コラボ先の世界観を広告の世界観自体に取り込む
次に紹介するのは2024年6月に展開されたアニメ「逃げ上手の若君」の広告です。同広告では、掲出の前日に公式Xで掲載予定のデザインが公開されていました。

しかし、実際に見に行ってみると、前日に公開されたデザインと実際に掲載されたデザインが異なり主人公が広告からいなくなっていました。このように「逃げ上手」というアニメの世界観を広告で上手に表現していました。

主人公が逃亡するクリエイティブ(写真左)、逃げた先を当てるクイズを公式Xで発信。一種の体験型ゲームに(写真右)
2024年6月に展開された「劇場総集編 ぼっち・ざ・ろっく!Re:/Re:Re:」の広告もユニークな内容でした。同広告では、「#負けるなぼっちちゃん」と称し、同作のキャラクターで極度の人見知りである、後藤ひとりが使われたポスターが山手線の各駅に全41種類展開されました。

恵比寿駅(左)、目黒駅(中央)、品川駅(右)
キャラクターの性格を加味しつつ、各駅でその駅にちなんだセリフと、ワンシーンがセットで掲載されており、SNS上ではポスターを全制覇したユーザーも見られるなど話題となりました。
作品やブランドの世界観を単に言語化するだけでなく、“広告の展開方法”自体に織り込むのも印象的な広告を作る上で有効な手法です。現実世界とフィクションの境界をうまくコントロールして話題になった事例でした。
インパクトのあるフレーズでSNSでのシェアを促す
続いて紹介するのは、2024年5月に実施された日本ピラー(現:PILLAR)の新聞広告です。同広告では、創業100年の周年広告でありながら、クリエイティブに「100年やって、この知名度。」と記載。「知られていない」ことを示す円グラフまで書かれていました。
その下に載せられた「目立たないところで、社会を支えています。」というメッセージによってそれまでの表現の意図が伝わる設計です。

新聞広告では「創業●周年」のような広告がよく見られます。ただ、その多くは事業の説明や代表からのメッセージが描かれることがほとんどです。今回の事例のように、“知名度が低い”ことを逆手にとって、企業のアピールとする展開が見事でした。
2024年5月に、新卒ダイレクトリクルーティングサービスのOfferBoxが掲出した広告も印象的でした。同広告は就活生を応援するために掲出したもので、クリエイティブには大きく「みにみにぴにぴに」と書かれています。「口角が上がる広告」と称して、専門家監修の下で同フレーズを作り上げ、注目が集まりました。なお、同社は、2023年の同時期にも就活生向けの広告を出しており、今回が第2弾です。

各地方の大学最寄り駅に「みにみにぴにぴに」のみが描かれたクリエイティブのポスターが掲載され、その後に渋谷駅で答え合わせとなる大型広告が展開されました。SNSには、「みにみにぴにぴにって何?」といった声も多く見られました。
2024年上半期はクリエイティブのユニークさに留まらず、広告の「出し方」そのものを戦略的に再構築する動きがみられました。「逃げ上手の若君」の展開や、OfferBoxの「みにみにぴにぴに」キャンペーンなど、メインビジュアルの公開前に種を仕込むことで、爆発力の底上げを狙った施策が増えた印象です。
各社の出稿数も増えている中で、いかに差別化して注目してもらうか、今後も大きな課題となっていきそうです。2024年下半期もどのような広告に出会えるか、楽しみですね。