非効率でもリアルの場に顧客接点を作りたい理由
磯山:顧客とのコミュニケーションに関して、新たに取り組みたいと考えていることは何かありますか?
藤澤:直接つながることができるリアルの場を増やしていきたいと考えています。やはり直接届けることに勝るものはないと思うんです。
もちろんデジタルのコミュニケーションも引き続き行っていきますが、もっとお客様とのリアルの接点を充実させていこうということを社内でも話しています。
磯山:効率や生産性を追求する施策もある一方で、非効率かもしれないけれど密着度の高い顧客接点もあり、バランスが大切なのでしょうね。
藤澤:少し話はそれますが、私は幼少時に阪神淡路大震災に被災しているんです。当時、「がんばろう神戸」という標語が至る所に掲げられており、すごく励まされた記憶があります。ですので、20歳のときにボランティアで行った東日本大震災後の仙台・石巻で応援広告を見た際は、きっと石巻の人たちの心のよりどころになっているのだろうと思いました。
しかし、避難所で話を聞いてみると、その存在を知らない方が多くいらっしゃいました。当たり前ですが、被災した方々はテレビの報道などを見る環境にありません。
その時に、情報を大量送信するだけではなく、違う形でメッセージを届けることも同時に必要であることを学びました。そこで、阪神淡路大震災の被災者と東日本大震災の被災者を手紙で結ぶというプロジェクトを行いました。手紙を実際に東日本の方々に届けたときに言われた「ありがとう」の感謝の言葉は広告宣伝に携わりたいと思ったきっかけです。効率の良い手法をやりつつも、逆の泥臭いアプローチも必要だと考えています。
磯山:大量に情報がある中で、たった1つの出会いや強烈な出来事が人生を変えることもあります。リアルの場に密着度の高い顧客接点を作ることで、人生を変える出会いが生まれるのかもしれませんね。
お客様一人ひとりの「生きる」を輝かせたい
磯山:今後、ブランドを通じて作りたい世界について教えてください。
藤澤:2023年に「ひとりひとりの『生きる』を輝かせる〜体と肌と心のつながりを通じて〜」という新しいミッションを制定しました。これを実現していくのが目指すべき世界です。
また、サントリーの広告宣伝には受け継がれているDNA、フィロソフィーのようなものがあると思います。1つ目は「エトヴァス・ノイエス」、ドイツ語で「新しい何か」という意味です。2つ目は「人間らしくやりたいナ」、1961年に発表されたトリスのキャッチコピーですね。3つ目は「豊かな生活提案」です。
どれも「顧客のことを購入者ではなく生活者として捉えた活動」につながるものです。サントリーウエルネスでも同様にやっていかなくてはいけないと強く思っています。こうしたサントリーのDNAと新ミッションの2つで、新しい未来を作っていきたいと考えています。
磯山:これまでやってきたことに新しいものを組み合わせることで、できるようになることがありますよね。
藤澤:ただ、個人的には本当の意味でのウエルネスを実現しようとするなら、「はたしてサントリーウエルネスだけで可能なのか」ということも最近よく考えます。
これからの時代は、社会全体で課題を共有する「シェア・イシュー」の考え方のもと、さまざまな協業企業と一緒にウエルネスを実現していくのが、すごく重要なのではないかと考えています。
編集後記
D2Cというワードが普及する前からダイレクトマーケティングに取り組んできたサントリーウエルネスさんにお話しを伺うことができました。様々な質問をさせていただきましたが、2023年に制定されたミッションを軸に取り組みをされており、まさに「個客原理主義」を徹底されていました。
リアルでのお客様とのつながりの強化や商品だけでなく、アプリを活用した生活習慣の改善など顧客を「生活者」として捉えた活動が印象的でした。今後の取り組みが楽しみです。お時間いただきありがとうございました!
