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MarkeZine Day 2025 Retail

田中洋が紐解く、ビジネス成功のキーファクター

マーケティング業界のビッグ・フィギュア 石井淳蔵教授が「ブランド」をテーマに筆を執った理由

ブランドは文化の影響を受けやすい。日本型があっても不思議ではない

田中:『進化するブランド』を理解する上で重要となる理論が、オートポイエーシス中動態です。またここで私なりの注釈を入れさせてください。

 オートポイエーシスとは、社会学者のニクラス・ルーマンたちが唱えている理論で「自己生産」「自己算出」と訳されています。たとえば、ブランドに関する会議の中でたまたま発議されたアイデアが、その後の意思決定や実行に影響を与えて、それまで考えられなかったような方向へブランドが変化していくことがあります。こうした「偶有性」、つまり「必然でもなく不可能でもない様相」(p292)こそがブランド変化の本質的なメカニズムなのだと、先生はおっしゃっています。ということは、ブランドの進化とは、合理的・論理的過程ではなく、このような偶然性を含んだプロセスによって生み出されてくるものということになります。

 もう一つの「中動態」は、哲学者・西田幾多郎が東洋文化について述べた一節「形なきものの形を見、声なきものの声を聞く」という言い方がベースの一部分になっています。近年では、国分功一郎氏が言語学に基づいて中動態の考え方を提唱していました。それによれば、日本人はコトを経験して言語化する傾向があり、主体が明確な「見る」という動詞に対して、主語が誰かはっきりしない「見える」という用法をするのが中動態と呼ばれるものです。このような主客未分の状態を表している日本語独特の表現が「進化型ブランド」を日本的なブランドとしている根本的なありようということになります。

 これらの基本的な考え方を踏まえてお聞きします。先生は、進化型ブランドについて、日本的なブランディングのシステムであるとおっしゃっています。これについて明らかにしたいという動機も、本書を書かれた背景にあったのでしょうか?

石井:ありました。『マーケティングの神話』(初版1993年、現在岩波現代新書所収)を書いた時、小田部正明さん(現・早稲田大学・ハワイ大学マノア校ジョイントアポイントメント教授)が高く評価して、翻訳して刊行したいとおっしゃって下さったんですね。小田部さんは、アメリカ流のマーケティングに馴染んでおられたので、こういった見方を面白いと思われたのでしょう。

 神話というと手触り感がありませんから、現実的かつ具体的にみんながイメージできるものとして、日本的なマーケティングを一つの形に落とし込みたいという思いは、当時から心の中にありました。ブランドは文化の影響を非常に受けやすく、日本的とかアメリカ的、中国的といった区分や表現があっても、そこまで不思議ではないんですよね。だから、マーケティングの中でもブランドは語りやすいだろうと。

田中:なるほど。私の解説が多めに続いてしまいましたが、後編では、石井先生に『進化するブランド』について事例を交えながら解説いただきつつ、どう実務に活かしていくか? という観点で色々なお話を伺っていこうと思います。

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この記事の著者

田中 洋(タナカ ヒロシ)

中央大学名誉教授。東京大学経済学部講師。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/03/29 09:30 https://markezine.jp/article/detail/45131

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