VARモデルをプラスで活用する意味
ここまで説明してきた回帰分析をはじめとする従来の手法には、次の重要な限界が存在する。
第一に、回帰分析では因果関係の正確な把握が困難だ。たとえば、気温低下とおでんの売上増加、気温低下とコートの売上増加の間には相関関係が見られても、おでんの売上増加がコートの売上増加の原因とは言えない。
第二に、回帰分析は定点的な分析になりがちだ。特定期間のデータを収集してモデルを構築するため、時間の経過にともなう変化を考慮することが難しい。マーケティングデータは流行トレンドや季節性による変動が大きいため、この限界は重要な課題だ。
これらの課題を補完する手段として、時系列モデルの活用が推奨される。VAR(ブイエイアール)モデルは複数の時系列データ間の関連性を分析するための統計モデルであり、KPIとKGIの時系列的な関係性や影響の大きさ、妥当性を推定できる。
特にKPI選定においては、要因へのショックがKGIにどのように伝播するかを可視化するインパルス応答(関数)を用いることで、それぞれのKPI候補がKGIに与える影響の大きさと持続時間を比較可能だ。
たとえば、要因AとBが回帰分析で影響があるとわかった場合、インパルス応答(関数)により、要因Aのほうが長時間にわたって大きな効果をもたらすことが判明すれば、KPIとして要因Aを採用するという判断が可能になるだろう。

「結論として、マーケティングデータ分析では、まず担当者の知見や経験を基に要因を洗い出し、回帰分析モデルでKGIへの寄与度を算出することが基本アプローチです。しかし、知見や経験だけでは正確な関係性の特定は難しいため、VARモデルを併用して、回帰モデルで構築したKPIとKGIの関係性の妥当性を補完することが推奨されます」(矢野氏)
「膨大な情報」を「価値ある情報」へ
本講演で説明されたことは、次のようにまとめることができる。
マーケティングにおけるデータ分析の立ち位置
- データを情報に変え、意思決定に結びつけることで初めて価値を生む。
- 一般的な集計やグラフといった分析では解決が困難な課題がある。
- 課題解決や目的に応じた分析手法を選択する必要がある。
モデルを活用した顧客分析とKPI分析
- 経験則や定性的に洗い出した要因を統計モデルで定量化して、KGIとKPIの関係性を明確にすることで適切な情報に変換する。これにより、主観的な判断から客観的かつ明確な意思決定情報へと変換することが可能となる。
- 分析結果を実務に生かすためには、アウトプットを具体的な施策に落とし込み、その効果検証までを一連のプロセスとして捉える必要がある。
この内容が、皆さまのデータ分析と活用の知見を深める機会になれば幸いだ。