ANA Xが不正トラフィックに取り組む理由
「自社以外の誰かが不正トラフィック対策を行うべき」という考えが変わってきたのは、コロナ禍が開けた最近のことだ。
コロナ禍では人の移動が制限されて、航空や旅行の需要は大きく落ち込んだ。数年間は広告出稿も大きく減らしていたが、コロナ収束以降、以前のような広告展開も再開されるようになった。
「ちょうどその時期にAIテクノロジーが日々急速に進化し、世の中にだんだんと浸透し始めたこともあり、『近い将来AIテクノロジーも不正手段に悪用されるかもしれない』と考えるようになりました。今後需要が伸びていくなか、不正も右肩上がりに増えると考え、本格的な対策を講じる必要性を感じたのです」と石井氏は打ち明ける。
外岡氏は「不正トラフィック対策は広告代理店やプラットフォーマー側がやるべき」という意見に対し、広告主の立場を理解しながらも「やはりプラットフォーマーだけでは対応しきれません」という実情を話す。
巧妙化が進んでいる今、もはや他人任せでは済まされない状況だという。実際にANA Xの石井氏も「最近では、想定外の変動など明らかに不正トラフィックだと感じることが増えてきました」と同意する。
そこで石井氏は、チェク・ジャパンのセキュリティ診断を受けることを決断した。セキュリティ診断は、チェク・ジャパンから発行されるタグをページに入れ、そのページの1つひとつのアクセスについて、人間の挙動なのかボットのような機械経由の動作なのかを瞬時に判断し、レポートするというものだ。今回は有償広告だけでなく、Webサイトにダイレクトに来たアクセスについてもセキュリティ診断を行ったという。

ANA Xが1%の不正も見逃さない理由
セキュリティ診断の実施期間は2週間だった。MarkeZine Day 2025 Springでは、その診断結果の一部である「ディスプレイ広告・検索広告における不正トラフィックの割合」が示された。いずれの広告媒体も、不正トラフィックは全体の1〜2%程度だ。外岡氏は「われわれの平均から比べると決して高い割合ではありません」と評価する。

石井氏は結果を見て「想定の範囲内」と納得すると同時に、「全体的に広告出稿量が多いので、いくら不正トラフィック率が低くても合算するとこのまま放置はできず、急ぎ対策が必要な大きな金額になると認識した」と振り返る。
ただ、セキュリティ診断の結果を見る時には1つ注意が必要だ。外岡氏は「人間以外のトラフィックがすべて不正トラフィックとは限りません」と説明する。
一般に、不正トラフィックを行う自動化ツールの発信元はデータセンターやVPNとなることが多い。だからといって、データセンターやVPNからのアクセスがすべて不正アクセスというわけではない。チェク・ジャパンでは「VPN経由のアクセスで、ほかの疑わしいシグナルが発生した時に『不正』と見なしている」という。
さらにいえば、不正の定義は企業によって異なる。たとえばドメスティックなビジネスを展開する事業者であれば、海外からのアクセスは不正トラフィックである可能性が高いが、ANAグループのようにグローバルな航空事業を営んでいる場合、海外=不正と一概には言い切れない。一律なルールで不正と決めつけた場合、かえってビジネスチャンスを逸することになりかねないため、チェク・ジャパンでは「お客様ごとの定義を決めて検証する」という。
また、近年の不正トラフィックでは、自動化ツール以外に「ヘッドレスブラウザ(外部ヘッドレス)」が増加しているという。ヘッドレスブラウザとはGUIを持たないため広告表示が不要で、短時間に大量の不正クリックを繰り返す悪質な手法だ。
「このように、一口に不正トラフィックといっても手段はさまざまで、日々新しいやり方が生まれています。私たちチェク・ジャパンでは、このような不正トラフィックに対抗するため、2,000以上の検知項目を日々更新し、多岐にわたる不正手段に対応しています」と外岡氏は話す。
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