CVへの下心は見透かされる
高橋 飛翔(以下、高橋):前編で、100人のうち1人に刺さればいいと割り切ってやってきた結果、熱量の高いファンが今も売上を支えてくれているというお話を伺いました。理想的な相思相愛の関係を、どのように作ってこられたのですか。
井手 直行(以下、井手):ファンマーケティングという言葉がありますけど、我々はそんな言葉がない時代から、ただひたすらお客様に満足してもらうことを考えてきました。どうすれば、私たちのビールに興味を持ってくれた人が心から満足してくれるのか。そこを突き詰めてきたことがポイントだと思います。
井手 直行(いで・なおゆき)
株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長。ニックネームは『てんちょ』。国立久留米高専を卒業後、電気機器メーカー、広告代理店などを経て、1997年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。2008年より現職。フラッグシップ製品『よなよなエール』を筆頭に、個性的なブランディング、ファンとの交流にも力を入れ、クラフトビールメーカー国内約800社の中でシェアトップ。『ビールに味を!人生に幸せを!』をミッションに、新たなビール文化の創出を目指している。
もちろん、ボランティアではなくビジネスですから、最終的に購入してほしいという気持ちがないと言ったら嘘になります。でも、早くCVに向けた階段を上ってほしいという下心が透けて見えると、お客様は「結局そういうことか」とすぐに離れていってしまうでしょう。
だから、とにかくお客様に喜んでもらえそうなことを第一に考えて、それが結果的に売上につながればいいという思考でファンとの密なコミュニケーションを大切にしてきました。代表的な例がファンイベントです。
2010年に40人くらいのファンを集めて開催したイベント「宴」は年を重ねるごとに参加者が100人、500人と増えていき、2018年秋には5,000人規模の「よなよなエールの超宴」へと成長しました。翌年は2日間かけて1万人を呼ぶ予定でしたが、台風で中止に。さらに翌々年はコロナ禍でリアルイベントを見送らざるを得ず、オンラインイベントの「よなよなエールの”おうち”超宴」「よなよなエールの〆宴」へと切り替えました。
「よなよなエールの”おうち”超宴」の参加人数は2日間の開催で延べ1万人で、チャットで読み切れないほどのメッセージをいただいたんですよ。
採算度外視のイベントでも育てれば芽が出る
高橋:40人から1万人はすごいですね。ただ、同じ経営者の立場からすると、売上を度外視してイベントを開催し続けるのはなかなか勇気がいることだなと。売上は後からついてくるというスタンスを貫けたのはなぜでしょう。
井手:最初の「宴」はみんな楽天市場のお客様で、日本各地からチケット代より高い交通費を払って来てくれたんです。すごく盛り上がりましたし、アンケート結果でも満足度が爆上がりしていました。
加えて、イベント後の楽天市場の売上がグンと伸びていて。世の中にまだ知られていない小さなビール会社が開催するイベントに足を運んでくれるようなお客様は、当社と当社の製品に並々ならぬ愛着を持って、本当に真摯に応援してくれることがわかりました。
しかも、自分で継続的に買うだけでなく、「すごく楽しいイベントだったよ」「よなよなエールおいしいよ」とあちこちで良い口コミをしてくれたり、次のイベントに新しいお友達を連れてきてくれたりするんです。
正直言って大型のイベントは、収益につながらないどころか毎回大赤字でした。それでも、スモールスタートの時点でイベントの効果が感覚的に実証できていたので、ブレずに顧客満足を追求し続けてこれたのだと思います。
高橋:スモールスタートでちゃんとデータを取って、少しずつ育てていけばいいというのは、どの会社も真似しやすい考え方ですね。