FT - NFTという新たな価値形態の普及に向けて
さて、あとは、「一般受容性」のハードルがある。貨幣と類似したFT‐NFTの構造を「Worldcoin」‐「World ID」が持っているとしても、果たしてそれは、普及するかどうか? おそらく、IT業界・ネット広告業界の人の中には、Facebook(Meta)の「Diem(旧:Libra)」のことが頭に浮かぶ人も多いだろう。
Metaの「Diem」がうまくいかなかった理由は、いろいろだろうが、ケンブリッジ・アナリティカ事件、アメリカ大統領選挙でのロシア介入疑惑、個人情報漏洩など、あれだけの事件が起きれば、当局も承認することはできなかっただろう。そして、なかでも大きな懸念は「マネーロンダリング、テロリストへの資金提供」だったのだと思う(参照:「なぜフェイスブックは仮想通貨Diemを断念したのか? コインベース日本法人に聞く」)。
Metaのユーザー数は、グローバルで30億人ともいわれている。さらに、Instagram、WhatsAppもある。Metaのコミュニティで、暗号通貨が普及する影響力は大きい。そこに、「マネーロンダリング、テロリストへの資金提供」の懸念があるならば、アメリカ政府も許容する訳にはいかなかった。
つまり、MetaのもっているIDは、本人確認済みではないものが多い。偽アカウントは?成りすましは? そのような懸念は、「マネーロンダリング、テロリストへの資金提供」の懸念と表裏一体なのだ。もちろん、Diemを利用するユーザーについては、改めて本人確認をして透明性の高い取り引きを行うつもりだったのだと思う。だが、そんな簡単に、当局の懸念を払拭することはできなかった。
「Worldcoin」‐「World ID」は、その反省を活かしている。最初から、「Verify your humanness(あなたの人間性の証明)」を行い、ホンモノの人間であり、かつ、本人確認済みで、FT - NFT の経済圏を構築するつもりなのだ、とみえる。
そして、OpenAIとMicrosoftの関係が、重要なことは、言うまでもない。Windows や Microsoft 365、ブラウザEdge、検索エンジンBingとBing Chat、MS Rewards、linkedIn、Xbox、AzureOpenAIなど、おそらく、世界最大規模のSaaSユーザーをもっている企業だろう。GoogleのGmailやFacebookなどのアカウントとまったく異なるのは、その多くがSaaSモデルであって、クレジットカードなどで支払いをする有料ユーザーだということだ。ここには、偽アカウントや成りすましアカウントが圧倒的に少なく、FT‐NFT という経済圏を構築する基盤として相性がいい。
もちろん、Microsoftの規模に匹敵するのは他に、AmazonやAppleもある。いずれにしても、偽アカウントや成りすましアカウントが少なくグローバルに何十億というユーザーを保持する企業は、FT‐NFTの経済圏を構築しやすい位置にいるだろう。
さて、サム・アルトマンは、AmazonやAppleと組むだろうか? 「Worldcoin」の「一般受容性」を高めるために、どんな戦略をとってくるのか。
そういえば、2023年9月の記事によると、「マイクロソフトがOpenWallet Foundationに加盟」とのことだ。FT‐NFTという新たな価値形態の普及に向けて、動いているのかもしれない。
