情報性を盛り込み説明するより、感情の起伏を生むほうが効果的
次に、2つ目の「説明的なCMや広告よりも『何これ?』と思えるCMや広告のほうが好き」という広告表現嗜好について、タイパ意識の影響を考えます。
まず、説明的なCMや広告が好まれにくいことも、タイパ意識とのつながりで解釈できます。素早く情報を得たいと思う若者世代にとって、説明を見聞きし理解する時間と労力はなるべく減らしたいところでしょう。その意味で、「何これ?」と思うCMや広告はタイパ意識的に逆効果であるようにも考えられますが、実はそうではないのです。
「何これ?」と思う広告を見たときには、違和感や面白い、楽しいなどの感情がまず印象に残ります。ある食品シリーズのCMでは、人気楽曲を中毒性のあるアレンジに変えるなどの工夫を入れつつ、訴求したい内容をユニークに描くことで、多くのクリエイティブで高い評価を獲得しています。
このようなCMに触れると、情報性よりもこの違和感や感情に起因する印象が先行し、結果的に情報や内容を理解する労力が省かれている可能性があります。このように考えると、タイパ意識が強い若者世代にとって、結果的に「何これ?」というCMや広告が好まれる理由が見えてきます。
アテンション要素が強いCMや広告は、時間をかけずに情報に接触できる“タイパ”意識ととても相性が良く、そうしたCMとの接触が繰り返されるうちに、ますますアテンション要素の強いCMや広告への嗜好性が高まっていく。結果アテンション要素が強いCMや広告に注目するという世代意識をさらに強めていく――そんな構造がありそうです。要は、“タイパ”意識が若者世代の特性を作るエンジンとなっているのです。
ここまで、筆者独自の考察を中心に論じましたが、若者世代固有の広告意識を形成している要因の一つとして“タイパ”意識が根底となり世代特性を作っているのであれば、非常に興味深い結果であると思います。
考察のまとめ
今回は、ビデオリサーチ「ACR/ex」のデータを基にした若者世代の広告意識について探ってみました。
若者世代(2000年生まれ以降の人)はコーホート分析の世代効果として、「目や耳にとまるフレーズ(コピー)があるCM・広告」「説明的ではなく『何これ?』と思えるCM・広告」にポジティブな反応を示すという世代特性がわかりました。
このような世代意識形成の背景として、様々な広告に囲まれていることに起因しつつも、タイパ意識による世代意識の形成を考察しました。
広告クリエイティブを検討される際は、若者世代による、「アテンション要素が強いCMや広告」への注目が強まっていることも踏まえ、より工夫を加えたクリエイティブ表現で訴求する必要があると言えます。みなさまのクリエイティブ制作のヒントになれば幸いです。
