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AI×データ活用が導く、新時代のマーケティング変革とは?電通グループのキーパーソンに聞く

 ビジネスにおけるAI活用が加速する中、マーケティング領域でも様々なAIソリューションが開発されている。国内電通グループ約150社で構成されるdentsu Japanは、どのようにAIと向き合い、新たな時代のマーケティング変革に活用しているのだろうか。本記事ではMarkeZine編集長の安成が、dentsu JapanのAI活用におけるキーパーソン3名にその方法や考え方について話を聞いた。

AIでマーケティングは、顧客のコミュニティを巻き込み“自分ごと化”する方向へ

安成:dentsu Japanでは「AI For Growth」というビジョンを掲げ、「∞AI(ムゲンエーアイ)」シリーズをはじめとしたソリューションや社内の組織運営などにAI技術を活用する取り組みを進めています。まず、現状の見解と、これから重要になるポイントは何でしょうか。

山本:AI活用の浸透によって、マーケティングは顧客がより“自分ごと化”する方向へ向かっていると考えます。マスマーケティングは、メッセージを受け取る顧客一人ひとりが「One of mass」でしたが、デジタルマーケティングでは広告はよりパーソナライズされた手法へ変わってきました。

 そしてこれからは、顧客の周囲を巻き込み「あなたが属するコミュニティに向けたマーケティング」を提供する形になっていきます。顧客だけでなく周りのコミュニティも含むことで、一層メッセージを自分ごと化してもらうソーシャルマーケティングの時代になるのではないでしょうか。

 加えて、従来の企業から顧客へという一方通行だったコミュニケーションがインタラクティブになり、対話形式のリッチな体験を提供できるようになります。CDP(Customer Data Platform)と掛け合わせることで、顧客をより理解した状態で対話することが重要になってきます。

株式会社電通デジタル 執行役員 山本覚氏 東京大学 松尾豊教授の研究室でAIを専攻し、AIベンチャー企業のデータアーティストを創業。現在は電通デジタルで執行役員とデータ&AI部門長、dentsu Japanのデータ&テクノロジー委員会を兼任しながら、AIを活用したマーケティングサービスを提供する。
株式会社電通デジタル 執行役員 山本覚氏
東京大学 松尾豊教授の研究室でAIを専攻し、AIベンチャー企業のデータアーティストを創業。現在は電通デジタルで執行役員とデータ&AI部門長、dentsu Japanのデータ&テクノロジー委員会を兼任しながら、AIを活用したマーケティングサービスを提供する。

安成:これからは、それぞれのブランドらしいクリエイティブやキャッチコピーの作成など、より高度なことも求められるようになります。どう対応しますか。

山本:AIは「こういうものを作りたい」と決めた後の作業を楽にしてくれますが、その“こういうもの”を人間側がどう決めるのかが問われるようになります。データの整形などの作業をAIが代替してくれることで、短期的なパフォーマンス向上は人間の負担する部分が減っていくのではないでしょうか。

 その分、長期にわたる顧客との関係性の構築が重要になります。パフォーマンス重視のクリエイティブがブランドイメージを棄損することもありますから、クライアント企業が本当にやりたいこと、伝えたいことに向き合う姿勢が、エージェンシーにますます求められると思います。

dentsu Japanが扱う「3つのデータ」とは?

安成:AI技術を活用するためには、データが重要です。dentsu Japanではどのようなデータを活用しているのですか。

松永:我々は、データの収集自体を目的にするのではなく、より良い顧客体験を作ることを重視しています。次の「3つのデータ」があれば、それが成立すると考えています。

 1つ目は、クライアント企業が持っている1stパーティデータです。2つ目は、dentsu Japanでマーケティング実行上重要なものとして集めているアライアンスデータ。第3者提供されたものだけでなく、データ管理の委託やデータホルダー側で分析をしていただくなどの形態で間接的に扱えるデータも含みます。そういったデータを2ndパーティデータと呼び、独自のデータ基盤「People Driven DMP」に集約しています。そして3つ目は、EC事業者などを含めた、広義のデジタルプラットフォーム事業者が持つデータです。

dentsu Japan グロース・オフィサー/Chief Data Officer 松永久氏 2023年からChief Data Officer として、dentsu Japanのデータ戦略やアライアンスを統括。dentsu JapanにおけるAI活用のリーダーシップを担う。
dentsu Japan グロース・オフィサー/Chief Data Officer 松永久氏
2023年からChief Data Officer として、dentsu Japanのデータ戦略やアライアンスを統括。dentsu JapanにおけるAI活用のリーダーシップを担う。

松永:顧客(生活者)が日々訪れるプラットフォームの「日常的な」データと、顧客が何らかの目的を持ってサービスやアプリを訪れる際の「非日常な」データに、アンケートやテレビ視聴、位置情報データなどのクライアント企業やプラットフォーム事業者が持っていないデータを掛け合わせる。これら3つのデータをいかに適切につないでいくかが、データ戦略のカギとなります。

dentsu Japanが考える、AI時代のデータ戦略のポイント

安成:dentsu Japanが考える、これからのデータ戦略のポイントをお教えください。

松永:dentsu Japanはグローバルに事業を展開しているため、国や地域によるデータ環境の違いにも精通しています。dentsu Americasが統括する米国は、2ndパーティデータが流通しており、IDによってユーザーの生活環境がわかります。それをCRMや広告配信に活用しています。一方、欧州を含むdentsu EMEAは、規制などの影響で非常にデータが流通しづらい地域です。またアジアやオセアニアを統括するdentsu APACは、国によって環境がまったく違うため、それぞれ対応しないといけません。

 日本のデータ環境は、dentsu Americasの地域とdentsu EMEAの地域の中間といえます。データがあまり流通していませんし、現時点では1stパーティデータの活用も限られています。そのため、クライアント企業やプラットフォーム事業者とのアライアンスを活用して必要なデータを使えるようにしています。グローバル企業だからこそ、dentsu Japanでは海外の状況を把握しながら、日本特有のデータ戦略を精緻化しています。

安成:データを集めても、分析できる人材がいないとクライアント企業への提案はできません。人材育成についてはいかがでしょうか。

松永:データサイエンティストの育成にも注力しています。独自の認定制度なども設けており、前述のような3つのデータを統合的に分析できる人材が、dentsu Japanで500名ほどいます。専門人材の育成に加え、dentsu Japan全体での分析スキルの底上げのために、データサイエンスやAIに対して動画や資料を通じて学び、ナレッジをシェアする基盤も整備しています。

 一方、生成AIが広がるにつれて、クライアント企業目線でのコンサルティングやストラテジーがより重要になってきます。クライアント企業の商品やサービスに込めた想いや顧客の気持ちも理解した上でディレクションし、顧客体験を作っていくことが不可欠です。

 このような領域はAIではなく、人間が担う必要があります。コンサルタントやストラテジスト、マーケターといった人材が豊富な点も、dentsu Japanの大きな特徴だと思います。

良いマーケターが、AIの良い使い手になれる

安成:これからはマーケティング戦略を策定する上で、AIを活用することが標準的になっていくのでしょうか。

深田:そう思います。マーケティングの仕事では「理解するフェーズ」「企むフェーズ」「実行するフェーズ」があると考えていますが、AIによって、理解するフェーズにおける効率化が飛躍的に進みました。たとえば当社では社内サービスの「スマートワークコンシェルジュ(SWC)」というチャットボットに対して、ある商材の市場分析を依頼すると、当社独自のデータやAI利用許諾済みのレポートから、一般的なマーケティングフレームによる分析結果がすぐに手に入ります。

 企むフェーズでは、作業の本質は「気づく」ことです。多彩な視点を持ち、色々な角度から事象を見て突破口に気づけるかが重要です。これまではマーケターの頭の中でこの作業をしていましたが、今はAIがブレインストーミングの相手になってくれます。クライアント企業への提案でも、先方からの意見をいったん持ち帰るのではなく、その場でAIに問いを投げかけてブレインストーミングすることが可能です。

 顧客体験を中心に始まったAI活用が、市場理解プロセスや戦略策定プロセスにも良い循環をもたらし、イノベーションを起こしているのです。

株式会社電通 執行役員(ストラテジー領域) 深田欧介氏 電通でクライアント企業のマーケティング戦略策定を担うチームを率いる。2024年1月1日付で設置された11のマーケティング局を担当。
株式会社電通 執行役員(ストラテジー領域) 深田欧介氏
電通でクライアント企業のマーケティング戦略策定を担うチームを率いる。2024年1月1日付で設置された11のマーケティング局を担当。

安成:AIと対話して新しい気づきを得る力は、誰しもが持っているものではないと思います。AIと対話しながらマーケティング施策を深める技術はどうやって身に付けるのでしょうか。

深田:人を理解すること、つまり、どうすれば人の心が動くか、経験によってわかることがマーケターの“凄み”になっていきます。それは、AIを使う時も同じではないでしょうか。AIをツールではなく人格と捉えて、この優れた知能とどのような対話を行い、提案される選択肢の中からいかに良いものを選ぶかが、人間側に問われています。

 したがって、AIの時代においても、マーケティングの勝ち筋を考え感度を高めていくという基本的な能力を培うことが、AIとの対話力を上げるために重要です。良いマーケターが、AIの良い使い手になれるのです。

業務効率化の視点で捉えられがちなAIを、dentsu Japanはどう活用していくか

安成:トレンドを取り入れるだけでなく、マーケティングの本質を理解してAIを活用し、新しいスキルとして使いこなそうとしているのですね。今後、AIをマーケティングの進化につなげていくため、どのような取り組みを進めていくのか教えてください。

深田:dentsu Japanが掲げる「AI For Growth」というビジョンには、2つのポイントがあります。まず、AIは業務効率化の視点で捉えられがちですが、当社ではクリエイティビティを高めてバリューを最大化することにも活用できると考えています。私たちが元々クリエイティビティを武器にしているからこそ、持ち得る視点です。

 もう一つは、AIと対話しながら高め合っていくことです。AIにクリエイティブの成果を学習させるというアプローチはとうに終わっていて、これからはクリエイターとしてそれを評価できる、優れたAIに育てていくことが求められます。私たちも、AIとの“壁打ち”を行っていますが、マーケターとAIが相乗的に高め合っていくことが重要です。

 当社では多彩なソリューションを提供していますが、それをどう開発していくか、何のためにAIを役立てていくかという姿勢にこそ、dentsu Japanのユニークネスがあると考えます。

マーケターの経験に基づくフレームワークをAIにも活かす

松永:dentsu Japanには、マーケターの経験に基づくノウハウや思考プロセス、フレームワークが豊富にあります。なぜこのコピーや施策を選んだか、どのようにメッセージとして伝えたかをAIにインプットすれば、良いアウトプットを出せるようになることもわかっています。「なぜ」「どうやって」を言葉で説明できるようなマーケティングのフレームワークがカギですね。

 また、AIを磨くのに大規模なデータは必ずしも必要ではなく、様々な分野のエキスパートの知見があれば、データの規模が小さくても良い結果は出ます。現在、dentsu Japanではマーケターやコンサルタントが蓄積してきた知をAIの知と掛け合わせて活用していく様々なソリューションの開発も進めています。

山本:よりよきマーケティングを行うために人の気持ちに関する膨大なデータが集まり、AIサービスを次々と提供できるのは、マーケティングの会社ならではです。その上で、dentsu Japanのマーケティング会社としての強みは3つあります。

 まず1つ目が、取り扱う領域の広さです。新規事業の創出から顧客接点まで関わり、フルファネルで取り組んでいるため、データ領域も広くなります。2つ目は、松永が述べたようにグローバルでビジネスを展開していること。トレンド予測など、グローバルのデータを持っていることがプラスになるサービスは増えると思います。

 そして3つ目は、クリエイティビティに対して本気であることです。結果だけですぐに判断するのではなく、「もっと他に良いものがあるのではないか」と考える文化があり、思考の幅を広げられます。

安成:経験やスキル、考え方を磨き続けて、クライアント企業の事業成長と社会に貢献していくのですね。本日はありがとうございました。

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この記事の著者

加納 由希絵(カノウ ユキエ)

フリーランスのライター、校正者。

地方紙の経済記者、ビジネス系ニュースサイトの記者・編集者を経て独立。主な領域はビジネス系。特に関心があるのは地域ビジネス、まちづくりなど。著書に『奇跡は段ボールの中に ~岐阜・柳ケ瀬で生まれたゆるキャラ「やなな」の物語~』(中部経済新聞社×ZENSHIN)がある。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社電通コーポレートワン

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2024/11/20 17:17 https://markezine.jp/article/detail/47324