだ。生成AI(ChatGPT)を使った対話によって実現している。
「Amazonにおける商品名は、検索にかかりやすくするために、非常に長い名前がつけられていることがあります。ここからJANコード、商品コードを当てるのは非常に難しいです。そこで、生成AIを使って、長い商品名からオフラインでの商品名を生成します。次に、生成したオフラインの商品名と最も近いJANコードは何か、「J-MORA」上のデータを使って導き出します。この2ステップで、8割近くのEC商品にJANコードを付与することができるようになっています」(今村氏)
この手法のポイントは2つ。1つは生成AIを使うことによって、今まで難しかった複雑なタスクができるようになったこと。もう1つが、「J-MORA」側には1つの商品に対して何種類もの名づけがされたデータがあるため、小売ごとの表記ゆれに困ることなく、その中からJANコードを探せることだ。「これはすごく大きな進化だった」と今村氏は手応えを述べる。
ちなみに、生成AIを使えば、短くシンプルなオフラインの商品名を入力して、検索にかかりやすいオンライン用の商品名を生成することもできる。これは工数削減という守りの面だけでなく、マーケティングといった攻めの部分にもつながる。
データの掛け合わせは、消費者インサイトの発掘にも役立つ
2つ目の事例は、オフラインとオンラインの購買データを生成AIに読み込ませ、消費者行動インサイトを見出すというもの。
マインディアが持つオンライン購買データと、「J-MORA」が持つ複数の小売を横断したオフライン購買データを掛け合わせることで、消費者インサイトが見つかる可能性が高い。
事例では、「歯ブラシを買った人が他に何を買っているのか」をオフラインとオンラインを比較して分析。共通点と相違点を、それぞれ生成AIを使ってまとめたものだ。「おもしろいインサイトが見られた」と今村氏は語る。
「注目すべきは相違点です。オフラインでは美容やスキンケア商品を多く購入していて、オンラインでは食品や子供服の購入が多くなっていました。日常生活を思い浮かべると、食品はオフラインのほうが多そうだと考えがちです。しかし、現実は逆でした」(今村氏)
このインサイトからわかるのは、オフラインでの品揃えをそのままオンラインに持っていっても売れないということだ。
「このようなことを簡単に把握できる点が、非常に重要だと思っています」(今村氏)
最後に田中氏がリテール、メーカー、コンサル・その他のそれぞれに向けた貢献の方向性を表明した。
リテールAI研究会とマインディアのソリューションを活用することで、リテール各社の工数が削減し、本質的なビジネス活動に時間を割けるようになる。メーカーはリテール横断での分析によって、オンライン行動に対して、点ではなく面でのアプローチが可能となる。これにより、リテール市場の活発化が期待できる。すると、ソリューションを提案するコンサル企業の需要も増え、さらなる発展が見えてくる。
「私どもはデータホルダーという立場ですが、オンラインリテールの市場全体の盛り上がりに貢献できればと考えております」(田中氏)
田中氏は力強く語り、講演を終えた。店舗のオンライン化を進める一方で本質的な成長戦略に手が回っていない、より深い分析がしたいと考える企業の担当者は、「J-MORA」の情報が入手しやすいリテールAI研究会への入会を検討してみるのも良いかもしれない。