屋外メディアが多数新設、拡大の兆しを見せるOOH市場
電通が2023年12月に発表した「世界の広告費成長率予測(2023~2026)」によると、2023年の世界総広告費に占めるデジタル広告の割合は57.7%と過去最高に達する見込みで、デジタル広告の存在感が拡大。また、世界第3位の広告市場である日本も、デジタル広告の割合は45.8%と高い割合を占めています。
そんな中、2024年度予測ではOOHカテゴリーも増加が見込まれています。実際に、2023年11月には、池袋駅前で大型ビジョンが新設。2024年1月には上野駅前にL字型ビジョン、2024年の春には新宿駅構内にBOX型サイネージの新設が予定されており、主要エリアでデジタルサイネージを始めとする屋外メディアの設置が増えていると私は感じています。
本稿では、2023年下半期(2023年7月~12月)に私が撮影してきた広告の中から話題化した事例、おもしろいと思った事例をピックアップ。現地で見て体感した感想を基に、特徴やアイデアのヒントを解説していきます。
OOHでサービスの訴求をせずにコンセプトを表現
まずは、「場所」にちなんだ三つの広告を紹介します。
一つ目が、スキマバイトサービス「タイミー」が2023年11月に実施した“街中スキマ広告”。同企画では、“スキマバイト”という新しい働き方を提唱する同社が、そのスキマにちなんで渋谷の街中にある様々なスキマスペースを意図的に活用して広告を展開しました。
実際に私も探しましたが、見つける難易度は高く、特に「ここもいいスキマですね。」のクリエイティブは、建物間のスキマのさらに奥スペースに設置されており、周辺通行者でもほぼ見逃す位置でした。商品・サービスを宣伝する目的であれば、本来は選択しない場所です。ただ、見つけたときに誰かに共有したくなる感覚が非常に強い広告でした。「スキマバイトアプリ」というサービスのコンセプトをうまくリアルに持ち込んだ事例だと思います。
二つ目が、2023年12月に展開された、入浴剤「BARTH」の広告“泥酔するなら泥睡しない?”。こちらも街中スキマ広告と同じく、広告にも関わらず一番目立つ場所ではなく、メイン通りから少し離れた薄暗い場所や路地裏に設置されていたのが印象的でした。これは、忘年会などの飲みの場が増えたタイミングに、「泥酔」している方々を狙って出された広告でした。
クリエイティブ内には一切、BARTHの商品特性は記載されていないながら、「泥酔」と「泥のように眠ること=泥睡(でいすい)」の複合ワードがうまく、周辺歩行者の興味を引いていたように感じています。
三つ目が、2023年11月に掲出された目薬「ロートジー」とドラゴンクエストモンスターズのコラボ広告です。
新宿駅の構内全域でポイントごとに異なるポスターが展開。駅構内を移動すると物語が進んでいく仕様になっていました。新宿駅は構内の迷いやすさから「新宿ダンジョン」などと呼ばれる事があります。今回の事例では、その特性を逆手にとって、ドラゴンクエストの世界観をうまくリアルに落とし込んで話題を集めていました。
三つの事例は共通して、目立つ位置や大型枠に掲出している訳でもありません。代わりにOOHを「コンセプトを表現する手段」として割り切ってクリエイティブを展開することで、結果的にSNSで話題化に成功している点が素晴らしいと思います。必ずしも好立地な場所、出稿ボリュームや大きさがすべてではないことが学べる事例でした。