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愛されるブランドの仕組み:ブランド・リレーションシップ入門講座

最適なリレーションシップ・スタイルの選択と顧客のブランド経験をデザインする3つのポイント【第8回】

自社に適したスタイルの選び方

 ブランドのアイデンティティが顧客にgratify、enrich、enablingという3つの要素のいずれかを十分に提供できるものであれば、プロパティー・アプローチを採用することができるでしょう。また顧客との間に並ぶ関係を構築し、彼・彼女らに柔軟に寄り添えるブランドであれば、パートナーシップ・アプローチを採用することができるでしょう。

 ブランドの中には、プロパティー・アプローチとパートナーシップ・アプローチの双方を両立できるものもあるし、逆にいずれにも適さないブランドもあります。したがって、まずそのブランドのアイデンティティを十分に理解した上で、ブランド・リレーションシップを形成できる見込みがどの程度ありそうか、またプロパティー・アプローチとパートナーシップ・アプローチのそれぞれがどの程度適しているかを冷静に検討することが必要です。

 こうしてプロパティー・アプローチを目指すか、パートナーシップ・アプローチを目指すか、あるいは両方を組み合わせていくか、つまりリレーションシップのスタイルが定まっていきます。

顧客のブランド経験をデザインする3つのポイント

 リレーションシップのスタイルが定まったら、いよいよ顧客のブランド経験をデザインしていく段階です。当然のことながら、顧客のブランド経験は企業の思いのままにはなりません。むしろそれは顧客自身の私的な経験であったり、身近な他者(家族・友人・同僚など)とのやりとり、あるいはソーシャル・メディアやウェブサイトからの影響によるブランド経験であったりします。

 しかしその一方で、こうした経験が、企業のマーケティング活動と完全に無関係というわけでもありません。日々のマーケティング活動が、それらに影響を及ぼすこともあります。

大切なのは「日常的なマーケティング」の積み重ね

 ブランド・リレーションシップの代表的な研究者であるフルニエは「ブランドが活動的なリレーションシップ・パートナーとして見なされるために、騒々しい戦略に携わる必要はない」(Fournier, 1998, p.345)と指摘しています。

 その理由は「マーケティング計画や戦術の日々の実践が、ブランドが消費者との関係における自らの役割を遂行するためにとった行動として解釈されうる」(同)からです。フルニエが指摘するように、ブランド・リレーションシップは日常的なマーケティング・ミックスの積み重ねによって形成されていきます

 こうした観点から、ブランド・リレーションシップの形成に結びつく顧客のブランド経験について考えてみましょう。ポイントは3つあります。

ポイント1:自己相似的なアイデンティティ展開

 まず、ブランド・リレーションシップの形成で大切なのは、ブランドのアイデンティティを隅々にまで浸透させることです。ファンが多いブランドを見回すと、いつ、どこから見ても、そのブランドの「らしさ」が一貫していることに気づくと思います。

 私はこのような状態を「自己相似的なアイデンティティ展開」と呼んでいます。自己相似性とは、自然科学分野で用いられることの多い概念であり、部分と全体が相似していることをいいます(代表例がロマネスコ)。自己相似的なアイデンティティ展開は私の造語ですが、ブランドのアイデンティティの一貫性を表すのに適切な言葉だと考えています。

画像を説明するテキストなくても可
自己相似性をもつ野菜のロマネスコ

 自己相似的なアイデンティティ展開が達成されている場合、マーケティング要素のいかなる細部を拡大したときにでも、そこからブランド・アイデンティティが再現されることになります。これは容易なことではありませんが、ブランド・リレーションシップの形成において常に意識すべき重要な事柄です。

 自己相似的なアイデンティティ展開は、ブランドの理念、哲学、モットー、パーパスといった抽象的な概念が、設計思想、デザイン、素材や製造方法、鍵となる製品特徴、使用場面といった具体的次元に染み込むことで達成されます。また組織のメンバー(従業員)がブランドのアイデンティティを十分に理解していることも大切です。

ポイント2:ブランド・セイリエンスの維持

 自己相似的なアイデンティティ展開とともに大切なのが、ブランド・セイリエンスです。第5回で紹介した「プロパティー・パートナー・モデル」からも明らかなように、常にそのブランドを意識してもらい、心の中で中心的位置を占有することは、ブランド・リレーションシップの形成のポイントです。

 複数のタッチ・ポイントを組み合わせてブランドへの接触頻度を高めることは、ブランド・セイリエンスを維持するための有効な手段となります。ブランド製品そのものへの接触はもちろん、ネーム、ロゴ、シンボル、スローガンといったブランド要素への接触頻度を高められれば、ブランド・セイリエンスを高い状態で維持することが可能です。

次のページ
ポイント3:記憶を創るコミュニケーション

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この記事の著者

久保田 進彦(クボタ ユキヒコ)

青山学院大学 経営学部教授、博士(商学)(早稲田大学)。日本商業学会学会賞受賞(2007年論文部門 優秀論文賞、2013年著作部門 奨励賞)、公益財団法人吉田秀雄記念事業財団助成研究吉田秀雄賞受賞(2010年度、2016年度)。最新作は『ブランド・リレーションシップ』(有斐閣)他著書多数。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/03/25 09:00 https://markezine.jp/article/detail/48358

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