「企業が価値を提供している」は誤り?
MarkeZine吉永(以下、MZ):マーケティング入門連載の第3回では、WHOとWHATの関係性を学ぶにあたって、顧客理解の重要性とその方法をお話しいただきました。今回は改めて、その2つの間に成り立つ「価値」について伺います。
以下のWHOとWHATの図ですが、顧客からプロダクトに向かう矢印に「価値」とありますね。普通に考えると、プロダクトが顧客へ価値を提供する……のではないのでしょうか?
西口:いい質問ですね。おっしゃるように、一般的にはプロダクトあるいは企業が顧客に対して価値を提供している、という考え方が大半だと思います。それなら、矢印は逆になるはずです。
でもそうしていないのは、顧客起点マーケティングの考え方では価値とはプロダクトや企業が提供するものではなく、むしろ顧客の側から「見出す」ものだからです。それを踏まえて、顧客からプロダクトへの矢印にしています。
MZ:プロダクト自体に価値があるわけではないのですか?
西口:はい、少なくとも私はそうではないと捉えています。顧客が「価値がある」と認めて初めてプロダクトに価値が生じます。
かみ砕くと、「これは私にとってすばらしいから入手したい、だからその代金を払ったり時間を費やしたりしよう」と誰かが決断した時、その人にとっての価値が生まれるのです。
牛乳に価値を見出すのは誰か
MZ:「私にとって」がポイントになりそうですね。
西口:そうです。吉永さんが「これは絶対に欲しい!」と思うものがあったとして、他の誰かにとっては魅力を感じないという場合も、その逆も普通にあり得ますよね。そもそも、世の中の全員が欲しいと思うものなど、なかなか生み出せないでしょう。
その関係性をはき違えて「私たちの商品に価値がある」と思っていると、「商品はこんなにすばらしいのにどうして売れないのだ」という悩みを抱えることになります。もちろん、ある顧客群にとってそのプロダクトは本当にすばらしく、認知経路や入手ルートに不足があるから売れていない場合もあります。しかし、企業側が「すばらしい」と思い込んでいるだけの場合も少なくないはずです。
MZ:価値はあくまで顧客側が見出すものなのですね。
西口:たとえば、牛乳はかなり対象顧客が広いプロダクトです。多く売れるのでどんなスーパーにも置いてありますが、牛乳アレルギーの人にとって価値はありません。その方々にいくら勧めても購入には至りませんし、むしろ不快に思われるでしょう。
一方で、牛乳はある程度の脂肪分があるので、好きだけれどダイエットのために避けている人もいます。そういう人に低脂肪牛乳を勧めると、価値を見出してもらえそうです。一般的に脂肪分が少ないとおいしさを感じにくいですが、低脂肪でも飲み応えがある牛乳が開発できたら、ダイエット志向の方に売れそうですね。