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今知っておきたいマーケティング基礎知識

OMOマーケティングとは?具体事例とつまづきやすいポイントを解説

 オンラインとオフラインの融合の意味を持つOMOは、実店舗やオンラインショップなど複数の販売チャネルが普通となった現在、重要なマーケティング手法です。既に取り入れている企業が多いながらも、なかなか進んでいないのも事実。この記事では、改めてOMOとは何か、つまづきやすいポイントや具体的な事例を紹介します。

OMOマーケティングがなぜ必要とされるのか

 実店舗とオンラインショップなどのEコマースとの両立が必須となっている現在、オンラインとオフラインを分けることに意味がなくなっています。しかし、現実にはオンラインショップの部門と実店舗の統括部門が異なっていることも多いようです。その垣根をなくし、顧客により良い体験を提供しようとするマーケティング手法がOMOです。

OMOとは?

 OMOは「Online Merges with Offline」の略で、シンプルに訳すと「オンラインとオフラインの融合」となります。しかし、OMOが目指すのは、融合した先にある顧客の利便性向上や、顧客が得られる体験の提供です。顧客がオンラインとオフライン、販売チャネルの垣根を意識することなく、ブランドとして統一したサービスを提供することを目指します。そしてその先の目的に、売り上げのアップが含まれており、それらを含めてOMOと言われています。

ユニファイドコマースやオムチャネルとの違い

 OMOに似ている概念として、ユニファイドコマースがあります。こちらもOMO同様に顧客体験を重視しているものの、目的が違うとされています。

 ユニファイドコマースは主軸を顧客体験そのものに置いており、売り上げのアップだけが目的ではありません。しかし、顧客一人ひとりに合わせた販売施策を行い、ブランドの認知、コンセプトの浸透、ファンの醸成などを通すことで、結果として売り上げがアップしている企業はあります。どちらもマーケティング手法であるのと同時に、概念的な意味が含まれています。

 もう一つ引き合いに出されやすい言葉として、オムニチャネルがあります。オムニチャネルは企業が持つ販売チャネルとデータを統合し、様々なチャネルで顧客とつながり、販売機会を逃さないようにするもの。オンラインショップで購入したものを実店舗で受け取ることができたり、実店舗で売り切れだったものをオンラインショップで注文できたりといった、チャネルの垣根を超えて売り上げアップを目指すマーケティング手法です。

OMOが注目される理由

 スマートフォンが普及し、オンラインでのショッピングも一般化した現在。消費者は実店舗やオンラインショップの分け隔てなく、自分のライフスタイルや趣味嗜好に合わせて買い物を楽しんでいます。

 この消費者のスタイル変化は、「購入する場所(チャネル)」だけではありません。購入に至るまでの流れ、商品やサービスの購入の決め手となる要素、購入後の動向についても変化が起きています。

 たとえば、購入前にWebで商品の情報を調べ、性能はもちろん使い勝手などの口コミをチェックするのは当たり前です。チェックする内容や選定基準も、性能だけではなく、その商品のコンセプト、企業のスタンス、ブランド、商品を得た時の満足度などが含まれています。購入した後のアフターサービスにも目が向けられ、消費者はモノ・サービスだけではなく購入を検討することから始まる一連の体験を、重視し始めています。

 その変化に対応するためには、タッチポイントや販売場所のチャネルを増やすだけではなく、あらゆる場面でブランドとして統一されたメッセージを伝える必要があります。そのためにも、今まで区別されてきたオンラインとオフラインを融合させ、マーケティングのゴールを顧客体験へと変化させていかなければならないのです。

OMOマーケティングの効果

 オンラインとオフラインを融合させることでどのようなメリットがあるのでしょうか。OMOマーケティングがもたらす効果を紹介します。

精度の高い顧客の購買データの収集

 OMOではオンライン、オフラインを切り分けたサービスの展開をしません。オンラインショップや実店舗の購買履歴をはじめとした顧客データを統合することで、顧客の消費行動を一連の流れの中で追うことができます。質の高いデータを収集、分析することで、顧客のニーズをより正確に把握することが可能です。これにより、パーソナライズされたアプローチが実現するでしょう。

機会損失の防止

 オンラインとオフラインがシームレスにつながることで、消費者は欲しいと思った時にその商品やサービスに触れることができます。

 たとえば、オンラインショップと店舗の在庫情報と連動していれば、どちらかのチャネルでのみ売り切れになることはありません。また、ポイントサービスなども連携がされていれば、消費者はチャネルを気にすることなく購入できるでしょう。

 タイミングや、わずかな懸念で販売の機会を失う可能性を低くしていくことができます。

顧客の体験価値の向上

 欲しいと思った時に購入やサービスを受けられたり、企業の統一されたブランド観を通して購入前の検討段階から楽しめたりすることもメリットです。購入後もアフターサービスがあり、トラブル時にも手間が軽減されているといった施策が機能している場合、その企業の商品・サービスの満足度は高まります。結果的に、LTV(顧客生涯価値)の向上につながるのです。

OMOが進まないのはなぜか

 OMO自体は2017年頃に、元Google ChinaのCEO 李開復氏が提唱したと言われており、日本でも取り組む企業が増えていきました。

 しかし、成功例として紹介される実例は実はそれほど多くはありません。ここでは、OMOを推進していく上での課題を取り上げます。

販売チャネルの充実化と各チャネルでのブランド統一

 OMOではオンラインとオフラインを融合していきますが、オンラインは単純にオンラインショップだけを指すわけではありません。オフラインもまた、実店舗だけではありません。カスタマーサービスセンターや各種SNSなども顧客にとっては同じブランドが発信するサービスとなります。カスタマーサービスセンターも、電話によるオペレーター対応とWeb対応があり、同じWeb対応でもオペレーターが対応するもの、AIが対応するもの、Q&Aなどで対応するものなど様々です。

 まずは、問い合わせや購入をしたい時、オンラインでもオフラインでもつながることができる環境の整備、すなわち販売チャネルをはじめとしたタッチポイントの充実化が必要となります。

 次に、それぞれのチャネルが統一されたブランド観を発信しなければなりません。各チャネルで顧客対応が異なれば、顧客から見た時に同一のブランドとしての魅力が削がれてしまうためです。

 そこから、企業が持つ顧客とのあらゆる接点、チャネルを融合していくのですが、オンラインショップやアフターサービスなどは通常、別の部署で対応しています。すでにそれぞれ動き出している部署が共通認識を持ち、顧客体験の向上を目的に施策を調整していくことは簡単ではありません。OMOの推進が難しい理由の一端と言えます。

在庫管理やデータベースなど社内のシステム構築が必須

 OMOを推進していく企業は、すでに複数の販売チャネルを抱えている場合が多いでしょう。その中で最初にポイントとなるのは、オンラインショップと実店舗の在庫管理です。

 顧客にどのような体験を提供するかは企業によってそれぞれ異なりますが、店舗にない商品をオンラインショップで手配するなどのサービス展開はOMOの第一歩と言えます。そのためには、オンラインショップと実店舗の在庫管理がシームレスにつながっていることが求められます。リアルタイム性が必要なオンラインショップと、一定時間ごとに在庫の確認・処理を行う実店舗の仕組みを統合させるシステム構築が必要です。

 また、各チャネルが持つ顧客データの統合も必須となります。オンライン上のサービスでは、顧客データの収集は難しくありません。しかし、実店舗とは異なるアプローチとしてオンラインショップをスタートさせていた場合、実店舗が収集する顧客データとオンライン上で収集した顧客データでは必要な要素が異なっていることが多々あります。

 もちろん異なるシステムのデータを統合して分析・活用できますが、新たなシステム構築が必要となり、導入や運用にコストがかかります。また、顧客向けのアプリ開発などにも費用がかかるため、ハードルは高いと言えるでしょう。

 なお、顧客データを統合していくにあたり、最も重要となるのは収集したデータの活用方法です。活用方法によってシステムに必要な機能も異なることから、まずはデータを収集してみたものの、実行したい施策に必要なデータがなかったといった事態が起こる可能性もあります。

 データを集めただけで、その後の施策に活かせなくならないよう、OMO推進の構想段階でゴールである「顧客に提供したい体験」を戦略的に立てていく必要があります。

ECとリアル、双方に通じている人材の育成

 OMOに着手するにあたり、Webマーケティングの基礎知識や、基本的なITの知識は必須となります。加えて、実店舗における従来のマーケティングにも通じていなければ、双方の良し悪しを把握し、最適な融合を図ることはできません。

 しかし、これまでオンラインとオフラインを別々の施策として扱っていた場合、双方に明るいマーケターはそれほどいないでしょう。OMOの仕組みを構築し、運用していくための人材育成も同時に行っていかなければなりません。

 実店舗で優秀な成績を収める販売スタッフにオンラインショップを担当してもらうことも良いでしょう。オンラインショップと実店舗で分けることなく双方の経験を積ませていくなど、自社の商品やサービス、システムを横断的に理解している人材を育成していくことが大切です。

顧客に提供したい体験は何か

 これまで挙げたOMOが進まなくなるポイントのすべてに共通しているのが「顧客に提供したい体験」の有無です。

 たとえば、実店舗における店員の接客術や知識力が高く評価されているのであれば、普段実店舗で買い物をしている顧客は、同じレベルをオンラインショップに求める可能性があります。その場合に、オンラインショップではどのような施策を取るべきなのか。そこには「オンラインショップでどのような体験をしてほしいか」「提供したいか」の視点が必要です。

 それがないままに、オンラインとオフラインの融合をシステム上で行っても、最終的な売り上げアップにはつながりません。提供したい顧客体験を得てもらうためには、何が必要か。そのためにはどのようなデータが必要か。現状提供できている顧客体験を整理し、課題を洗い出していきます。そして、その課題解決と顧客体験を得るためのフローを組み立てていきます。

結果はすぐには表れない

 OMOを推進するにはまず、自社の強みを改めて洗い出し、提供したい顧客体験を明確にします。そこに向けて必要なシステム改修や開発、サービスの創生、チャネルの開発などをしなければなりません。

 場合によっては、オンラインショップと実店舗など縦割りで行われてきた各種サービス、事業を横断的にとりまとめるために、組織改革が必要になるかもしれません。加えて、OMOを推進できる人材育成も必須であり、数値として結果が現れるまでには時間がかかることが容易に想定できます。その点の理解がおよんでいないと、数ヵ月で結果を求められるといったことも考えられるでしょう。

 OMOを一時的なマーケティング施策として取り入れるのではなく、長期的で全社的な課題として取り組んでいくことが重要です。

OMO事例

 ここでは、OMOの事例を紹介します。一つはオンラインショップの利便性を高めて充実化をはかることでオンラインとオフラインの距離を縮めている事例。もう一つは、実店舗にオンラインショップの発想を取り入れ、OMO型店舗としてオンラインとオフラインの相乗効果を果たしている事例です。

デサントジャパン

 スポーツ用品メーカーであるデサントジャパンは、デサントをはじめとした9つのブランドを有し、卸先を通じた販売の他、直営店やオンラインショップによるD2C事業を展開。店舗スタッフがオンライン接客を行うなどして、顧客から好評を得ています。

 同社がOMOの推進として力を入れているのが、D2Cの牽引役でもあるオンラインショップです。オンラインショップと店舗の在庫を一元化して管理しているのはもちろんのこと、店頭スタッフによるオンライン接客など接客面でのOMOを強化しています。オンライン接客では、インスタライブを活用したり、コーディネートを提案したりすることで、店舗と変わらない体験を提供していることが好評のようです。

 OMOの好例として着目したいのは、オンラインショップ(EC)部門のスタッフを、社内の精鋭を集めて増強した点。また、オンラインショップに店舗所属のスタッフを起用することで、内部からオンラインとオフラインの融合を図っている点です。

 さらに、オンライン上での販売スキル向上のために、オンライン接客の社内講習会を定期的に実施するなど、人材の育成にも力を入れています。販売員のナンバーワンを選ぶコンテストでも、実店舗での販売スキルに加えてオンライン接客も評価の対象です。これにより、これまで入賞経験のないスタッフが上位に入ってくるなど、新たな人材発掘にもつながっています。

 オンライン上でも実店舗と遜色ない、もしくはオンラインならではの接客を受けることで、顧客の満足度も向上。オンラインショップのコンバージョン率(CVR)は30%も増加しました。

 また、サイトの見やすさ、検索のしやすさ、買いやすさなどの向上を図り、レビューしやすい環境を整えたところ、レビュー投稿数が増加。さらに、店頭で購入した場合でもレビューを書き込めるようにしたところ、店頭での売り上げが高い優良顧客によるレビューが増えたといいます。顧客にとっても、オンラインとオフラインの垣根なくブランドとつながることができる体験となっています。

 顧客が率直に商品の良い点、改良してほしい点などを語ることができるレビューは、企業にとっては改善の大きなヒントでもあります。集めたデータを商品企画にも活用するなど、良い循環が生まれています。

SUIT SQUARE

 実店舗をOMO型店舗として位置づけ、オンラインとオフラインの融合を図っているのが「洋服の青山」でお馴染みの青山商事が展開する複合型ストア「SUIT SQUARE(スーツスクエア)」です。

 スーツスクエアは、20~30代向けのブランド「THE SUIT COMPANY」をはじめ4つのブランドを取り扱う店舗です。同社がOMO型と位置づけるのは、一つ目に複数ブランドの取り扱いがあります。オンラインショップ上では様々なブランドを横断的に回遊し、購入するのが一般的な一方で、実店舗では多くのアパレルでブランドごとに店舗を分けて出店していました。そこで、実店舗でもオンラインショップと同様に複数のブランドから選ぶことができるよう、実店舗をオンラインショップの発想に寄せたのです。

 次に、店舗の在庫についても、オンラインショップありきの発想で商品を展開しています。実店舗での買い物の最大の利点と言えば、生地の質感、実際の着心地、サイズ感、色味などを試着で体感できることですが、実際には同じ型のものが一つあればある程度の着心地などはわかるため、店舗で全サイズ、色を揃える必要はありません。色違いの商品展開は極力抑えて、店舗にいながら注文できる形にしています。

 顧客は注文後、自宅への配送にすれば手ぶらで帰ることができるため、利便性にも繋がっています。店舗も商品点数を抑えることで敷地面積のコンパクト化が可能となり、銀座や駅前などの大型店舗が構えにくい場所にも出店できるようになりました。

 また、OMO型店舗ではコーディネートを提案するデジタルサイネージを設置。販売スタッフとの会話が苦手という人には嬉しいサービスとして受け入れられています。オンラインの施策としては、顧客がオンラインショップで選んだ商品を最寄りの店舗に配送し、好きなタイミングで試着できるサービスも実施しています。

 このようにOMO型店舗を展開していくにあたってわかったことは、実店舗とオンラインショップの両方で購入する顧客が一定数おり、年間の購入額も高い点です。また、店舗がある地域のほうがオンラインショップの売り上げが高い傾向もあることから、同社では店舗があるからこそオンラインショップでの購入へと結びついていると分析しています。オンラインとオフラインで分けるのではなく、双方の足りない部分を補うような視点が成功の一端を担っていると言えそうです。

まとめ

 OMOマーケティングは、顧客により良い体験を提供することが目的ですが、それはいわば時代の流れ、顧客のニーズに寄り添っていると言えます。OMOの目的を言葉通りの「オンラインとオフラインの融合」とせず、LTV(顧客生涯価値)の向上に置くことで、柔軟な対応ができるのかもしれません。

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この記事の著者

マーケ研究所(マーケケンキュウジョ)

 マーケティングに関する情報を調べ、まとめて届けています。

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MarkeZine(マーケジン)
2024/10/14 00:00 https://markezine.jp/article/detail/46428

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