価値を見出しても忘れてしまう事態を防ぐ
西口:改めて、WHOとWHATをつかめている前提で、ブランディングを図解してみます。これまでの事業ステージ(第14回)や、売り上げ構造の回(第13回)などで、事業の継続と利益の確保にはリピートしてもらうことが重要で、そこには「価値の再評価」が働いていると解説しました。これを図にすると、以下のようになります。
顧客は、色々なルートでプロダクトに価値を見出したら、初回購入の意思決定をし、プロダクトを入手します。これが価値の最初の評価です。次に、使ってみて改めてどうだったか、期待通りなのか期待を超えたのか、それとも不満かといった「価値の再評価」をします。ここで価値を再認すれば継続、価値がないと思えば離反します。
西口:冒頭で、ブランディングとは「ブランド名・色や形・デザイン・ロゴ・音・言葉など何らかの形で、顧客がプロダクトに『価値』を見出した『便益と独自性』を記憶として残し、忘却を防ぎ、初回購入や継続購入へとつなげるための想起促進の手段」と述べました。これを踏まえて、先ほどの図で「ブランディングの役割」を考えてみます。
実は、価値を感じていても、忘れてしまうことがあります。特に昨今、顧客は本当に日々たくさんの情報に触れていて新商品もたくさん目にするので、広告を見たり、実際に体験したりしています。「いいな」と思ったプロダクトも、記憶から消えてしまうことは少なくありません。
「価値がありそう/あると感じていたけれども、つい忘れてしまった」という顧客は、どんなビジネスでも大きな割合を占めています。この「忘却」を防ぐのが、ブランディングの大きな役割です。
「もなか」と「幻の行列もなか」どちらが売れる?
MZ:確かに、広告を見て「買おう」と思ったり、体験してよかったから「また買おう」と思っていたりしても、すぐに忘れてしまって結局買わないことは多いですね。
西口:そうですよね。例を挙げると、数ある大手飲食チェーンを思い浮かべると、「久しぶりに食べたいけれど、なぜか最近は行っていない」というお店がいくつか思い浮かぶのではないでしょうか。でも忘れているだけでその価値は評価しているので、自宅や職場の近くに新しい店舗ができたり、何かのきっかけで思い出したりすると、復帰する可能性もあります。
MZ:こうした忘却を防ぐ手段が「ブランディング」なんですね。
西口:はい、そう考えています。広告や店頭で見たなどの接触時、また使用時などに印象に残して、購入の機会に想起してもらうのです。仮に店頭で「この間広告で見た、美味しそうなあれ、買いたいな」と思ったり、また購入体験がすでにあったりしても「今使っているあのシャンプー、どれだっけ」と覚えていなければどうでしょうか。名前や特徴的な機能などの手がかりがないと検索もできず、「思い出せないから、じゃあこちらでいいか」と競合に流れるかもしれません。そうした事態も回避したいです。
ただし、便益と独自性に紐づく形で強く記憶してもらうことが重要です。例として、ある観光地にとてもおいしい「もなか」を販売する老舗の和菓子屋さんがあるとしましょう。街の人はよく知っていて、製造される時間に列ができることもあるほどです。ですが名前は単純に「もなか」、パッケージも普通で観光客の目には留まらず、おいしいという便益があるのに広がらない。これは、ブランディングに失敗している例です。
MZ:こんな場合は、ネーミングを工夫したりすればいいですか?
西口:そうですね、仮に「幻の行列もなか」と名称を変え、特徴的なロゴをつくり、パッケージには行列のイラストを入れたりすれば「独自性」が生まれ、覚えられやすくなります。食べるとおいしいので「また買おう」と思われたり、口コミを書いてもらえたりするかもしれません。もしネット通販を始めれば、全国に広がる可能性もあります。これが、「便益と独自性に紐づく形で記憶される」ことなんです。
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