在庫ベースから顧客起点へ。店舗スタッフから得られた気づきとは
長:今回は、ユナイテッドアローズの岩井一紘さんをゲストにお迎えしました。最初に貴社が現在描いている、全体方針としてのマーケティング戦略についてお聞かせください。
岩井:全社のテーマとしては「お客様に愛され続ける、高付加価値提供グループになる」ことを目指しています。その実現に向けたステップとして、中期では「感動提供 お客様と深く広く繋がる」というスローガンを掲げています。
さらに細分化した戦略のひとつがデジタルであり、マーケティング戦略の核になってくる部分です。「顔名一致」を目指すべく、具体的には2023年8月に刷新したロイヤルティープログラム「UAクラブ」や、より使いやすいアプリの開発などが挙げられます。
長:ロイヤリティプログラムの刷新というお話しがありましたが、新規顧客獲得と既存顧客育成の両面があるかと思います。新規顧客と既存顧客に対する戦略を区別し、それぞれに合わせた価値を個別に提供していくべきだとお考えでしょうか。
岩井:そうですね。新規顧客獲得に関しては、ユナイテッドアローズは元々認知度が高いため、その認知度をどのように活かすかがポイントです。
取り組みのひとつとして、スタッフが生成するコーディネートコンテンツの活用があります。そのコーディネートが気に入った方が来店されるなど、カタログとして機能しています。
ある時、突然フォロワー数や「いいね」の数が大幅に増加したスタッフが一定数の割合でいたので、疑問に思いインタビューしたところ、そのスタッフは自らペルソナ分析を行っていました。
会社としては在庫が多く残っている商品を、スタイリングに活用できる社内ダッシュボードを作成していたのですが、そのスタッフいわく「あまりうまくいかなかった」と。これは作った私たちが反省すべき一例です(※ダッシュボードは、定量的効果がある前提)。そのスタッフが行ったことは、自身が店舗で接客する際にいただくお客様の声をスタイリングに活かすことでした。自分の体型を活かした上で、店舗のお客様に好評な、自分の好きなコーディネートを発信していったのです。その結果、画像だけでなく、一緒に投稿されるコメントも含めて内容が一貫性を持つようになり、お客様が着実に増加していったというわけです。
長:在庫ベースでなく、顧客起点でコーディネートを考えていることが、お客様にも伝わったということですね。
岩井:一口にユナイテッドアローズと言っても、その中には細分化された「トライブ(興味関心を持つ集団)」が存在しています。そのトライブとスタッフをつなげる役割をマーケティングが担えれば、大きな可能性が生まれると考えています。
既存顧客育成は、店舗での取り組みがベースにある
長:既存顧客の育成は、どう考えていらっしゃいますか?
岩井:「UAクラブ」が基本になります。デジタル上の接点をどれだけ増やせるかです。そのためにまず、ゼロパーティデータやファーストパーティデータを取得できる状態を作っていくことに力を入れています。
岩井:たとえばLINEのID連携が挙げられます。多くの方にとってLINEは毎日開くものなので、コミュニケーションが取りやすいです。そして店舗でもECでも商品を購入し、レビューを書いていただいた方にマイルを提供するなど、レビュー機能も重視しています。特にECではお客様の購入を最終的に後押しするという点で見ても、大きな意味を持っているでしょう。
岩井:データも大切にしているものの、既存顧客に関しては、やはりお店が圧倒的な提供価値を持っていると考えています。店舗スタッフは、上位顧客の顔と名前が一致している状態です。そのためデータでセグメントを切ってどうこうするより、お店での体験価値提供のほうが既存顧客のリフトアップには活かせるのではと考えています。
長:なるほど。既存顧客に対しては、店舗をベースとした環境作りを行い、一方で新規顧客に対しては、取り組みの中で生まれる、ユナイテッドアローズならではの独自の価値を広く発信していくことで、その価値に興味を持った人々を取り込んでいくという戦略を取られているのですね。