消費者起点のメディアプランニングが不可欠に

近年、マーケティング業界は四つの環境変化に直面している。まずメーカーは、円安や原材料高による予算制約下で高い効果を求められ、小売では、企業統合による交渉力強化やD2Cブランドの台頭で競争が激化。一方、消費者の環境はAIをはじめとする情報技術の発達やコロナ禍以後の生活、働き方の影響が著しく、従来の手法でそのニーズを把握することは困難となっている。さらにショッパー環境もコロナ禍を機に買い物頻度が減少、事前の情報収集をともなう計画購買が主流となるなど、大きく変容している。
このような状況下では、従来のメディアプランニングは効果効率の悪化が避けられなくなっている。一つの解決策として、フェズが提案するのが「ファクトデータに基づいた消費者起点のプランニング」だ。

フェズが考える消費者起点のプランニングとは、購買データを活用し、消費者から購買までを一気通貫で最適化していくことを指す。具体的には、消費者調査から始まり、テレビCMやデジタル広告による大規模リーチ、小売のECサイトやメルマガによるプロモーション、そして店内のサイネージやポップによる購買促進まで、すべてのタッチポイントを包括的に捉えるものである。こうすることで、消費者のニーズを捉えた「効果のあるマーケティング活動」を効率良く実施することが可能になる。
しかし現状では、各タッチポイントが個別に最適化される傾向が強い。たとえば広告クリエイティブの効果で見てみると、視聴・ブランドリフト指標では優れた結果を示すクリエイティブが購買関連の指標では伸び悩むといった「ねじれ現象」が約3分の1から4分の1の頻度で発生しているという。

単なる「小売企業が持つメディア」ではない。リテールメディアのカバー領域とは
フェズではリテールメディアを消費者起点のプランニングを実現するものとして考えている。単なる「小売企業の持つメディア」という狭義の解釈を超え、「消費者・購買データ・各タッチポイントをつなげ、一気通貫でプランニング・施策の実行・効果検証可能なメディア」としてリテールメディアを捉えているという。
リテールメディアがカバーする領域は、主に三つに分類される。まず、アナリティクス領域。これは消費者やメディア視聴者などのユーザー分析を行う分野だ。続いて、広告・販促領域があり、これはデジタル広告やアプリ広告などの広告配信を扱う分野。そして検討領域では店舗内のデジタルサイネージやビーコンを活用したプロモーションを行う。

では、「一気通貫」を前提とした場合、具体のアプローチはどのように変わり、それはどのような仕組みで行われるのか。セッションでは実践例が語られた。
量も質も最適化へ。購買データの「広範さ」「一般性」「自由度」が選ぶ基準に
フェズでは、先述の三つの領域を支えるソリューションとして、国内最大級のリテールデータプラットフォーム「Urumo(ウルモ)」を展開している。今回はリーチの最適化にフォーカスした「Urumo Ads(ウルモ アズ)」の活用事例が紹介された。

購買データを活用するデジタル広告配信ソリューション「Urumo Ads」は、主に「ターゲティング精度の向上」と「購買効果の可視化」を実現。従来のメディア・ターゲティングの購買検証から、購買履歴に基づくピンポイントの広告配信まで、幅広い用途に対応するほか、事前に高い親和性を持つセグメントを分析・特定することで、リーチの最適化を実現できる。これにより、従来のリテールメディアが直面していた規模の確保という課題を解決しつつ、同時に広告配信の質的向上も達成することが可能となっている。
システムの基盤となっているのは、全国13流通1,100万人を超える分のIDと購買データだ。これらのデータを外部メディアと突合させることで、高精度なターゲティングと効果測定を実現している。
根津氏によると、「Urumo Ads」を選んだ企業の多くはその理由として主に次の三つを挙げる。まず、全国47都道府県をカバーする13流通の広範なデータベースを有していること。そして、経済産業省が発表している消費財領域における売上構成比と近似する一般性の高いデータを保持していること。最後に、第三者提供の許諾を得た高精度かつ自由度の高いデータを活用できることである。

ブランドリフト単価が従来比55%減 “購買親和性”を数値化
根津氏は、ある食品企業の活用事例を語った。同社では、購買層が広範であるため、効果的なターゲティングが課題となっており、そこで「Urumo Ads」を活用することにしたという。
「Urumo Ads」のターゲティングは、購買データに基づいてピンポイントに配信する「購買ターゲティング」、購買データと媒体データを掛け合わせた「類似オーディエンス」、そして後述する特許技術を用いた「セグメントファインダー」の3種類となっている。

同社では、通常の広告配信に、購買ターゲティング、セグメントファインダーの配信を加えた3種類を同時に実施することに。併せて行ったブランドリフト調査で比較検証したところ、通常配信を基準値100とした場合のブランドリフト単価指数がセグメントファインダーでは55%削減と、大幅な効率改善を実現した。

セグメントファインダーの仕組みについて、根津氏は次のように説明する。
「セグメントファインダーは、GoogleやSmartNewsなどのメディアプラットフォームが持つターゲティングデータと『Urumo Ads』の購買データを突合させることで、広告配信前に各ターゲティングセグメントの購買との相関を分析し、最も効率的なセグメントを特定できます。つまり、リーチの質と量を両立できるのです」(根津氏)
セグメントファインダーを活用すれば、施策の目的に応じて、下図に挙げられているような各セグメントの“購買親和性”を数値化。配信すべき/除外すべきセグメントが可視化され、購買親和性の高いユーザーへの配信が可能になる。これにより、広告視聴率の向上、配信単価の低減、リーチの拡大が実現し、認知指標から購買指標まで、包括的な効果向上が期待できるという。

「私はプロテイン愛飲者であるため、プロテインの広告を目にすれば気になり視聴します。一方、興味のない商材、たとえば女性向けのスキンケア商材などの広告を目にしても自分ごと化して見ようとは思いません。購買親和性の高い人に配信すれば視聴率が良くなることは自然な流れです」(根津氏)
購買リフト28%改善 多角的なレポートがPDCAに好影響
多種のタッチポイントに向けた施策を一気通貫で行っていくことを目指すなら、それに見合ったレポーティングが可能かどうかもソリューションの選定で重要視される基準の一つだろう。
根津氏によると「Urumo Ads」のレポーティング機能は、高精度な突合データに基づく実数値を提供している。特筆すべき点は、広告接触者と非接触者それぞれの購買推移を、施策実施期間と前期間で比較することで純粋な広告効果を可視化できることだ。さらに、クリエイティブ別、ターゲティング別、性年代別の分析や、LTV観点での長期的効果測定など、多角的な分析が可能となっている。

活用事例として、あるオーラルケア商材のケースが挙げられた。第1弾施策でYouTubeとGoogleディスプレイネットワーク(以下、GDN)を活用し、YouTubeではセグメントファインダーを基にターゲティング検証、GDNではクリエイティブ検証を実施。それぞれの結果を基にYouTubeで第2弾施策を実施した結果、ブランドリフトは35%、購買リフトは28%の改善を実現している。

購買データ×生成AIで「潜在顧客の可視化」へ
続いて消費者起点のプランニングのアナリティクス領域を支えるソリューションとして挙げられたのが、生成AIを活用した新たなBI機能「Urumo BI」だ。
「Urumo BI」は1,100万人分の購買データに加え、成分情報などの外部データをAIで分析し、顧客クラスターを自動生成する。これにより、データ分析に関する専門的な知識やスキルなしに、購買データの分析設計や実行、分析結果の解釈を簡単に行うことが可能になる。

たとえばヘアケア商材の分析事例では、約15分で顧客クラスターが生成され、各クラスターの人数構成比や価値観、購買傾向が言語化される。さらに、これらのクラスターを製品カテゴリーごとにマッピングすることで、商品間の相性や市場の空白領域を視覚的に把握するなど、潜在顧客の可視化ができるようになる。
また、特定されたクラスターは「Urumo Ads」の購買ターゲティングに活用できるほか、より広範な購買親和性の高い顧客層への配信や、クラスターごとの詳細な効果分析にも対応している。これにより、消費者理解から購買促進までの一気通貫したマーケティング施策の実現が可能となるわけだ。

根津氏は今回のセッションのまとめとして要点を整理した。改めて挙げられたのは著しい環境の変化、消費者起点のメディアプランニングの必要性が高まっていること。その実現には購買データを活用し、消費者から購買までを一気通貫で分析・実行・検証する必要があるということだ。フェズではこれらの課題に対して「Urumo Ads」や「Urumo BI」などのソリューションを引き続き開発・提供し、今後も統合的なマーケティング戦略を支援していくという。根津氏は「気になる点がある方はぜひお知らせください」と参加者に伝え、セッションを終えた。
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