本連載はマーケティング学会との連動企画です。本連載で解説する実証研究は、初報を2024年8月8日に開催されるマーケティング学会主催のマーケティングサロンにて、続報を2024年9月11-12日に開催されるMarkeZine Day 2024 Autumnにて発表する予定です。また、本研究は、全国の大手スーパーマーケットとドラッグストア計8,200店舗、対象ID数8,000万IDのID-POSデータを預かるカタリナマーケティングジャパンに、データ&アナリティクス面でご協力いただきました。
そもそも「浸透率」とは?
まず、浸透率の基本的な定義から始めます。ブランドの浸透率とは「特定の期間にブランドを1回以上、購入あるいは利用した消費者の数/母集団の数」です。この時、母集団定義を「未顧客含む潜在顧客全員」とした場合は絶対浸透率、「特定期間内にカテゴリーを購入した人」とした場合は相対浸透率と呼びます。
浸透率にはもう1つ、増分浸透率と累積浸透率という分類があります。今回の話で大切になってくるのはこちらの分類です。
増分浸透率とは、ある施策により純増した(インクリメンタルな)浸透率を指します。たとえば「新しいラインアップを1つ追加することで、これまで買ってくれなかった未顧客をどれだけ獲得できたか」といった文脈で使われます。累積浸透率は重複を許した増分浸透率の合算です。
■浸透率の基本的な定義
ブランドの浸透率:特定の期間にブランドを1回以上、購入あるいは利用した消費者の数/母集団の数
・絶対浸透率:「未顧客を含む潜在顧客」を母集団とした場合
・相対浸透率:「特定期間内にカテゴリーを購入した人」を母集団とした場合
・増分浸透率:ある施策により純増した(インクリメンタルな)浸透率
・累積浸透率:重複を許した増分浸透率の合算
全てのSKUが売上に等価貢献するわけではない
ブランドが持つラインアップの広さは、そのカテゴリーにおける専門性やコンピテンシーのシグナルとなるため、知覚品質を向上させ、長期的な売上に貢献する働きがあると言われています(Ataman et al., 2010; Berger et al., 2007)。ただし、闇雲に商品数を増やせばいいわけではありません(Gourville & Soman, 2005)。
本来であれば、SKU(Stock Keeping Unit)の数に比例して浸透率が増えていくのが理想ですよね。言い換えると、ラインアップを増やすほど新しい顧客の獲得につながっている、という状態であって欲しいわけです。
しかし、SKUの数と浸透率の関係を調べた研究によると、そのような単純な線形関係にはならないようです(Tanusondjaja et al., 2012)。現実的にはどうなるかというと、下図のような収穫逓減型のカーブを描きます。
つまり、全てのSKUが等しく売上に貢献するわけではないのです。さらに興味深いのは、同程度の浸透率のブランドでも、Aのようなロングテールになるパターンもあれば、Bのようにテールが短いパターンもあるということです。
では、なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?