同じ人でも、状況や用途によって価値は変わる
MarkeZine吉永(以下、MZ):マーケティング入門連載の第4回では、価値は顧客が見出すものであること、価値は「便益」と「独自性」から成り立つこと、また顧客は価値を自分のお金だけでなく時間や体力など様々なリソースと交換していることなどを伺いました。登山中のミネラルウォーターの話では、たとえ同じ顧客にとっても、シチュエーションによって価値が変わることが興味深かったです。
西口:顧客の視点で考えれば、「今、必要なのか」「どれくらい必要なのか」「それを入手するのに、今ならいくら払うか/時間や労力をかけるか」といった問いへの回答がその時々によって異なるのは、当たり前だとわかると思います。水は全人類が対象顧客ともいえますが、常にすべての人が200円のミネラルウォーターを納得して買うことはありません。
しかし、企業の視点で自分たちのプロダクトのことばかり考えていると、そうした顧客の気持ちや価値の変動が見えなくなってしまうのです。
MZ:同じ人でも変わるのだから、顧客層が違えば、当然ながら何に価値を見出すかが変わるわけですね。
西口:その通りです。それに、自分向けに買うのか、あるいは家族で使うのか、ギフト用かといった用途によっても違います。シャンプーひとつとっても、それぞれの用途で選ぶ観点や価格帯が変わりますよね。
便益と独自性を“自分ごと化”すると、価値が成り立つ
MZ:ギフトなら相手に喜んでもらうことを考えますし、価格も自分用のシャンプーより高く払うケースもあると思います。
西口:いずれの場合も、顧客が「価値がある、だから手に入れたい」と決めて実行した時点で、プロダクトの便益と独自性が“自分ごと化”するといえます。反対に、自分が望んでいないのに人からもらったものなどは、あまり自分ごと化しません。
やや限定的な例ですが、親と外食をして普通に支払ってもらう場合と、同じ店でも自腹で払う場合は、食事の重みやメニューを選ぶ真剣さが違ったりしませんか?
MZ:いわれてみれば、確かにそうですね。
西口:だから、顧客をよく理解して「どういうポイントが自分ごと化してもらえるのか」を洞察することが大事です。自社のプロダクトのどういった点に、どんな価値を見出していただいているのかを把握するのです。
ここまでのWHOとWHAT、そして価値についてまとめると、次のようになります。
・価値とは「WHO(顧客)」が「WHAT(プロダクト)」に見出した便益と独自性
・「WHO(顧客)」が、「WHAT(プロダクト)」が提案する「便益」と「独自性」を自分ごと化して初めて、価値が生まれる。
逆にいえば、「WHAT(プロダクト)」が提案する便益と独自性を自分ごと化しなければ、価値は生まれない・「WHAT(プロダクト)」は、価値になるかもしれない便益と独自性を提案しているにすぎず、「WHAT(プロダクト)」自体に価値はない
(『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』p62より改変)