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施策を成り行きで進めていないか? BtoBマーケティングで停滞から脱却するための振り返り方

 この5年間で、西日本におけるセールス&マーケティングの環境は一変した。オンラインシフトに成功し、施策にそれなりの手応えを感じている担当者も多いはずだ。一方で、実行した施策を“何となく”の判断基準で振り返り、改善が不十分なまま業務を進めてしまっていないか?「MarkeZine Day 2024 Kansai」に登壇したシャノンの浅野氏は、そのような問いからセッションをスタート。施策を成り行きで進めず、ブレずに軌道修正を行うためのポイントを解説した。

「数字のチェック=振り返り」ではない

 シャノンの関西支社長/西日本統括として、数多くの企業と向き合ってきた浅野氏は、BtoBマーケティングで停滞を感じる企業に「“振り返り”が足りない」という共通点を見出しているという。

シャノン 関西支社長/西日本統括 浅野哲氏
シャノン 関西支社長/西日本統括 浅野哲氏

 振り返りは本来、定量と定性の両面で行われるべきものだが「多くの企業においては数値に過剰なフォーカスが当たっているのではないか」と浅野氏。振り返りが予実管理に留まり「施策を始めたときの前提条件や目的が維持されているか」「見直しが必要か」といった視点が抜け落ちていると指摘する。つまり、多くの担当者が「目の前の数字をチェックすること=振り返り」と考えているのだ。浅野氏曰く、数値化が容易なデジタルマーケティングの台頭が、この状況に拍車をかけている。

 シャノンは創業以来、BtoBマーケティングの変遷とともにサービスを提供してきた。BtoBマーケティングの王道施策である展示会に出展した後、必要になる名刺のデジタル化サービス。フォローアップのためのリアルセミナーを管理するシステム。そしてデジタルマーケティングにおける施策基盤としてのマーケティングオートメ―ション。直近では営業DXを推進し、マーケティングとの融合を図るためにSFAや生成AIを活用したコンテンツアシスタントを提供することで、コンテンツ工業化時代に疲弊するマーケティング担当者を支援してきた。

 ところが、そんなシャノンでも過去に手痛い失敗をしている。展示会やセミナーなどのオフライン施策に投じていたリソースを、全てデジタルに割り振った時期があった。その結果、リード数と商談数は増加したものの、受注数が減少したという。

「ホワイトペーパーを読んだだけで、買う気は簡単に起きません。態度変容を促すためには、お客様に考える時間を取っていただく必要があります。闇雲に接点を増やせば良いというわけではありません。当社ではこの失敗を踏まえ、オフライン施策にも再度リソースを振り分けたところ、受注が147%に増加し、V字回復を果たしました」(浅野氏)

 浅野氏は「デジタルマーケティング=悪」と言いたいわけではない。活用方法を誤ると、本来の目的を達成できずに終わる可能性が高いという考えだ。「デジタルとオフラインをうまく組み合わせない限り、成果はなかなか上げられない」と語る。

問い合わせ数が4倍になったワケ

 浅野氏によると、急激なデジタルシフトによって自社のマーケティングに“改めて”停滞を感じる企業が増えているそうだ。一体どういうことなのか。かつてのBtoBマーケティングには、社内で必要性を実感したり理解を得たりできない点に起因する停滞があった。ところがコロナ禍の到来により状況は一変し、デジタルマーケティングの普及によって停滞は解消したように見える。

 しかし今度はオンラインの施策を数多く実行した結果、一つひとつの施策の効果が薄まり、競合するコンテンツも倍増したことから、かつてほどの効果を感じられないのだという。浅野氏は、停滞を感じるBtoBマーケティング担当者の行動を次のとおりに分類する。

1.「これを実施すれば成果が出る」という“型”や“定石”を探す
2.積極的に新しい施策を探す

 浅野氏自身「まず何からやれば良いか」「どんな企業にも当てはまる定石はあるか」などの相談をクライアントから頻繁に受けるそうだ。Webサイトに関しては、自社のマーケティングを通じて発見した三つの定石がある。第一の定石は「資料請求と問い合わせのフォームを分ける」だ。

「Webサイトを訪問するユーザーの中には、自発的に情報を取りに来る人もいれば、上司からの指示を受けてアクセスする人もいます。後者はただ指示に従っているため、問い合わせ時に何を書けば良いかわかりません。『とりあえず資料だけ欲しい』と思う方もいるでしょう。問い合わせフォームと資料請求フォームを分けた結果、問い合わせ数が4倍増加したケースもあります」(浅野氏)

 第二の定石は「Webサイトのファーストビューに資料請求ページへの導線を設置する」だ。

「ファーストビューに製品詳細ページへの導線を設置し、製品詳細ページの下部に資料請求ボタンを設置している場合もありますが、これでは回りくどく離脱する人も多いです。ファーストビューに資料請求ページへの導線を設置した場合と、製品詳細ページへの導線を設置した場合を比べると、申し込み率に2倍近い差が見られました」(浅野氏)

 第三の定石は「個人情報の入力フォームを改善する」だ。資料請求ページやホワイトペーパーのダウンロードページをフォーム一体型にするほか、キービジュアルのA/Bテストも有効だという。

「ちなみに、キービジュアルは静止画より動画のほうが効果的です。また、資料の概要もページ上に記載すると、ダウンロード数が記載しない場合の約4倍になったケースもあります」(浅野氏)

そのKPIは本当に達成すべきか?

 定石は踏むべきだが、増え続けるKPIに対して見直しと方針設定がなければ、マーケティング担当者は早々に疲弊してしまう。

「セッションの冒頭で、定性的な振り返りの重要性について触れましたが、もちろん定量的な部分の見直しも必要です。設定しているKPIは本当に達成しなければならない数値なのかどうか、振り返りの際に再考する必要があるでしょう」(浅野氏)

 振り返りを行っていない場合、どのようなことが起き得るのか。「重視する必要のない指標までKPIに設定してしまう」「前任者から引き継いだKPIの見直しができていない」「そもそも何のためにそのKPIを追っているのか担当者が理解していない」などのケースが挙げられる。中には担当者が自身でコントロールできない数値まで追っていることもあるという。

 ではどのように「追うべきKPI」を見極めれば良いのだろうか。浅野氏によると、BtoBマーケティングの場合は“後続”に位置する「営業やインサイドセールスへのインパクト」を物差しとして用いることが有効とのことだ。

「今追っているKPIは、後続の営業やインサイドセールスに対して真にインパクトをもたらすものでしょうか? 過去と現在では状況が変わっていることもあります。今一度インパクトの程度を確認し、インパクトの小さいものは、たとえ数字が取れたとしても追わないようにする決断が必要です」(浅野氏)

The Modelがマッチするか否かを見極める方法

 ここで浅野氏は、BtoBマーケティング担当者から多く寄せられる質問を三つピックアップし、これまで取り上げてきた考え方を踏まえて解決のヒントを示す。

Q1:The Modelを自社に導入することは可能か?

 The Modelは主にSaaSビジネスにフィットすると言われているフレームワークだが、最近は製造企業や商社からも導入の相談が増えているという。浅野氏は「導入自体は難しくない」としながらも、メンバーの離退職にともなう組織編成などを理由に、維持の難しさを強調。「全ての企業にマッチするわけではない」と語る。

「自社にThe Modelがマッチするか否かを見極める方法の一つに、『お客様が自社に何を期待しているか』を考えみることが挙げられます。The Modelは分業体制×専門性の向上によって、自社のリソースの最適化やパフォーマンスの最大化を図る素晴らしい仕組みです。一方で、たとえばお客様が分業ではなくワンストップサービスの提供を求めている場合は、適さないと判断できます」(浅野氏)

営業担当者はスコアだけで動かない

Q2:ウェビナーの数字をどう改善すれば良いか?

 コロナ禍のタイミングでウェビナーを強化し始めたものの、集客数が年々減っていることに悩む企業は多い。広告を活用したり、集客代行会社に依頼したりしたものの、効果の低減を止められないケースだ。

 この場合「まずはウェビナーの実施目的を見つめ直す必要がある」と浅野氏。「リード獲得」が目的であれば、ウェビナー以外の手段を模索できる。「検討促進」が目的なら、リアルイベントの開催に切り替えるのも手だ。

「実施目的を見直す際は、データもよく見てみましょう。たとえば30分間のウェビナーで、大半の視聴者が開始後10分以内に離脱しているとすれば、検討促進の役割を全く果たしていないことになります。ウェビナーの時間を短くして複数回視聴してもらう手間暇をかけるか、ウェビナーではなくホワイトペーパー化する方法も考えられるはずです」(浅野氏)

Q3:リードの状態を可視化しても、営業担当者が動いてくれない

 MAツールを使ってスコアリングを実施し、一定のスコアに達すると営業がフォローするルールになっているものの、なかなか営業担当者が動いてくれない。多くの担当者が同様の悩みを抱えているのではないだろうか。

 浅野氏は大前提として「営業担当者はスコアだけで動かない」と断言。マーケティングと営業の間に存在する“溝”の本質に言及する。たとえば、マーケティング担当者は「スコアが60点を超えたら営業担当者がフォローするだろう」と考えていても、営業担当者は60点の内訳を見ないと動くかどうか判断できない。なぜなら、毎日届くメールをこまめに開封したことで60点に達した場合と、資料請求をして価格のページを閲覧したことで60点に達した場合とでは、60点の重みが異なるためだ。

「営業担当者は『この顧客とどこで接点を持つか』『この顧客はどのような課題を持っていそうか』を見極め、会話の内容や提案の軸を考えてから動きます。つまり、営業が顧客にアプローチするにあたって必要な情報が不足していたり、情報があっても視認性が低かったりする状態では動いてもらえません」(浅野氏)

営業が動かない例
営業が動かないケースの例(左三つ)。情報を右のような状態にできれば、営業が自発的に活用してくれる

KPIの見直しや振り返りには外部の力を借りるべし

 多くの日系企業において、現在設定されているKPIは「前任者が社内で少しでも良い結果に“見せる”ために、ひねり出したケースもある」と浅野氏。そのような経緯で設定されたKPIを、一人のマーケティング担当者が簡単に変えることはできないだろう。浅野氏は「理想はもちろん、停滞要因に自身で気付き、自社で振り返りができること」とした上で「停滞を感じているが、どこから手をつけて良いかわからない場合、当社を含めた外部パートナーを頼り、壁打ちしながら整理するところから始めてみてはどうでしょうか」と述べ、セッションを締めくくった。

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この記事の著者

和泉 ゆかり(イズミ ユカリ)

 IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社シャノン

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2024/07/30 10:00 https://markezine.jp/article/detail/46060