従来のブランド論と一線を画す書籍『進化するブランド』
田中:本日は、石井淳蔵先生をお迎えして近著『進化するブランド』を中心にお話を伺おうと思っています。同書については、昨年『マーケティング・ジャーナル』で書評を書かせていただいたこともありました。この本を読んで、2つほどびっくりしたことがあります。
石井先生が岩波新書で『ブランドー価値の創造―』を刊行されたのは1999年ですので、もう25年くらい前ですが、先生はもうこのテーマにはけりをつけられたと思っていたんです。ところが、ブランドというテーマに四半世紀ぶりに取り組まれた――まずこの点に驚いたというのが1つです。
 
もう1つは、驚きというより感服に近いのですが、『進化するブランド』というタイトルをもとに、豊富な企業事例をもって理論を展開されている点。石井先生が同書で提示されているテーゼは、ある意味シンプルなものですよね。「進化型ブランド」と「反進化型ブランド」の2つがあるというのがそれ(同書のテーゼ)だと理解しています。シンプルなテーゼの上に様々な議論や主張が積み重ねられている。このスタイルが新鮮でした。
 
さて、ここで私なりに「進化するブランド」とは何か、僭越ではありますが要約させてください。まず、「進化型ブランド」とは、本書の中では日本型ブランドとも言われていますが、「ブランドとしての同一性を保ちながらも、変容し続ける」ブランドのことです(p40より)。
たとえば、電鉄から百貨店、歌劇団、地域開発と多領域に展開している阪急、食品から衣料、日用品、住宅までをカバーしている無印良品などは進化型ブランドに分類されます。一方、欧米型のブランドは「反進化型ブランド」と呼ばれ、特定の業界内で管理され、明確なコンセプトが与えられています。私自身のブランド論も含めて、従来のブランド戦略論で扱われてきたブランドは、多くがこちらの「反進化型ブランド」ということになります。ただ、石井先生は「反進化型」だからダメだ、というスタンスはとっておられませんよね。その点は注意が必要です。
これらを前提知識とした上で、先生にまずお聞きしたいことは、本書を書かれた時の最初のモチベーションについてです。何がきっかけで筆をとられたのでしょう?
石井:「マーケティングの世代が変わるな」と感じたことが最初のきっかけです。
 
コトラー先生も「マーケティング3.0」の概念を提唱されていますよね。商品をいかにたくさん売るかではなく、いかに社会課題の解決に貢献していくかが問われている。間違いなく、マーケティングは新しい時代に入ってきていると言えるでしょう。
社会的課題に敏感で、それを事業活動やマーケティングの中に持ち込み、両輪で収益性も担保している。こういう企業が現代の理想なのかなと思って、これについて書こうと考えました。
ですが、なかなか思うようにクリアな結論は出てきませんでしたね。紆余曲折がありましたが、問題提起はシンプルでなければいけないだろうということで、2つのブランドスタイルを強引に持ち出すことにしました。やはり、時々批判されますけどね(笑)。

 
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                
                                 
                                
                                 
              
            