「ブランディング」は顧客の忘却と離反を防ぐ手段
MarkeZine編集部 吉永(以下、MZ):本連載では、初心者マーケターがわからないこと、誤解しがちなことを伺ってきました。今回からは「ブランディング」についてお聞きしていきます。定義があいまいなワードが多いマーケティング領域でも、ブランディングは特にわかりにくく感じます。
西口:そうですよね。それは吉永さんが初学者だからではなく、中堅やベテランのマーケターであっても、誤解がとても多いと実感しています。様々な方が各々の理論を語られていて、書籍も多数あります。
この記事で紹介するのは私の考え方になりますが、消費財から耐久財、またtoC/toBを問わずおよそのプロダクトに適用できるので、まずは読者の方々が携わる業種に当てはめて考えていただければと思います。
MZ:そもそも、ブランディングとは、マーケティング活動の一つなんでしょうか?
西口:はい、あくまでマーケティングの手段手法の一つだと考えています。何のための手法かというと、主目的はプロダクトの便益と独自性を、そのプロダクト固有のものとして強く記憶していただくことです。顧客が手に入れたい便益や独自性を感じたときに、その特定プロダクトの想起を容易にし、初めて購入する初回購入の際に、そのプロダクトを購入していただく確率を上げ、その後の継続購入・継続利用も促進するためです。
ブランディングの主目的を定義すると、以下の通りです。ごく端的にいえば、プロダクトを覚えてもらう・思い出してもらうことですね。
ブランディングの定義:
顧客がプロダクトに「価値」を見出した「便益と独自性」を、ブランド名・色や形・デザイン・ロゴ・音・言葉など何らかの形でそのプロダクト特有の記憶として残し、そのプロダクトの忘却を防ぎ、想起を容易にし、初回購入や継続購入へとつなげるための手段
ロゴやネーミングの印象が強ければ売れるのか?
MZ:印象を強める、ということでしょうか。ブランディングというと、イメージ作り戦略のような部分もあると思うのですが。
西口:印象を強めるのは、確かに想起されるのに有効ですね。その点ではブランディングはイメージ作りともいえますが、大事なのは、その「印象」がプロダクトの便益と独自性に紐づいていることです。
たとえば吉永さんは、おしゃれなロゴや格好いいデザイン、あるいは一度で覚えるようなネーミングで印象が強く残ったら、そのプロダクトを買いますか? また、買い続けますか?
MZ:話題になっていたり、自分にとって使えそうだったら、とりあえず買うかもしれません。でも使ってみて中身がともなっていなかったら、2度目はないと思います。
西口:私も同感です。つまり、装飾だけでは意味がないのです。実際のマーケティングの現場でも、よく「ロゴを変えましょう」「デザインを変えましょう」「ついでに名前も変えましょう」という話が挙がりますが、それだけでは継続的な売り上げや事業成長には遠く及びません。
たとえば、以下のロゴ群を見てください。ロゴは、顧客が感じている便益と独自性、すなわち価値に紐づいて認識されます。左側のようによく知るブランドであれば、目にした瞬間に、好き/嫌い、買いたい/買いたくない、といった何らかの反応があるはずです。そのブランドにまつわる特別な思い出を想起する方もいるかもしれません。一方、右側のロゴは南アフリカの企業のものですが、きっと知らないですよね。そうすると、何の感情もないと思いますし、買いたいとも思わないでしょう。