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田中洋が紐解く、ビジネス成功のキーファクター

マーケティング業界のビッグ・フィギュア 石井淳蔵教授が「ブランド」をテーマに筆を執った理由

 ブランド戦略論の第一人者であり、中央大学名誉教授でもある田中洋氏による本連載。第8回では、日本のマーケティング研究を初期より牽引してきた石井淳蔵教授をお訪ねしました。欧米型のブランドマネジメントのスタイルを批判することなく、純粋に一石を投じている石井教授の新著『進化するブランド』を取り上げ、田中教授の本域であるブランディングをテーマに対談を行いました。

ブランド論 第一人者 田中洋による、対談前書き

 石井淳蔵先生は長らく神戸大学でマーケティングの教鞭を執られた日本のマーケティング界のビッグ・フィギュアであり、マーケティング理論のインフルエンサーであることは今更言うまでもない。今回、石井先生とぜひ対談したかったのは、もちろん先生の大著『進化するブランド』のお話を伺いたかったためであるが、私としては、石井先生のような大家が四半世紀(!)ぶりに、あらためてブランドに関心をもたれたのはなぜなのか、そこをぜひお伺いしたかった。こうした目的は対談の中で石井先生に存分に語っていただくことでかなえることができた。

『進化するブランド 』【碩学叢書】著石井淳蔵
『進化するブランド』【碩学叢書】著石井淳蔵

 対談内容をお届けする前に、私なりになぜブランドに進化が生じるのか、について覚書として考察したところを記してみたい。私の解釈では、「反進化型ブランド」は「市場計画型ブランド」と言いかえることができる。つまり、市場を検討し、その規模や傾向性から、その企業のブランド戦略の方向性を計画的に決めるやり方である。こうした方法は、一般企業、特に大企業では普通に行われているやり方であって、なんらの不思議はない。社内で新しい分野に進出するとき、「この市場はこうなっていて、ここに機会がある」と社内で提案される。こうした提案に基づいて計画的に作られていくようなブランドが反進化型である。

 一方、「進化型ブランド」と言われているのは、私の考えでは「課題解決型」と言うべきブランドである。課題解決型とは、起業家に特徴的であるが、自分自身が感じていた課題、特に社会・経済・経営的な課題について、その課題を解決せねば、という思いから創られたブランドということになる。

 たとえば、ヘアカット専門で成功を遂げたQBハウスを創業した小西國義氏は、1995年ごろ、それまで自分へのご褒美として通っていた高級な床屋のサービスに疑問をもった。「『顧客のために』と提供されているサービスや心配りは、人によって、もしくは場合によっては有難迷惑であったり、『不要なサービス料金分が顧客負担となっているのはいかがなものか』と思うようになりました」と述べている(出典:PR TIMES STORYより)。

 これは起業家が個人的な疑問から出発して、その疑問を解決すべくブランドを立ち上げた例になる。こうした場合、ブランドはその都度、起業家が感じた課題に対応して「進化」を遂げるのである。

 つまり、進化型か、反進化型かは、市場に対して計画的にふるまうか、個人的な思いや課題を解決したいという動機に基づいて行動するか、で決まってくることになる。むろん、この二つのアプローチは全く異なるものではない。実際にはこれらが入り混じった形で進行することが多い。一つの企業の内部でも、市場計画的アプローチと課題解決型アプローチとが入れ替わりに実行されることもある。その結果、ブランドは進化を遂げるのではないだろうか。

 いずれにせよ、石井先生が提案された「進化型ブランド」モデルは、さまざまな「理論的」インスピレーションを我々にもたらす。こうした刺激をもたらしてくれるような書物に出会えること、それは我々とって大きな啓示にほかならない。

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従来のブランド論と一線を画す書籍『進化するブランド』

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この記事の著者

田中 洋(タナカ ヒロシ)

中央大学名誉教授。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣)など20冊の著書と9...

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2024/03/29 09:30 https://markezine.jp/article/detail/45131

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