ラグジュアリーは急成長産業
ラグジュアリー業界は古い歴史があるにも関わらず、近年の急成長産業の一つとして挙げられていることをご存知でしょうか。コロナ以降も経済の先行き不透明感が強い中、「不況にも強い」とされているラグジュアリー産業はどこ吹く風で、年間ベースで8~10%の市場拡大を記録(Bain & Company社のリリースより)。今後も贅沢への加熱は止まることなく長期的な成長が期待されます。この背景には、富裕層が増加しただけでなく、アジアや中東といったマーケットの拡大、若年世代による消費の牽引といった、大きな市場変化があります。
実際にラグジュアリーブランドに対する意識の変化は調査からも見て取れます。高級品に対しての消費傾向は世代間で大きく異なり、また本来なかった新しいラグジュアリーの捉え方も見受けられます。元来は歴史や伝統が大事とされてきた高級ブランドに、スポット的な新しさが求められる側面も。ステータスシンボルとして心を満たしてきた高級品は、投資商品としても見られるようになりました。特にプロシューマー層(トレンドを生み出し、社会の消費行動に影響を与える生活者グループ)になると、その傾向は顕著になっています。
この記事では成長しつつ変わりゆくラグジュアリー産業の、最新のビジネス事例を紹介しながら、生活者の意識の変化を探っていきたく思います。生活者の“贅沢”は近年どのように変化をしているのでしょうか?
「社会問題+国際化」の事例 Gucci - Changemakers
2019年、Gucci(グッチ)は「Changemakers」というプログラムを開始しました。このプログラムでは、才能がありながらも経済的な理由からファッション業界でのキャリアを築けなかった人材に、教育やネットワーキングの機会を提供。奨学金やコミュニティーへの投資を通して、若手デザイナーをサポートすることで、より開かれたファッション業界へと変容していこうという試みです。2024年現在も継続されており、多くの称賛を受けています。
本来ラグジュアリーブランドは「ユートピア(理想郷)」として捉えられてきた側面があります。“世俗から離れた存在であり、現実を忘れさせる夢を売ることが役割の一つである”といった論調です。しかし近年は、現実の社会的問題に対して声を上げ、アクションを起こすことを生活者が求めているようです。特に今回のグッチのように文化多様性に対する期待は大きいことが調査からもわかります。
また多様性に対する議論は、ラグジュアリーブランドの国際化についても考える必要があります。元来は欧米を中心として発展してきたラグジュアリーブランドですが、文化的な多様性を認めるということは、より他の地域にも国際化を推進していくということになります。それを生活者はどのように感じているのでしょうか?
結論から申し上げると、国際化はポジティブに捉えられていることがわかります。ラグジュアリー産業ではサヴォアフェール(長年の培った匠の技/ノウハウ)こそが、ブランド価値だと考えられていますが、それは伝統性(純血主義のような限定された継承性)ではなく、あくまで技術力の伝承だと、生活者は考えているのです。
これはラグジュアリーが欧米に限られたことでなく、より広い世界に開かれていることを意味しています。昨年、中国出身の女優ファン・ビンビンがカンヌ国際映画祭で連日異なるアジアデザイナーの服をお披露目したことが話題になりました(Tatler誌より)。このように、多様性や国際化は今後もラグジュアリー産業でも推進されていくものと考えられます。