プロダクト=WHATには、複数のWHOがいる
MZ:単独の層、というのは?
西口:一つのプロダクトには、多種多様なニーズを持ち、購買行動も購買心理も異なる複数の顧客がいます。それなのに、企業の視点で市場や顧客の分析を進めると、目立った単独の層しか見えなくなることがよくあるのです。
たとえば吉永さんは、ファミレスを利用したことがありますよね。ご家族やご友人と行ったこともあるでしょうし、学生時代や仕事をし始めてからは、隙間の時間に勉強や作業のために一人で利用することもあると思います。
MZ:そうですね。最近は、むしろそのほうが多いです。
西口:これを企業の側から捉えると、一人で勉強や作業をするために来店する人もいれば、家族と来る人、友人グループで来る人など、色々な顧客がいることになりますよね。
連載の第4回と第5回で、特定のWHOが特定のWHATに「便益」と「独自性」を見出した時に価値が生まれること、また価値が成立する「WHOとWHATの組み合わせ」をどう見つけるかが大事だと解説しました。このWHOとWHATの組み合わせを、ファミレスを一人で利用する吉永さんを例に考えると、どんな価値が成立しているでしょうか?

(『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』p58より)
MZ:私がWHOで、ファミレスが提供する便益や独自性がWHATですよね。私が一人でファミレスに来る時に見出している価値は、やっぱり「街中などでちょっと空いた時間に少し仕事をしたり、読書や休憩したりできる」ことですね。
WHOとWHATの組み合わせを何通り見つけるか
西口:では、同じファミレスに子連れで来る人だったら、何が価値になりそうですか?
MZ:そうですね、子ども向けのメニューがあることや、多少騒いでも大丈夫なことでしょうか。ベビーカーで入れるとか、席がゆったりしていることもありそうです。
西口:そうですよね。さらに高校生などだと、友達と長くしゃべれることや、少し前だとWi-Fiが目当てだと聞いたこともありました。ファミレスやファストフード、コンビニなどの店舗は、来店頻度の高いロイヤル顧客層を分析すれば、このように複数の顧客層を抱えていることがわかります。
しかも、同じ吉永さんというWHOでも、一人で利用する時と友人と来る時とでは、同じファミレスに価値を見出す便益と独自性自体が異なってきます。吉永さん自身が、複数のWHOとWHATを成立させているのです。
MZ:なるほど、意識していませんでしたが、確かにそうですね。
西口:仮にもっと狭い、特定の性年代が使うようなプロダクトでも、ロイヤル顧客層には、実は企業側が想定していない顧客層が存在していることはめずらしくありません。
私の経験上になりますが、1つのプロダクトに1種類の顧客しかいないケースは、皆無です。同じプロダクトのロイヤル顧客であっても、必ず複数の顧客がいて、それぞれの「WHOとWHATの組み合わせ」で異なる価値が複数成立しています。

(『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』p157より)
西口:もちろん、事業成長のために「今、増やしたい顧客層」がそのときどきで変わるのは当然ですが、市場や顧客を一面的に捉えて1種類のWHOとWHATの組み合わせしか把握できていないと、機会損失につながってしまいます。というか、そういった状態に陥っているブランドや事業を多く見かけますね。STP、4P、3Cのようなマスのフレームワークでは、意識せずとも、1種類のWHOとWHATを前提としているので、それでは解像度が粗すぎるのです。