トップに君臨する「パンテーン」の圧倒的な強さ
次の図は、日本のシャンプー市場におけるSKUの浸透率貢献をグラフ化したものです(相対浸透率2.5%以上の14ブランドに限定)。
増分浸透率の降順に各ブランドのSKUを横軸に整理し、累積浸透率を縦軸をとっています。いずれのブランドも主力のSKUでまず大きく増分浸透率を伸ばし、徐々に逓減していくというカーブを描いていることが読み取れますね。

累積浸透率の定義:各SKUを購買IDが多い順に並べ、複数SKU購買したIDは購買ID数が最大であったSKUにおいて浸透したとして集計。データの特性上、商品切り替え時やチェーン専用品などでSKU数が膨れている可能性がある。
■シャンプー市場における経験的一般化:ラインアップの閾値
SKUの数が増えるにつれて増分浸透率は収穫逓減する。閾値としては、およそ上位3割の主力SKUが浸透率や売上に大きく貢献し、残りの約7割はインクリメンタルな貢献をもたらさないロングテールのパターンになりやすい。
ここで、浸透率の高い上位3ブランド(パンテーン、ラックス、メリット)とそれ以外のブランドを比較すると、上位3ブランドは主力SKUの浸透力が非常に高いことがわかります。特にメリットとパンテーンを比較すると、以下のような特徴が見えてきます。
・メリットは上位10程度のSKUの増分浸透率が高い
・パンテーンは上位10SKU以降の増分浸透率も高い
たしかに、メリットは上位SKUのポートフォリオ効率が高いことが強みなのですが、パンテーンは上位のみならず中間SKUのポートフォリオ効率も高いのです。
つまりパンテーンは、単にラインアップが多いというだけでトップに君臨しているわけではなく、主力以外のSKUも増分売上を生み出す「層の厚さ」がある、そういうMECEな商品開発をしてきた結果の強さだということです。
メリットがパンテーンに勝つには?鍵は「エクセスロイヤルティ」にある
メリットがパンテーンに対してポートフォリオの優位性を構築するには、大きく次の2つの方向性があると思われます。
・主力SKUそれぞれの増分浸透率をさらに高める
・パンテーンにならい、MECEな需要に刺さる新商品(SKU)開発を進める
その際、ポイントになるのが「各SKUに対する行動ロイヤルティの高さ」です。というのも、ブランドは複数の商品属性(機能、成分、サイズ、パッケージ、フレーバー、価格、etc.)によって構成されているわけですが、ブランド自体より、むしろそうした商品属性に対するロイヤルティの方が高い場合があります(Rungie & Laurent, 2012)。
つまり、「このブランドだから買う」というより「このサイズ感だから買う」「この価格帯だから買う」という選び方のほうが購買習慣に合っているかもしれない、ということです。
また、他の属性に比べて、ある特定の属性が高い行動ロイヤルティをもたらす場合もあります(Jarvis and Goodman, 2005)。たとえば、Rungie and Laurent(2012)は、洗剤だとカプセルタイプとペーストタイプのSKUがそうした属性に該当し、マージンを高めるにはそのような行動ロイヤルティの高い商品属性を軸としたターゲティングが効果的だろうと述べています。Erdem et al.(2008)では、ケチャップブランドのハインツを例に、既存顧客のプレファレンス(味の濃さ)を強化する広告に価格弾力性を下げる働きがあることが報告されています。
このような、特定の商品属性やオケージョンに対してのみ購入頻度やSCR、利用額などが高くなる現象のことを「エクセスロイヤルティ(excess loyalty)」と呼びます。増分浸透率に着目した商品開発やポートフォリオ戦略では、このエクセスロイヤルティをもたらす商品属性および、その背景にあるCEP(文脈)や顧客層を見つけることが肝になります。カテゴリーによっては、それらの組み合わせを調べて初めてエクセスロイヤルティが見つかることもあります(i.e., このサイズ感でこの価格だから選ぶ)。
【参加無料&要登録】リアルイベント「MarkeZine Day」に芹澤さんが登壇します! お席に限りがありますので、関心ある方はお早めに登録下さい!
『戦略ごっこ』著者 芹澤氏が解く、マーケターの無意識の「既成概念 」 STP?差別化? 鵜呑みにしていた「定石」の真実を知る40分