PageRankという価値形態は形骸化してしまったのか
元々、Googleが高く評価されたのは、PageRankという技術が非常に優れていたからだ。PageRankは、学術論文・書籍の引用構造を参考にして、ネット空間に新しい価値形態を構築した。
「1:学術論文の重要性を測る指標としては、被引用数がよく使われる。重要な論文はたくさんの人によって引用されるので、被引用数が多くなると考えられる。同様に、注目に値する重要なウェブページはたくさんのページからリンクされると考えられる。
<中略>
3:ただし、乱発されたリンクにはあまり価値がないと考えられる。リンク集のように、とにかくたくさんリンクすることを目的としている場合には、リンク先のウェブページに強く注目しているとは言い難い。」
出典:Wikipedia「ページランク」
これは、簡単にいえば、信用構造を表現しているし、価値形態の一つだといえる。「重要な論文はたくさんの人によって引用されるので、被引用数が多くなる」とは、何が信用できるかについて、構造的にその形態を示している。

経済学を学んだ人ならご存知だと思うが、貨幣の「一般受容性」という言葉がある。
「貨幣とは、価値尺度機能、交換機能、価値貯蔵機能の3つの機能を持ち、商品取引における交換を媒介する手段として人々の間で広く受け入れられる一般受容性を持ち、流通するようになったものを意味する」
出典:みずほ証券 ファイナンス用語集「貨幣」
歴史的に、石、貝、金、銀などが貨幣として使われてきたが、貨幣とは「商品取引における交換を媒介する手段として人々の間で広く受け入れられる」ことで流通するようになったモノであって、この「人々の間で広く受け入れ」られるという「一般受容性」がなければ、価値を維持できない。
GoogleのPageRankも、この「一般受容性」のコンセプトをWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)に応用している。リンクー被リンクの構造に着目し、「人々の間で広く受け入れ」られているウェブページを社会的に信用できるものと価値づけし、個々の検索キーワードとのレレバンシー(関連性)をも加味して検索結果ページの表示順位をランキングしていった。
つまり、WWWという空間の構造を分析し、その価値形態をあぶり出したと言っていい。「ただし、乱発されたリンクにはあまり価値がないと考えられる」とウィキペディアが指摘するとおり、SEO対策、そして、MFAサイトの乱発によって、その価値形態が変容しつつあり、崩壊し始めている、ということだろう。
紙幣を大量に乱発し過ぎると貨幣の価値が暴落し、ハイパーインフレーションで貨幣経済が破綻する。同様に、リンクー被リンクの価値形態は、乱発されたリンクによって破綻する。
これは、生成AIがブームになる以前から起こっていた問題であるが、2022年11月以降、OpenAIのChatGPTの登場を契機にして、MFAサイトがますます簡単に機械的に乱造できるようになり、事態は悪化している。
昔は、人間が自らの意思で評価して、リンクー被リンクの構造を人間の手で作っていた。その状況を前提にして、GoogleのPageRankは作られていた。だが、皮肉なことに、そのGoogleの検索エンジンをハックするために、SEO対策・MFAサイトが乱発し、その価値形態が壊れ始めた。
