デジタル設計を可能とする「スマート製品」がブランド構築に与える影響
ここからは、デジタル社会における新製品開発を捉えた、5つの最新研究を紹介します。
まず「デジタル設計」を可能とする「スマート製品」を対象としたのが、東京理科大学の深見嘉明准教授、札幌市立大学の福田大年講師、北海学園大学の中村暁子講師、拓殖大学の寺本直城准教授による『スマートロースターと焙煎士の相互行為を通した新製品開発の可能性―メザニンロースタリービジネスの勃興を事例として―』の論文です。
「スマートロースター」とは、従来は職人技であったコーヒー豆の焙煎プロセスを、焙煎時の火力や温度を制御するデータにより自動化する焙煎機のことです。まさに、スマートロースターはデジタル設計を可能とするスマート製品と呼べるものです。
深見先生たちは、スマートロースターを導入している2社の経営者や焙煎士へのインタビューを通して、デジタル設計は技術を補い製品の水準を上げるが、環境などの前提条件が異なった場合は専門家による調整が必要であると指摘しています。
しかし、深見先生たちはこうした調整こそが製品に独自性を与え、ブランディングを可能にすると主張しています。この調整は言い換えると「共創」といえ、デジタル設計において開発者と機械との共創が重要であることの示唆だといえます。
外部との共創がもたらす「効果」とは
次に、「外部との共創」を対象とした2つの研究を紹介します。2つの研究はともに、外部との共創がもたらす「効果」に焦点を当てたものです。
まず、同志社大学の石田大典准教授、日本大学の大平進准教授、早稲田大学の恩藏直人教授による『製品開発におけるクラウドファンディングの効果』の論文を紹介します。クラウドファンディングは、多くのユーザーからの資金調達を目的とするプラットフォームですが、石田先生たちはクラウドファンディングの実施経験のある大手文具メーカーの開発担当へのアンケート調査を通して、資金調達効果が重視されていないという現実を説明しています。
では開発担当者は、クラウドファンディングにどんな効果を求めているのでしょうか。石田先生たちは、大手クラウドファンディングでのプロジェクト起案者へのアンケート調査を通して、クラウドファンディングが共創での人々の意見をもとにした品質改善による製品効果と、多くの人にプロジェクトを訴求できるプロモーション効果をもたらすことを明らかにしています。

一方で共創のプロセスがもたらすプロモーション効果だけでなく、販売時の効果に焦点をあてたのが、法政大学の岡田庄生客員研究員による『制御焦点の違いがユーザー創造製品の発案者効果に与える影響』の論文です。
実は、ユーザー(外部)が発案者であると提示することはプロモーション効果をもつことが先行研究で指摘されていますが、その効果は複雑性の低い製品では見られるが、複雑性の高い製品では見られないことも解明されています。つまり、製品の複雑性の高低が「境界条件(効果有無の境界となる条件)」になっているということです。
岡田氏は制御焦点理論(目標に対してネガティブかポジティブかにより行動などが変わること)を用いて、製品の複雑性という境界条件に影響を与える「他の条件」を、2つの実験室実験を通して明らかにしています。複雑性の高い製品であってもポジティブな動機を感じさせるタイプの製品では、ユーザーが発案者であるという表示がプロモーション効果をもたらすことと、複雑性の低い製品であってもネガティブな広告メッセージと共に表示した場合は、プロモーション効果に負の影響をもたらしていることを指摘しています。
なお、こうした外部との共創による新製品開発は既にマーケティングジャーナルの特集として、早稲田大学の石井裕明准教授による「クラウドとマーケティング」や、著者による「企業によるユーザー・イノベーションの有効活用」というテーマで組まれたことがあります。ぜひご参照ください。