この記事は、日本マーケティング学会発行の『マーケティングジャーナル』Vol.43, No.3の巻頭言を、加筆・修正したものです。
デジタル社会が変える、新製品開発
デジタル社会は、周知の通りプロモーションではSNS、チャネルではEC、価格ではダイナミックプライシングなどマーケティングのあり方に大きな影響を与えています(『1からのデジタル・マーケティング』)。では、新製品開発にはどんな影響を与えているのでしょうか。今回は、この点について最新研究をもとに紐解いていきます。
以前の本連載(「デジタル・マーケティングを俯瞰する」)で説明したように、2000年頃よりインターネットやパソコンといったデバイスなどデジタル技術の発展や普及にともない、プラットフォームやデジタルデザインツール、消費者行動などのデジタル環境が変わってきました。より本格的には、iPhone登場の2007年頃よりデジタル社会といえる状況となり、冒頭で見たようにマーケティング全体はもちろん、新製品開発に大きな変化を与えているのです。
こうしたデジタル社会の新製品開発に関わる変化は、「製品そのものの変化」と「製品開発手法の変化」に、大きくは整理できます(図1参照)。
製品そのものの変化
「製品そのものの変化」としては、「デジタル財」「スマート製品」の2つがあげられます。「デジタル財」とは、物理的なカタチのある有形財としての製品ではなく、アプリケーションやゲームなどのソフトウェアをはじめ、音楽や映画などのコンテンツ、天気予報やニュースといったデジタル情報で提供される無形財である製品のことです。
「スマート製品」とは、スマートフォンやスマートスピーカーといったネットにつながる小型パソコンが内蔵された製品といえるものです。技術の国際的展示会であるCESでは、ここ数年このスマート製品が基盤となった提案が多く見られます。多くのメーカーが、製品カテゴリーの垣根を超えて連携するスマート製品を提案することがトレンドになっています。
製品開発手法の変化
一方「製品開発手法の変化」としては、「デジタル設計」「外部との共創」「AI・生成AIとの共創」の3つが挙げられます。まず「デジタル設計」とは、CAD(コンピュータ支援設計)や解析パッケージなどのデジタルデザインツールを使った開発手法のことです。
次に「外部との共創」とは、外部企業と共創するオープン・イノベーションをはじめ、多数のユーザーと共創するクラウドソーシングなどの手法のことです。最後に「AI・生成AIとの共創」とは、ChatGPTやStable Diffusionなどの生成AIなどと共創する手法のことです。
こうした大きな変化は、デジタル社会以前は見られなかった現象で、いかに新製品開発に対してデジタル社会の影響が大きいかを物語っています。